裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第34話

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「…もうできたの?」
「は、はい」
「いただきます」
作ったことはあるけれど、食べたことがない料理というものは沢山ある。
今日はオムライスにしてみたものの、どうするのが正解か分からないまま作った。
「僕、こういうふわふわとろとろな卵のオムライスが好きなんだ。…美味しい」
「ありがとうございます」
食べてもらえなかったらと心配になっていたけれど、美味しいと言ってもらえてほっとした。
その直後、冬真は何故か急いで窓を開ける。
真っ白な翼がばさばさと動いていた。
「おかえり、スノウ」
ほう、とひと鳴きしたスノウの足には、また手紙がくくりつけられている。
「ご苦労さま。ごめん、少しだけ仕事する」
「は、はい」
「見られたくないものはやらないからいてもいいけど、煩いと思ったら言って」
「わ、分かりました」
そう話した彼は、かたかたと機械をいじりはじめる。
こうなると私にできることはないので、結局一旦部屋に戻ることにした。
花の水を換えて、そのままベッドに倒れこむ。
まだやりたいことがあるのに、起きあがる元気がなかった。
「…スノウ?」
何かが飛んでくる気配がして名前を呼ぶ。
すると、スノウは近くにとまって羽を動かしていた。
「足の怪我はもう大丈夫ですか?」
返ってきた声は大丈夫だと言っている気がして、ほっとする。
何かをやろうと思っていたはずなのに、すっかり忘れてしまった。
「このお花、とても綺麗ですね。私は好きです」
スノウに話しかけながら、勢いよく体を起こす。
冬真が無理をしていないか心配になった。
ずっと働きづめではいつか体を壊してしまう。
休んでもらえるようにお願いしようと部屋を出ると、彼はとても複雑な表情を浮かべていた。
「あ、あの…飲み物、淹れましょうか?」
「紅茶がいい」
「分かりました」
キッチンに立つと、またかたかたという音が鳴り響く。
失敗しないように気をつけていたつもりだったのに、うっかり手の甲にお湯をかけてしまった。
「あ…」
ポットだけでも受け止めようと思ったのに、床にお湯をばら撒いてしまう。
どうしようと慌てていると、冬真が駆け寄ってきた。
「そのまま動かないで」
「え、あ、」
「大丈夫だから少し落ち着いて」
冷たい水がかかったのに吃驚して、思わず手をひっこめそうになる。
「ごめん。冷たいと思うけど少しだけそのままでいて」
「分かり、ました」
やっぱり痛いと感じたけれど、こんなふうに手当てしてもらえるのはありがたい。
後ろを振り向こうとした瞬間、思った以上に冬真との距離が近いことに気づく。
今まで意識したことなんてなかったのに、そう考えると心が熱い。
どうしてこんなにぽかぽかしているのか、自分でも分からなかった。
…いつかそれを知ることができるだろうか。
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