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冬真ルート
第16話
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何人かの話し声を聞きながら、窓を開けて空を見上げる。
月明かりを温かく感じていると、ばさばさと羽音がして目の前で翼がはためいた。
「スノウ…?」
また足に手紙のようなものが巻きつけられていたけれど、やっぱり勝手に読む気にはなれなくてそのままにしておく。
腕を前に出すと肩にとまってくれて、満足そうに鳴き声をあげた。
「お話、まだしているみたいなので…もう少ししたら一緒に言ってみましょう」
しばらくスノウと話していると、扉がゆっくり開かれる。
「やっぱりここにいた」
「ごめんなさい。窓を開けていたら、その…」
「別に怒ってるわけじゃない。スノウは君を気に入ってるみたいだし、帰ってきてたならそれでいいんだ。
…申し訳ないんだけど、この点滴を受けてもらっていい?」
「分かりました」
「この前血液検査をしたの、覚えてる?」
点滴の準備をしながら、冬真さんはそんなことを訊いてくる。
「たしか、注射器で血をとって…」
「うん。それで、結果があんまりよくなかった」
「そうなんですか?」
「君の体、栄養不足なんだ。今までどうやって生きていたんだろうって不思議になるくらい、あらゆる栄養が足りてない。
これは、それを一時的にでも補う為に必要なものなんだ」
自分がそんな状態だなんて知らなかった。
たしかにここでの生活とは違う。
あの場所では、1日1食食べられればいいと思っていた。
飲み物は勝手に飲んだらいけなかったし、おやつもご飯も自分のものは作ることを許されていなかったのだ。
それが当たり前で、あとは時々蕀さんたちから育つ野いちごをこっそり頬張るのを楽しみにしていた。
「あ、あの」
「どうしたの?」
「1日3回食べるのが、普通なんですか?」
「…通常はね。おやつを入れて増えることはあっても、3回が理想だとは言われているらしい。
まあ、僕も一時期まともにご飯を食べられなかったことがあるから、酷い状態になるのも分からなくはない。…ご飯、今の量で足りてる?」
「充分すぎます。いつも美味しいですし…」
「……そう」
その表情は柔らかいもので、冬真さんのそんな姿を見ているとなんだか安心する。
「料理教室」
「え?」
「作るのが好きなら、またやろう」
「…いいんですか?」
「嫌だったらこんなふうに声をかけたりしないから」
「それじゃあ、えっと…お願いします」
「分かった」
スノウの足を見て、冬真さんは息をひとつ吐いた。
「ちょっとしたものを作ってくる」
「ありがとうございます」
点滴が終わるのを待ちながら、冬真さんと一緒に部屋を出たスノウの足にくくりつけられていたもののことを考える。
…なんだか少しだけ曇った表情が気になってしまうけれど、どうしても直接訊くことができなかった。
月明かりを温かく感じていると、ばさばさと羽音がして目の前で翼がはためいた。
「スノウ…?」
また足に手紙のようなものが巻きつけられていたけれど、やっぱり勝手に読む気にはなれなくてそのままにしておく。
腕を前に出すと肩にとまってくれて、満足そうに鳴き声をあげた。
「お話、まだしているみたいなので…もう少ししたら一緒に言ってみましょう」
しばらくスノウと話していると、扉がゆっくり開かれる。
「やっぱりここにいた」
「ごめんなさい。窓を開けていたら、その…」
「別に怒ってるわけじゃない。スノウは君を気に入ってるみたいだし、帰ってきてたならそれでいいんだ。
…申し訳ないんだけど、この点滴を受けてもらっていい?」
「分かりました」
「この前血液検査をしたの、覚えてる?」
点滴の準備をしながら、冬真さんはそんなことを訊いてくる。
「たしか、注射器で血をとって…」
「うん。それで、結果があんまりよくなかった」
「そうなんですか?」
「君の体、栄養不足なんだ。今までどうやって生きていたんだろうって不思議になるくらい、あらゆる栄養が足りてない。
これは、それを一時的にでも補う為に必要なものなんだ」
自分がそんな状態だなんて知らなかった。
たしかにここでの生活とは違う。
あの場所では、1日1食食べられればいいと思っていた。
飲み物は勝手に飲んだらいけなかったし、おやつもご飯も自分のものは作ることを許されていなかったのだ。
それが当たり前で、あとは時々蕀さんたちから育つ野いちごをこっそり頬張るのを楽しみにしていた。
「あ、あの」
「どうしたの?」
「1日3回食べるのが、普通なんですか?」
「…通常はね。おやつを入れて増えることはあっても、3回が理想だとは言われているらしい。
まあ、僕も一時期まともにご飯を食べられなかったことがあるから、酷い状態になるのも分からなくはない。…ご飯、今の量で足りてる?」
「充分すぎます。いつも美味しいですし…」
「……そう」
その表情は柔らかいもので、冬真さんのそんな姿を見ているとなんだか安心する。
「料理教室」
「え?」
「作るのが好きなら、またやろう」
「…いいんですか?」
「嫌だったらこんなふうに声をかけたりしないから」
「それじゃあ、えっと…お願いします」
「分かった」
スノウの足を見て、冬真さんは息をひとつ吐いた。
「ちょっとしたものを作ってくる」
「ありがとうございます」
点滴が終わるのを待ちながら、冬真さんと一緒に部屋を出たスノウの足にくくりつけられていたもののことを考える。
…なんだか少しだけ曇った表情が気になってしまうけれど、どうしても直接訊くことができなかった。
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