裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
263 / 385
秋久ルート

第27話

しおりを挟む
これからどうなるんだろうと不安に思いながら、私は今甘栗の近くで料理をしている。
「もう少しでできあがるので、待っててくださいね」
座っているのを気にしながら少しずつ仕上げていく。
「悪いな、お嬢ちゃん。任せっきりにして」
「いえ。料理をするのは好きなので…。朝ごはん、もうすぐ完成します」
「ああ。ありがとう」
あれからそのまま冬真さんに泊めてもらったので、そのお礼も兼ねて何かしたかった。
ただ、私にできるのはこんなふうにご飯を作ることだけだ。
まだ起きてきたところを見てないけれど、もしかして早起きが苦手なのだろうか。
「冬真さんは、まだ寝ているんですか?」
「昨日遅くまで色々やってたみたいだからな。もう少し寝かせてやりたい」
「分かりました」
そう答えながら、ひとつ気になっていることがある。
「あの、秋久さんは何をしているんですか?」
「ん?ああ、仕事で必要な手袋に穴が開いててな。昔から使ってるものだから直してみようと思ってる」
大切なものなのに私なんかが言ってしまっていいのか迷ったけれど、秋久さんにはずっとお世話になしっぱなしだ。
もっとできることがあるならやってみたい。
「私が直してみても、いいですか?」
「お嬢ちゃん、縫い物が得意なのか?」
「得意かどうかは分からないです。ただ、前にいた場所で自分の服を修繕するくらいならやっていました」
「…成程、だから持ってた服のほとんどに綺麗な手縫いの形跡があったのか」
「あの…?」
「悪い、こっちの話だ。お嬢ちゃんの腕を見込んで頼んでいいか?」
「私でよければ、頑張ります」
ちゃんと綺麗になるように頑張ろうと心に決めて、早速持ち歩いていた裁縫道具を取り出す。
「本格的だな」
「そんなことないと思います」
本当なら、素直にありがとうと伝えるのがいいのかもしれないけれど、どうしても真っ直ぐ受け取ることができない。
「すぐ仕上げますね」
「ありがとう」
その穴は思ったよりも小さくて、5分くらいで完成した。
その様子をずっと見られていたのか、秋久さんはただぽかんとした表情でこちらを見ている。
「あ、あの…」
声をかけると、何故か彼は笑い出した。
「ごめんなさい。どこかおかしかったでしょうか?」
「いや、そうじゃなくて…まさかここまで綺麗に直ると思ってなかったんだ。それに、もはやプロ並みの早さだと思って見てた。
お嬢ちゃんができたそれは、決して誰にでもできることじゃない。それだけは覚えておいてくれ」
「ぜ、善処します」
「よろしい」
直したものを手渡すと、秋久さんはとても複雑そうな表情をしていた。
失敗したかもしれないと思ったけれど、そういうわけではないらしい。
喜びと切なさ、悲しみ…色々な感情がごちゃごちゃと混ざっている。
「急に頼んだのに、丁寧に直してくれてありがとな。これからも大切に使うことにする」
「役に立ててよかったです」
態度に疑問を感じながら、取り敢えず失敗したわけではなさそうだということに安心する。
もしかすると、さっき直したものに対して大切以外の感情があるのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...