323 / 385
冬真ルート
第10話
しおりを挟む
「…うん。それじゃあまた」
外から聞こえてくるのは、誰かと話す冬真さんの声だ。
それから、あのふたりの声も聞こえる。
…ここを出てしまっても大丈夫だろうか。
「また扉の前に立ってるけど、癖なの?」
「ご、ごめんなさい…」
「謝らなくていい。それより、あのふたりが君と話したがってる」
「私と、ですか?」
相変わらずどんなことを話せばいいのか分からない。
不安に思っていると、冬真さんが背中を押してくれた。
「そんなに深く考えなくていい。あの子たちはただ、君にお礼を言いたいみたいだから」
「は、はい…」
恐る恐る部屋から出てみると、ふたつの笑顔が並んでいた。
「お姉さん、私たちもうお外に行くの。ここから遠い場所に行くから、多分もう会えない…」
「だから、出る前にお姉さんにちゃんとお礼を言いたかったんだ」
「そうだったんですか…。お元気で」
「ありがとう。リセッターのお兄さんがいるなら大丈夫だと思うけど、お姉さんも気をつけてね」
また【リセッター】という言葉が出てきて、少し戸惑ってしまう。
「君たちのお母さん、もう港まで来てるって」
「本当に!?」
「おじさんから逃げられたの?」
「もう怖いおじさんは追ってこないから大丈夫だよ」
冬真さんの漆黒の髪がふわふわと揺れて、見たことがないような笑顔が浮かんでいた。
複雑で、寂しそうで…笑っているところを見たことがないからそう見えるのか、それとも本当に色々な感情がこめられているのか分からない。
「お姉さんはここで暮らしてるの?」
「えっと…」
「そうだよ、お姉さんはここで治療してるんだ」
「やっぱりお兄さんの恋人なんじゃん」
「そ、そういうのじゃない。だからお姉さんを巻きこむわけにはいかないんだ」
子どもを相手にしているところを見ると、なんだかほっとするのはどうしてだろう。
「そろそろ時間だよ」
「お姉さん、元気でね」
「は、はい。お話できてよかったです」
3人が出ていくのを見送りながら、少し寂しいなんて思ってしまった。
いつもならこんなこと考えなかったのに、私はどうしてしまったんだろう。
ふとテーブルを見ると、小さめの鞄が置き去りになっていた。
「…スノウ、一緒に来てもらえませんか?」
勝手に出ていってはいけないことは分かっているけれど、あの女の子の忘れ物で間違いなさそうだ。
遠くへ行くなら渡しておかないといけない。
怒られるのを覚悟で、スノウと一緒に外へ出た。
周りに誰もいないことを確認して、両手の包帯を外す。
「──お願い、蕀さんたち」
蕀さんたちからなんとなく気配を探して追いかける。
あんなふうに料理を美味しそうに食べてもらえるなんて思っていなかった。
だからせめて、ちゃんと笑っていてほしい。
できるだけ急ぐけれど、途中で雰囲気がおかしいことに気づいて立ち止まる。
その先では、さっきのふたりが肩を寄せ合って怯えていた。
外から聞こえてくるのは、誰かと話す冬真さんの声だ。
それから、あのふたりの声も聞こえる。
…ここを出てしまっても大丈夫だろうか。
「また扉の前に立ってるけど、癖なの?」
「ご、ごめんなさい…」
「謝らなくていい。それより、あのふたりが君と話したがってる」
「私と、ですか?」
相変わらずどんなことを話せばいいのか分からない。
不安に思っていると、冬真さんが背中を押してくれた。
「そんなに深く考えなくていい。あの子たちはただ、君にお礼を言いたいみたいだから」
「は、はい…」
恐る恐る部屋から出てみると、ふたつの笑顔が並んでいた。
「お姉さん、私たちもうお外に行くの。ここから遠い場所に行くから、多分もう会えない…」
「だから、出る前にお姉さんにちゃんとお礼を言いたかったんだ」
「そうだったんですか…。お元気で」
「ありがとう。リセッターのお兄さんがいるなら大丈夫だと思うけど、お姉さんも気をつけてね」
また【リセッター】という言葉が出てきて、少し戸惑ってしまう。
「君たちのお母さん、もう港まで来てるって」
「本当に!?」
「おじさんから逃げられたの?」
「もう怖いおじさんは追ってこないから大丈夫だよ」
冬真さんの漆黒の髪がふわふわと揺れて、見たことがないような笑顔が浮かんでいた。
複雑で、寂しそうで…笑っているところを見たことがないからそう見えるのか、それとも本当に色々な感情がこめられているのか分からない。
「お姉さんはここで暮らしてるの?」
「えっと…」
「そうだよ、お姉さんはここで治療してるんだ」
「やっぱりお兄さんの恋人なんじゃん」
「そ、そういうのじゃない。だからお姉さんを巻きこむわけにはいかないんだ」
子どもを相手にしているところを見ると、なんだかほっとするのはどうしてだろう。
「そろそろ時間だよ」
「お姉さん、元気でね」
「は、はい。お話できてよかったです」
3人が出ていくのを見送りながら、少し寂しいなんて思ってしまった。
いつもならこんなこと考えなかったのに、私はどうしてしまったんだろう。
ふとテーブルを見ると、小さめの鞄が置き去りになっていた。
「…スノウ、一緒に来てもらえませんか?」
勝手に出ていってはいけないことは分かっているけれど、あの女の子の忘れ物で間違いなさそうだ。
遠くへ行くなら渡しておかないといけない。
怒られるのを覚悟で、スノウと一緒に外へ出た。
周りに誰もいないことを確認して、両手の包帯を外す。
「──お願い、蕀さんたち」
蕀さんたちからなんとなく気配を探して追いかける。
あんなふうに料理を美味しそうに食べてもらえるなんて思っていなかった。
だからせめて、ちゃんと笑っていてほしい。
できるだけ急ぐけれど、途中で雰囲気がおかしいことに気づいて立ち止まる。
その先では、さっきのふたりが肩を寄せ合って怯えていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたにすべて差し上げます
野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。
王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。
しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。
女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、
すべてを清算して、いなくなってしまった。
残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
前世でわたしの夫だったという人が現れました
柚木ゆず
恋愛
それは、わたしことエリーズの婚約者であるサンフォエル伯爵家の嫡男・ディミトリ様のお誕生日をお祝いするパーティーで起きました。
ディミトリ様と二人でいたら突然『自分はエリーズ様と前世で夫婦だった』と主張する方が現れて、驚いていると更に『婚約を解消して自分と結婚をして欲しい』と言い出したのです。
信じられないことを次々と仰ったのは、ダツレットス子爵家の嫡男アンリ様。
この方は何かの理由があって、夫婦だったと嘘をついているのでしょうか……? それともアンリ様とわたしは、本当に夫婦だったのでしょうか……?
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
【完結】ブラコンの私が悪役令嬢に転生するとどうなる? こうなる
浅葱
恋愛
ある乙女ゲーム似の世界の悪役令嬢に転生してしまったらしい私。
平凡顔の私は婚約者とかいう王子に暴言を吐かれる。暴言王子はいらないから婚約破棄上等!
シスコンの兄やその他の力を借りてがんばります。
なろうからの転載です。
二(続編) ある日ヒロインが突撃してきたことから始まるどったんばったん。恋愛はどこに!?(ぉぃ
三(続編) ヒロインの爆弾発言により隣国王子との勉強会に参加させられたことから始まるどんがらがっしゃん。恋愛ものですからね!!(力説
四部(続編)からは新作です。学園モノの醍醐味である学園祭編!(ぇ) ちょっとした出来心でヒロインの手伝いをしたらまた厄介ごとに巻き込まれたみたいで? いいかげん恋愛をさせて差し上げろ(ぉぃ
表紙の写真は写真ACからお借りしました。
怒れるおせっかい奥様
asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。
可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。
日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。
そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。
コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。
そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。
それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。
父も一緒になって虐げてくるクズ。
そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。
相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。
子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない!
あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。
そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。
白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。
良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。
前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね?
ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。
どうして転生したのが私だったのかしら?
でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!
あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ!
子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。
私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ!
無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ!
前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる!
無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。
他の人たちのざまあはアリ。
ユルユル設定です。
ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる