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秋久ルート
第26話
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秋久さんが声をかけてくれて、一緒に夜食をいただくことになった。
「最近振り回してばかりで悪い」
「いえ。私は、楽しいので…」
「楽しい、か。それはよかった」
何か言葉をかけようとすると、夏彦さんたちが声をかけてくれた。
「月見ちゃんもこっちにおいでよ。甘栗が寝てるならってことになるのかもしれないけど」
「えっと、お邪魔します…?」
「いらっしゃい。準備しておくね」
あんまり上手く話せなかったけれど、それでも夏彦さんは笑って別の部屋へ行ってしまった。
扉を開けると、春人さんと冬真さんがにらめっこしている。
「相変わらず手強いですね」
「それ、春人さんが言うの?」
「ふたりとも、チェスは程々にして夜食にするぞ」
秋久さんの声を合図にふたりも立ちあがる。
チェスというものを見るのは初めてで、白と黒の駒がきらきらしている気がした。
「気になるか?」
「初めて見たので、少し気になって…綺麗だなって思ったんです」
「後でやってみるか?」
「え?」
秋久さんは別のボードをどこかから取り出して、いつもみたいに大人な笑みを浮かべた。
「チェスはルールが難しいから、まずはオセロでもやってみよう。どっちも頭を使わないといけないから、夜食を食べてからな」
「分かりました」
オセロというものも見たことはあってもやったことはない。
どんなふうにやるのか想像しながら、ゆっくり夜食を食べ進めた。
「ごちそうさまでした」
「どうだった?」
「美味しかったです」
「そうか。じゃ、片づけたら始めようか」
「お、お願いします」
どんなルールがあるのかまだ分からないけれど、なんとかやってみようと決意する。
簡単に説明してもらってから白い駒を握って、少しずつ盤を自分の色に染めていく。
「お嬢ちゃん、なかなかやるな」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ。上手く戦略が組めていると思う」
「ありがとうございます」
褒めてもらえたのが嬉しくて、1枚、また1枚とひっくり返していく。
「え、月見ちゃん本当に初めて?」
「…?はい、そうです」
「すごいね。まさかアッキーがここまで負けるとは思ってなかった」
自分では分からないけれど、そんなに強いのだろうか。
たしかに秋久さんの黒はあまり見当たらない。
ただ、なんとなく手加減してくれているような気がする。
「隙あり」
「あ…」
四角のうちのひとつを取られて、一気に黒く染まっていく。
追いこまれたことに気づいたときには遅かった。
「負けました」
「アッキー大人気ない…」
「全力でやらないと相手に失礼だろ?…お嬢ちゃん、楽しめたか?」
「はい。負けてしまったけど、楽しかったです」
「それはよかった」
次までにもっと強くなれるだろうか。
ふとキッチンに目を向けると、砂時計からさらさらと砂が半分くらい落ちていた。
「最近振り回してばかりで悪い」
「いえ。私は、楽しいので…」
「楽しい、か。それはよかった」
何か言葉をかけようとすると、夏彦さんたちが声をかけてくれた。
「月見ちゃんもこっちにおいでよ。甘栗が寝てるならってことになるのかもしれないけど」
「えっと、お邪魔します…?」
「いらっしゃい。準備しておくね」
あんまり上手く話せなかったけれど、それでも夏彦さんは笑って別の部屋へ行ってしまった。
扉を開けると、春人さんと冬真さんがにらめっこしている。
「相変わらず手強いですね」
「それ、春人さんが言うの?」
「ふたりとも、チェスは程々にして夜食にするぞ」
秋久さんの声を合図にふたりも立ちあがる。
チェスというものを見るのは初めてで、白と黒の駒がきらきらしている気がした。
「気になるか?」
「初めて見たので、少し気になって…綺麗だなって思ったんです」
「後でやってみるか?」
「え?」
秋久さんは別のボードをどこかから取り出して、いつもみたいに大人な笑みを浮かべた。
「チェスはルールが難しいから、まずはオセロでもやってみよう。どっちも頭を使わないといけないから、夜食を食べてからな」
「分かりました」
オセロというものも見たことはあってもやったことはない。
どんなふうにやるのか想像しながら、ゆっくり夜食を食べ進めた。
「ごちそうさまでした」
「どうだった?」
「美味しかったです」
「そうか。じゃ、片づけたら始めようか」
「お、お願いします」
どんなルールがあるのかまだ分からないけれど、なんとかやってみようと決意する。
簡単に説明してもらってから白い駒を握って、少しずつ盤を自分の色に染めていく。
「お嬢ちゃん、なかなかやるな」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ。上手く戦略が組めていると思う」
「ありがとうございます」
褒めてもらえたのが嬉しくて、1枚、また1枚とひっくり返していく。
「え、月見ちゃん本当に初めて?」
「…?はい、そうです」
「すごいね。まさかアッキーがここまで負けるとは思ってなかった」
自分では分からないけれど、そんなに強いのだろうか。
たしかに秋久さんの黒はあまり見当たらない。
ただ、なんとなく手加減してくれているような気がする。
「隙あり」
「あ…」
四角のうちのひとつを取られて、一気に黒く染まっていく。
追いこまれたことに気づいたときには遅かった。
「負けました」
「アッキー大人気ない…」
「全力でやらないと相手に失礼だろ?…お嬢ちゃん、楽しめたか?」
「はい。負けてしまったけど、楽しかったです」
「それはよかった」
次までにもっと強くなれるだろうか。
ふとキッチンに目を向けると、砂時計からさらさらと砂が半分くらい落ちていた。
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