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秋久ルート
第11話
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「あ、あの…」
「いいからそのまま動くな」
私の肩に処置をしながら、秋久さんはいつもより静かな声で話す。
やっぱり、なにかおかしなことをしてしまったのだろうか。
「アッキー、店が襲われたって…月見ちゃん、やられた感じ?」
「…刃物を持った犯人の前に飛び出した」
「月見ちゃん、勇気あるね。大体の人は見て見ぬふりをするか逃げることを考える。
あとは、悲鳴をあげて恐怖を感じる人も多いはずなのに…怖くなかったの?」
「あの人の心が、痛そうだったんです」
「犯人の?」
刃物を向けているのに、強気でいるというよりはなんだか悲しそうに見えた。
傷つけられたから傷つけ返してもいいとは思えないけれど、何か理由があったような気がする。
そう考えると、さっきまで感じていた怖さが和らいだ。
「…お嬢ちゃん」
「あの、私、何かしましたか…?」
「すまなかった」
どうして私は今、この人に謝られたんだろう。
嫌なことなんて何もされていないし、食べさせてもらえるご飯だって洋服だって素敵だ。
そのうえ、住むところまで用意してくれて…一体どこに謝られる理由があるんだろう。
「お嬢ちゃんの勇気は大したもんだ。けど、もし他の誰かが刺されてたらどう思った?」
「悲しいです。それから、何もできなくて申し訳ないなって思います」
「俺はお嬢ちゃんのことが心配だ」
「心配、ですか?」
そんなこと、言われたことがあっただろうか。
少なくとも、あの人たちからはない。
「人の為に動けるのは、誰でもできることじゃない。ただ、お嬢ちゃんが怪我をしたり病気になったら俺は悲しいって思う。
今お嬢ちゃんが思ってるのと同じようなことを考えてるってことだ」
「私は、慣れているので…」
「慣れていればいいってわけじゃない。慣れてようが痛いだろ?」
「…ごめんなさい」
誰かが傷つくのを見ると、胸のあたりが痛くなる。
そんなの、私だけなんだと思っていた。
私がおかしいんだと思っていたのに、彼は今それと同じことを感じているということだろうか。
誰かが笑う気配がして顔をあげると、夏彦さんが楽しそうに笑っていた。
「月見ちゃんが自分を大事にしてくれないと、色々な人が心配するってこと!
アッキーもだけど、それだけ無茶をするなら俺も心配だな…」
「き、気をつけます」
「今日はもう帰るか。妙なことに巻きこんで、そのうえ怪我までさせて悪かった」
「私は大丈夫です。余計なことをしてすみません」
「やり方はまずかったが、子どもを助けたかったんだろう?その心がけは立派だと思うぞ」
秋久さんの表情はさっきより明るくなっていて、どうしてか少し安心してしまう。
彼の笑顔には魔法がかかっているのかもしれない、なんて思いながら、夏彦さんも一緒にその場から離れた。
「いいからそのまま動くな」
私の肩に処置をしながら、秋久さんはいつもより静かな声で話す。
やっぱり、なにかおかしなことをしてしまったのだろうか。
「アッキー、店が襲われたって…月見ちゃん、やられた感じ?」
「…刃物を持った犯人の前に飛び出した」
「月見ちゃん、勇気あるね。大体の人は見て見ぬふりをするか逃げることを考える。
あとは、悲鳴をあげて恐怖を感じる人も多いはずなのに…怖くなかったの?」
「あの人の心が、痛そうだったんです」
「犯人の?」
刃物を向けているのに、強気でいるというよりはなんだか悲しそうに見えた。
傷つけられたから傷つけ返してもいいとは思えないけれど、何か理由があったような気がする。
そう考えると、さっきまで感じていた怖さが和らいだ。
「…お嬢ちゃん」
「あの、私、何かしましたか…?」
「すまなかった」
どうして私は今、この人に謝られたんだろう。
嫌なことなんて何もされていないし、食べさせてもらえるご飯だって洋服だって素敵だ。
そのうえ、住むところまで用意してくれて…一体どこに謝られる理由があるんだろう。
「お嬢ちゃんの勇気は大したもんだ。けど、もし他の誰かが刺されてたらどう思った?」
「悲しいです。それから、何もできなくて申し訳ないなって思います」
「俺はお嬢ちゃんのことが心配だ」
「心配、ですか?」
そんなこと、言われたことがあっただろうか。
少なくとも、あの人たちからはない。
「人の為に動けるのは、誰でもできることじゃない。ただ、お嬢ちゃんが怪我をしたり病気になったら俺は悲しいって思う。
今お嬢ちゃんが思ってるのと同じようなことを考えてるってことだ」
「私は、慣れているので…」
「慣れていればいいってわけじゃない。慣れてようが痛いだろ?」
「…ごめんなさい」
誰かが傷つくのを見ると、胸のあたりが痛くなる。
そんなの、私だけなんだと思っていた。
私がおかしいんだと思っていたのに、彼は今それと同じことを感じているということだろうか。
誰かが笑う気配がして顔をあげると、夏彦さんが楽しそうに笑っていた。
「月見ちゃんが自分を大事にしてくれないと、色々な人が心配するってこと!
アッキーもだけど、それだけ無茶をするなら俺も心配だな…」
「き、気をつけます」
「今日はもう帰るか。妙なことに巻きこんで、そのうえ怪我までさせて悪かった」
「私は大丈夫です。余計なことをしてすみません」
「やり方はまずかったが、子どもを助けたかったんだろう?その心がけは立派だと思うぞ」
秋久さんの表情はさっきより明るくなっていて、どうしてか少し安心してしまう。
彼の笑顔には魔法がかかっているのかもしれない、なんて思いながら、夏彦さんも一緒にその場から離れた。
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