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冬真ルート
第33話
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救急車というものを見たのは初めてで、音の大きさに少し吃驚してしまう。
「ありがとう。助かったよ」
「い、いえ…」
「取り敢えずこれ着て」
「え?」
冬真が着ていた上着を渡されて、その意味を理解できないまま首を傾げる。
すると彼は、ぐっと私を抱き寄せた。
「…シャツ、ぼろぼろになっちゃったでしょ?」
「あ…ご、ごめんなさい」
「謝らなくていい。悪いことをしたとか僕が怒ってるとか、そういうのはないから」
「分かりました」
冬真のパーカーは少し大きくて温かい。
腕を通しただけですごく安心できるのはどうしてだろう。
「ふたりとも仲良しなんだね」
「別に。普通だと思うけど」
「そんなに照れなくてもいいのに」
「別に照れてない」
雪乃と冬真がひとしきり話したところで、誰かお客さんがやってきた。
「今日はもう帰った方がいい」
「分かった。…行こう」
「は、はい」
「またね」
冬真に手をひかれて歩き出す。
すれ違う瞬間、雪乃がポケットに何かを入れてくれた。
「ごめん。結局こんなことになって…」
「いえ。かっこよかったです」
「え?」
振り向く冬真にただ思ったことを話す。
「私では、あんなに早く手当てすることができません。それに、倒れた人を見て咄嗟に体が動くのはすごいことだと思います。
私はただ、使えそうな布を渡しただけで…人を救えるのはかっこいいです」
何も言葉が返ってこなくて、思わずその場に立ち止まる。
怒らせてしまったかもしれない…不安に思って顔をあげると、冬真は耳まで赤くなっていた。
「あ、あの…」
「そんなふうに言われたことなかった。僕はただ、誰にも死んでほしくないだけ。
その為にあの場でできることをしただけだよ。一応医者だし血は見慣れてる」
「それでも、やっぱりすごいと思います」
正確な判断をあんなにすぐできるなんて、誰にでもできることじゃない。
「僕から見れば、君の行動の方が勇気あるものだと思うけどね」
「私はただ、」
「君にとってのただの行動は、誰かにとってはすごいことなんだ。
もし僕が君の立場だったら、きっとそんなふうに自分の洋服を全く知らない誰かの為になんて思わなかっただろうから」
漆黒の髪を揺らしながらこちらを振り向いた彼は、とても優しく微笑んでいた。
「あの行動で救われた命がある。…そのことをもっと誇っていいんじゃないかな」
冬真は本当に優しい。
それに、周りのことをよく見ている。
どんなことを調べているのか、私に何ができるのかなんて分からない。
あの場所まで帰り着いたら冬真が好きなものを作ろう。
今の私にできるのは、彼の疲れが少しでも癒えるようにご飯を美味しく食べてもらうことだけだから。
「ありがとう。助かったよ」
「い、いえ…」
「取り敢えずこれ着て」
「え?」
冬真が着ていた上着を渡されて、その意味を理解できないまま首を傾げる。
すると彼は、ぐっと私を抱き寄せた。
「…シャツ、ぼろぼろになっちゃったでしょ?」
「あ…ご、ごめんなさい」
「謝らなくていい。悪いことをしたとか僕が怒ってるとか、そういうのはないから」
「分かりました」
冬真のパーカーは少し大きくて温かい。
腕を通しただけですごく安心できるのはどうしてだろう。
「ふたりとも仲良しなんだね」
「別に。普通だと思うけど」
「そんなに照れなくてもいいのに」
「別に照れてない」
雪乃と冬真がひとしきり話したところで、誰かお客さんがやってきた。
「今日はもう帰った方がいい」
「分かった。…行こう」
「は、はい」
「またね」
冬真に手をひかれて歩き出す。
すれ違う瞬間、雪乃がポケットに何かを入れてくれた。
「ごめん。結局こんなことになって…」
「いえ。かっこよかったです」
「え?」
振り向く冬真にただ思ったことを話す。
「私では、あんなに早く手当てすることができません。それに、倒れた人を見て咄嗟に体が動くのはすごいことだと思います。
私はただ、使えそうな布を渡しただけで…人を救えるのはかっこいいです」
何も言葉が返ってこなくて、思わずその場に立ち止まる。
怒らせてしまったかもしれない…不安に思って顔をあげると、冬真は耳まで赤くなっていた。
「あ、あの…」
「そんなふうに言われたことなかった。僕はただ、誰にも死んでほしくないだけ。
その為にあの場でできることをしただけだよ。一応医者だし血は見慣れてる」
「それでも、やっぱりすごいと思います」
正確な判断をあんなにすぐできるなんて、誰にでもできることじゃない。
「僕から見れば、君の行動の方が勇気あるものだと思うけどね」
「私はただ、」
「君にとってのただの行動は、誰かにとってはすごいことなんだ。
もし僕が君の立場だったら、きっとそんなふうに自分の洋服を全く知らない誰かの為になんて思わなかっただろうから」
漆黒の髪を揺らしながらこちらを振り向いた彼は、とても優しく微笑んでいた。
「あの行動で救われた命がある。…そのことをもっと誇っていいんじゃないかな」
冬真は本当に優しい。
それに、周りのことをよく見ている。
どんなことを調べているのか、私に何ができるのかなんて分からない。
あの場所まで帰り着いたら冬真が好きなものを作ろう。
今の私にできるのは、彼の疲れが少しでも癒えるようにご飯を美味しく食べてもらうことだけだから。
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