裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第10話

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「…うん。それじゃあまた」
外から聞こえてくるのは、誰かと話す冬真さんの声だ。
それから、あのふたりの声も聞こえる。
…ここを出てしまっても大丈夫だろうか。
「また扉の前に立ってるけど、癖なの?」
「ご、ごめんなさい…」
「謝らなくていい。それより、あのふたりが君と話したがってる」
「私と、ですか?」
相変わらずどんなことを話せばいいのか分からない。
不安に思っていると、冬真さんが背中を押してくれた。
「そんなに深く考えなくていい。あの子たちはただ、君にお礼を言いたいみたいだから」
「は、はい…」
恐る恐る部屋から出てみると、ふたつの笑顔が並んでいた。
「お姉さん、私たちもうお外に行くの。ここから遠い場所に行くから、多分もう会えない…」
「だから、出る前にお姉さんにちゃんとお礼を言いたかったんだ」
「そうだったんですか…。お元気で」
「ありがとう。リセッターのお兄さんがいるなら大丈夫だと思うけど、お姉さんも気をつけてね」
また【リセッター】という言葉が出てきて、少し戸惑ってしまう。
「君たちのお母さん、もう港まで来てるって」
「本当に!?」
「おじさんから逃げられたの?」
「もう怖いおじさんは追ってこないから大丈夫だよ」
冬真さんの漆黒の髪がふわふわと揺れて、見たことがないような笑顔が浮かんでいた。
複雑で、寂しそうで…笑っているところを見たことがないからそう見えるのか、それとも本当に色々な感情がこめられているのか分からない。
「お姉さんはここで暮らしてるの?」
「えっと…」
「そうだよ、お姉さんはここで治療してるんだ」
「やっぱりお兄さんの恋人なんじゃん」
「そ、そういうのじゃない。だからお姉さんを巻きこむわけにはいかないんだ」
子どもを相手にしているところを見ると、なんだかほっとするのはどうしてだろう。
「そろそろ時間だよ」
「お姉さん、元気でね」
「は、はい。お話できてよかったです」
3人が出ていくのを見送りながら、少し寂しいなんて思ってしまった。
いつもならこんなこと考えなかったのに、私はどうしてしまったんだろう。
ふとテーブルを見ると、小さめの鞄が置き去りになっていた。
「…スノウ、一緒に来てもらえませんか?」
勝手に出ていってはいけないことは分かっているけれど、あの女の子の忘れ物で間違いなさそうだ。
遠くへ行くなら渡しておかないといけない。
怒られるのを覚悟で、スノウと一緒に外へ出た。
周りに誰もいないことを確認して、両手の包帯を外す。
「──お願い、蕀さんたち」
蕀さんたちからなんとなく気配を探して追いかける。
あんなふうに料理を美味しそうに食べてもらえるなんて思っていなかった。
だからせめて、ちゃんと笑っていてほしい。
できるだけ急ぐけれど、途中で雰囲気がおかしいことに気づいて立ち止まる。
その先では、さっきのふたりが肩を寄せ合って怯えていた。
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