裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第9話

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「お姉さん、すごい!」
「こんなにぱらぱらになるなんて…」
ケチャップが見当たらなくてバターライスを作ってしまったけれど、気に入ってもらえたならよかった。
「不味かったら、遠慮なく言ってください」
「本当に美味しいよ?」
「お姉さん、私より料理上手だ。いいなあ、羨ましい…」
そんな兄妹の会話を微笑ましく思っていると、ふたりが私の方をじっと見た。
「あ、あの…」
「お姉さんになら話してもいいかな」
「お兄さんは怖い顔してたけど、お姉さんは優しそうだもんね」
何の話か分からなくて首を傾げる。
それでもふたりは少しずつ話してくれた。
「クリームソーダを売ってるおじさんは、いつもサングラスをかけてたんだ。多分怪我をしているんだと思う」
「目に怪我をしているんですね。大丈夫でしょうか…」
「だけど、おじさんは動きがすごく速いの!全然見えてないわけじゃないし、感覚で分かるんだって言ってた!」
ふたりが話す人について、誰のことを言っているのか分からないままメモをとらせてもらうことにした。
お兄さんの方が俯きがちに呟く。
「…おじさんから逃げる為に、僕たちは知ってたリセッターの噂を頼りに助けてほしいってお願いしたんだ。
お母さんを探してもらわないといけないし…」
「それは、大変でしたね」
子どもからすれば、親は安心できる存在…大抵の場合そうなっているはずだ。
ただ、万が一ふたりにとって親が私の近くにいたあの人たちみたいな存在だったとしたら、あまり深く訊かない方がいい。
「もうすぐお兄さん帰ってくるかもしれない。お姉さん、片づけは僕たちでやるよ」
「いいんですか?」
「その代わり、また作ってね!」
「分かりました。頑張ります」
痛む体を動かしながら、なんとか自分の部屋まで戻る。
冬真さんと顔を合わせるのがなんとなく気まずくて、そのままベッドで大人しく休むことにした。
「……ねえ」
「あ、ごめんなさい。ぼんやりしていて…」
「そうじゃなくて、あの子たちに会ったの?」
顔を合わせてはいけない相手だったのだろうか。
「ごめんなさい」
「別に謝る必要ないんだけど…このメモに書いてあること、あの子達から聞いたの?」
冬真さんが持っていたのは、クリームソーダのおじさんという人について書いたものだった。
「はい。ご飯のお礼にって、教えてくれたんです」
「これ、借りてもいい?」
「私は構いませんが、あのふたりに訊いてみないと…」
「分かった。あの兄妹から許可はもらう」
色々訊きたいこともあったけれど、ぐっと言葉を呑みこんで後ろ姿を見送る。
もっと上手に話せればいいのに、こういうときってどんなふうに話しかけたらいいんだろう。
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