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冬真ルート
第15.5話
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「3人とも、急にごめんね」
夏彦は満面の笑みを浮かべていたが、決して体調がいいわけではなさそうだ。
「で、急にどうした?」
「ちょっと厄介な情報が入ってさ…。念のため知らせておこうと思ったんだ」
「その情報とは、先日の親子に関するものでしょうか?」
春人さんに訊かれて、夏彦は口を開いた。
「うん。どうやら月見ちゃんが狙われてるみたいなんだ」
「なんでお嬢ちゃんが…」
秋久さんは少し驚いていたけど、僕は予想していた。
「たまたまとはいえ、あの兄妹から『おじさん』の話を聞き出したのは彼女だ。
それに、現場にいたのを誰かに見られていたとしたらそいつが伝えた可能性が高い」
「まだ残党がいる可能性があるってことか。今調べてみた限りではいなさそうだけどな…。
ぱっと見じゃ分からないよう隠しているのかもしれない」
できればそうなってほしくなかった。
もし巻きこんだら、彼女が傷つけられてしまうかもしれない。
どうにかして護りたいところだけど、僕だけでは無理だ。
…それでもやるしかないのは分かっているけど。
「もう少し警戒する」
「しかし、それでは冬真に負担がかかってしまうのではありませんか?」
「春人さんは心配性だね。僕は大丈夫。結構慣れてるし、大学も順調だし…」
「あの親子は逃したが、今度は俺たちに何か仕掛けてくる可能性があるな。全員、警戒を怠らないように。
それから、緊急連絡の合言葉でも決めておくか。万が一襲われても、誰かしら助けに向かえるように」
それからしばらく話したところで、夏彦が僕だけ呼び止める。
「…何?飲み物淹れてあの子に点滴を打ちたいんだけど」
「そんなに急がなくてもいいんじゃない?それより、上手くやってる?」
「…余計なお世話」
「服とか揃えなくていいの?」
その言葉にはっとする。
そういえば、彼女は組み合わせは違えど同じような服ばかり着ている。
ほとんどのものにほつれや破れを直した跡も見られた。
「そこまで考えてなかった。…注文したら用意してくれる?」
「珍しく素直、」
「やっぱりやめる」
「ごめんごめん。で、もう一つあるんだけど聞いてくれる?」
真剣な声に、ただその場で頷く。
普段ちゃらちゃらしている夏彦は真面目な話をするとき、必ず目と声が真剣になる。
「まー君には教えておいた方がいいだろうと思って…。さっきの情報提供、匿名だったんだけど多分あいつからだよ」
その一言で充分だった。
「…分かった」
「大丈夫?冷静?」
「別に。いつもどおりだと思う」
その相手は名前も口にしたくないくらい嫌いで、恨みばかりがつもってしまう。
出ていく夏彦の背中を見送りながら、ぐっと手を握りこんだ。
…僕のことを捨てておいて、今更関わってくるなんてどういうつもりなんだろう。
夏彦は満面の笑みを浮かべていたが、決して体調がいいわけではなさそうだ。
「で、急にどうした?」
「ちょっと厄介な情報が入ってさ…。念のため知らせておこうと思ったんだ」
「その情報とは、先日の親子に関するものでしょうか?」
春人さんに訊かれて、夏彦は口を開いた。
「うん。どうやら月見ちゃんが狙われてるみたいなんだ」
「なんでお嬢ちゃんが…」
秋久さんは少し驚いていたけど、僕は予想していた。
「たまたまとはいえ、あの兄妹から『おじさん』の話を聞き出したのは彼女だ。
それに、現場にいたのを誰かに見られていたとしたらそいつが伝えた可能性が高い」
「まだ残党がいる可能性があるってことか。今調べてみた限りではいなさそうだけどな…。
ぱっと見じゃ分からないよう隠しているのかもしれない」
できればそうなってほしくなかった。
もし巻きこんだら、彼女が傷つけられてしまうかもしれない。
どうにかして護りたいところだけど、僕だけでは無理だ。
…それでもやるしかないのは分かっているけど。
「もう少し警戒する」
「しかし、それでは冬真に負担がかかってしまうのではありませんか?」
「春人さんは心配性だね。僕は大丈夫。結構慣れてるし、大学も順調だし…」
「あの親子は逃したが、今度は俺たちに何か仕掛けてくる可能性があるな。全員、警戒を怠らないように。
それから、緊急連絡の合言葉でも決めておくか。万が一襲われても、誰かしら助けに向かえるように」
それからしばらく話したところで、夏彦が僕だけ呼び止める。
「…何?飲み物淹れてあの子に点滴を打ちたいんだけど」
「そんなに急がなくてもいいんじゃない?それより、上手くやってる?」
「…余計なお世話」
「服とか揃えなくていいの?」
その言葉にはっとする。
そういえば、彼女は組み合わせは違えど同じような服ばかり着ている。
ほとんどのものにほつれや破れを直した跡も見られた。
「そこまで考えてなかった。…注文したら用意してくれる?」
「珍しく素直、」
「やっぱりやめる」
「ごめんごめん。で、もう一つあるんだけど聞いてくれる?」
真剣な声に、ただその場で頷く。
普段ちゃらちゃらしている夏彦は真面目な話をするとき、必ず目と声が真剣になる。
「まー君には教えておいた方がいいだろうと思って…。さっきの情報提供、匿名だったんだけど多分あいつからだよ」
その一言で充分だった。
「…分かった」
「大丈夫?冷静?」
「別に。いつもどおりだと思う」
その相手は名前も口にしたくないくらい嫌いで、恨みばかりがつもってしまう。
出ていく夏彦の背中を見送りながら、ぐっと手を握りこんだ。
…僕のことを捨てておいて、今更関わってくるなんてどういうつもりなんだろう。
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