物置小屋

黒蝶

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いつだって、側に。(物念シリーズです)

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おはよう...。お、誰かに手紙でも書くのか?
本当に俺でいいのか?手紙なら、この前の新入りの方が向いてるんじゃ...随分ご機嫌だな、何かあったのか?
成程、久しぶりに書く手紙だからわくわくしてるのか。
ただ、それならなんで目に悲しみがこもっているんだ?...いや、悲しいというより、多分寂しいってやつだな。
あんたに相棒なんて呼ばれると、ちょっと照れくさいな。
たしかにだいぶ長い付き合いになるけど、出会ったときのことだってちゃんと覚えてるよ。
沢山の奴等がいるなか、俺を選んでくれてありがとう。
最近どこへでも一緒に行けるから、本当はすごく嬉しいんだ。
生憎、俺にはそれを伝える術がないが。
あの日のあんたは泣いてて、目には翳りがあった。
何に絶望したのかは知らないが、何故か目があった瞬間俺を選んだな。
あれは一体なんだったんだろうって、今でも時々考えるよ。
...まあ、今となってはなんとなく察知できるが。
今回書く相手もあのじいさんなんだろう?あんたみたいな孫を持って、きっと幸せだって思ってると思うよ。
ここだけの話だが、俺とふたりでいるときにじいさんが言ってたんだ。
手紙でも空元気なのが分かるから心配だってな。
...悪い、ちょっと疲れたみたいだ。
少し休んで...って、もう用意してたのか。
おう、ありがとな。俺はインクがないと仕事ができないし、あんたみたいに大事に使ってくる相手じゃないとここまで長生きできてない。
本当に感謝してるんだ。
廃棄寸前の、セールになってた俺のことを買ってくれたのがあんたでよかった。
ただ、最近じいさんに会わないのはなんでだ?
いつもなら7日に1回くらい会ってたのに...。
待て、どこに行くつもりだ?
書き終わった手紙を直接届けに行くのはいいが、今日も俺を一緒に連れていってくれるのか。
俺みたいに古くさいものを使ってくれるあんたのことだ、今夜こそきっとじいさんに会いに行くんだろう?
まあ、どこまでだってついていくさ。


石?岩?なんでこんなところに...ん?じいさん岩になったのか?
そうか、人はみな、死にむかって生きている。そして...人間はいつか必ず死ぬ。
会いに行かなかったんじゃない。もう、会えないんだな。
...辛いから、毎日あんなに泣いていたのか。
あんたは、じいさんの言葉をもっと聞きたかったんだろうな。
けど、どんなに遠く離れていても、じいさんがあんたのことを大切に想っているのは変わらない。
俺の筆先が折れないように調節してくれる手の温もりも、じいさんに向けてた優しさも...全部嘘じゃないだろう?
だから、あんたの想いだってきっと届く。
話す相手がいないなら、いつでも俺に話してくれればいい。
俺の言葉が伝わればよかったのにな...。
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物念シリーズ、今回は万年筆で綴ってみました。
割りと長く使っているものが多いので書きやすいです。
こんなふうに思ってくれているかなという想像でしかありませんが、本当にこんなふうに思っていてもらえると嬉しいです。
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