裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第60話

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「ガーゼとって」
「は、はい」
ピンセットを使って近くの清潔なケースの上に並べると、冬真はすごい速さで治療した。
「腕、動かしづらくない?」
「大丈夫。ありがとう」
雪乃はほっとしたように小さく息を吐く。
ただ、やっぱりいつもより緊張しているように見える。
「何があったか聞かせて」
「…探偵への依頼がきて浮気調査をしていたら、見張っていた男がラムネ屋さんの仲間だったみたい。
だから、そっちの意味で尾行していると勘違いされて襲われた」
「雪乃は、探偵さんもやっているんですか?」
「うん。浮気調査や極秘の依頼…やることは内容によって違うけど、遠くへ行くもの以外は基本的に受けてる」
なんだか雪乃も冬真も頑張りすぎている気がする。
ひとりで抱えて、全てのことをこなそうとしているように見えた。
「雪乃まで狙われる可能性があるなら、少し手を変えた方がいいかもしれない」
「ラムネ屋さんのこと?」
「うん。一先ず雪乃は春人さんのところにいて。…すっかり忘れてたけど、今夜ひとりお客さんが来るんだ」
冬真は申し訳なさそうに私を見た。
「本当にごめん。こんなぎりぎりまで忘れてるなんて…」
「いえ。どんな方なんですか?お部屋は用意しておいた方がいいでしょうか?」
「あそこの部屋に布団を用意しておいてほしい。押入れのを出しておいてほしいんだ」
「分かりました」
誰かを泊めるということは、その人が切羽つまった状況に陥っているということだ。
困っている人を助けたいという冬真の気持ちを大切にしたい。
「月見」
「はい」
「ありがとう。あなたが手当てしてくれたおかげで助かった」
雪乃はそう言って心配そうにこちらを見ている。
「私は大丈夫です。だから、そんなに不安がらないでください」
「…うん。ありがとう」
雪乃と冬真が話すのを邪魔したくなくて、そのまま奥の部屋で言われたことをやる。
ほとんど毎日掃除をしていたからか、あんまり汚れているところはなかった。
雪乃がお礼を言って帰っていく音と同時に、誰かが建物に入った音がする。
「いらっしゃい。連絡をくれたのは君?」
「は、はい」
その少年の姿は、昔の私を見ているみたいだった。
ぼろぼろの服にぼろぼろのリュック、何かに怯えている様子…。
「お部屋の準備ができました」
「ありがとう。君の部屋はそっちだから案内するね」
やっぱり言い方がいつもより柔らかい。
相手を怖がらせないようにする為だと冬真は言っていたけれど、本当に優しくない人ならあんなふうに話したりしないだろう。
「後で部屋に行くからスノウと待ってて」
すれ違いざまにそう言われてただ頷く。
冬真を待っている間に日記を書くことにした。
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