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冬真ルート
第5.5話
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どうやら僕は、少し不思議な同居人に戸惑っているらしい。
「まー君、もうちょっと優しくしないと駄目だよ。きつい言い方されたら、誰だって戸惑うでしょ?」
夏彦の言うことがまともだと思えるなんて、やっぱり僕は血迷ったのかもしれない。
「今回は夏彦が言うことも一理ある。…本当は薄々自分でも気づいてるんだろ?」
「秋久さんは、部下の人たちと接するときどうしてるの?僕、あんまり人付き合い得意じゃないから…」
「それなら、俺より接客業やってる夏彦の方が知ってそうだな」
秋久さんは苦笑しながらも僕の質問に真っ直ぐ答えてくれた。
「俺は特に特別なことはしてない。ただ、仲間と話すときより実はちょっと気を遣うことはあるかもな。
うちの部署は特殊で、ワケアリが多いだろ?」
彼の仕事を知っている分、その言葉の意味もなんとなく理解できる。
仕事だからと夏彦が帰った後も、秋久さんは相談に乗ってくれた。
「大学はどうだ?」
「相変わらず人が多くて好きになれない」
「…そうか」
わいわいするのが楽しいと話す人もいるけど、独りだった僕にとってそのよさはあまり分からない。
【カルテット】みたいに少人数で集まるなら分かる。
ただ、人数が多ければいいみたいな発想は理解できなかった。
「ねえ、どうして秋久さんは僕なんかを助けてくれたの?」
「なんか、なんて言うな。俺は別に、おまえを助けたわけじゃない。
俺がやりたいようにやったら、結果的におまえの助けになれていただけだ。まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいがな」
秋久さんはいつも頭を撫でてくれる。
それなのに、休みの日には料理を教えてくれなんて言い出すから不思議だ。
なんでもできそうなのに、この人はいつも僕の料理を褒めてくれる。
「お嬢ちゃんとは上手くやれそうか?」
「…頑張ってみる」
何もしなければ、明日にも消えてしまいそうなあの子…それを分かっていて、ただ見ているだけなんてできない。
「相変わらず優しいんだな」
「別に、そんなことないと思うけど…」
「行き詰まったらすぐ呼べ。俺にできることがあるかは分からないが、困ってる仲間を放っておくことなんてできないからな」
「ありがとう」
それから彼女と話をしてみたけど、僕より知らないことが多い。
虐待を受けた痕跡もあるものの、暴力をふるわれていたのかなんて簡単に訊けなかった。
「…無理、してたのかな」
それからそんなに日が経たないうちに、彼女はパニック発作のようなものをおこして倒れてしまった。
今は記録をつけながら、秋久さんに心配いらないと連絡してひと段落したところだ。
息をひとつして、手元にあるノートに今日の頁を綴った。
【彼女が倒れてしまった。相当無理をしていたのか、初日に見たものが関係しているのかは分からない。
そのことも含めて、秋久さんに相談するべきだろうか。…今の僕には分からない】
…彼女のカルテの側に置いたメモ帳にも、取り敢えず記録は残しておこう。
【新しい仕事の依頼がひとつきた。前回と同じく、家庭内から逃げる手助けをするというものだった。
最近あとを絶たないこの手の事件の解決には、まだ時間がかかりそうだ】
「まー君、もうちょっと優しくしないと駄目だよ。きつい言い方されたら、誰だって戸惑うでしょ?」
夏彦の言うことがまともだと思えるなんて、やっぱり僕は血迷ったのかもしれない。
「今回は夏彦が言うことも一理ある。…本当は薄々自分でも気づいてるんだろ?」
「秋久さんは、部下の人たちと接するときどうしてるの?僕、あんまり人付き合い得意じゃないから…」
「それなら、俺より接客業やってる夏彦の方が知ってそうだな」
秋久さんは苦笑しながらも僕の質問に真っ直ぐ答えてくれた。
「俺は特に特別なことはしてない。ただ、仲間と話すときより実はちょっと気を遣うことはあるかもな。
うちの部署は特殊で、ワケアリが多いだろ?」
彼の仕事を知っている分、その言葉の意味もなんとなく理解できる。
仕事だからと夏彦が帰った後も、秋久さんは相談に乗ってくれた。
「大学はどうだ?」
「相変わらず人が多くて好きになれない」
「…そうか」
わいわいするのが楽しいと話す人もいるけど、独りだった僕にとってそのよさはあまり分からない。
【カルテット】みたいに少人数で集まるなら分かる。
ただ、人数が多ければいいみたいな発想は理解できなかった。
「ねえ、どうして秋久さんは僕なんかを助けてくれたの?」
「なんか、なんて言うな。俺は別に、おまえを助けたわけじゃない。
俺がやりたいようにやったら、結果的におまえの助けになれていただけだ。まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいがな」
秋久さんはいつも頭を撫でてくれる。
それなのに、休みの日には料理を教えてくれなんて言い出すから不思議だ。
なんでもできそうなのに、この人はいつも僕の料理を褒めてくれる。
「お嬢ちゃんとは上手くやれそうか?」
「…頑張ってみる」
何もしなければ、明日にも消えてしまいそうなあの子…それを分かっていて、ただ見ているだけなんてできない。
「相変わらず優しいんだな」
「別に、そんなことないと思うけど…」
「行き詰まったらすぐ呼べ。俺にできることがあるかは分からないが、困ってる仲間を放っておくことなんてできないからな」
「ありがとう」
それから彼女と話をしてみたけど、僕より知らないことが多い。
虐待を受けた痕跡もあるものの、暴力をふるわれていたのかなんて簡単に訊けなかった。
「…無理、してたのかな」
それからそんなに日が経たないうちに、彼女はパニック発作のようなものをおこして倒れてしまった。
今は記録をつけながら、秋久さんに心配いらないと連絡してひと段落したところだ。
息をひとつして、手元にあるノートに今日の頁を綴った。
【彼女が倒れてしまった。相当無理をしていたのか、初日に見たものが関係しているのかは分からない。
そのことも含めて、秋久さんに相談するべきだろうか。…今の僕には分からない】
…彼女のカルテの側に置いたメモ帳にも、取り敢えず記録は残しておこう。
【新しい仕事の依頼がひとつきた。前回と同じく、家庭内から逃げる手助けをするというものだった。
最近あとを絶たないこの手の事件の解決には、まだ時間がかかりそうだ】
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