裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
318 / 385
冬真ルート

第5.5話

しおりを挟む
どうやら僕は、少し不思議な同居人に戸惑っているらしい。
「まー君、もうちょっと優しくしないと駄目だよ。きつい言い方されたら、誰だって戸惑うでしょ?」
夏彦の言うことがまともだと思えるなんて、やっぱり僕は血迷ったのかもしれない。
「今回は夏彦が言うことも一理ある。…本当は薄々自分でも気づいてるんだろ?」
「秋久さんは、部下の人たちと接するときどうしてるの?僕、あんまり人付き合い得意じゃないから…」
「それなら、俺より接客業やってる夏彦の方が知ってそうだな」
秋久さんは苦笑しながらも僕の質問に真っ直ぐ答えてくれた。
「俺は特に特別なことはしてない。ただ、仲間と話すときより実はちょっと気を遣うことはあるかもな。
うちの部署は特殊で、ワケアリが多いだろ?」
彼の仕事を知っている分、その言葉の意味もなんとなく理解できる。
仕事だからと夏彦が帰った後も、秋久さんは相談に乗ってくれた。
「大学はどうだ?」
「相変わらず人が多くて好きになれない」
「…そうか」
わいわいするのが楽しいと話す人もいるけど、独りだった僕にとってそのよさはあまり分からない。
【カルテット】みたいに少人数で集まるなら分かる。
ただ、人数が多ければいいみたいな発想は理解できなかった。
「ねえ、どうして秋久さんは僕なんかを助けてくれたの?」
「なんか、なんて言うな。俺は別に、おまえを助けたわけじゃない。
俺がやりたいようにやったら、結果的におまえの助けになれていただけだ。まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいがな」
秋久さんはいつも頭を撫でてくれる。
それなのに、休みの日には料理を教えてくれなんて言い出すから不思議だ。
なんでもできそうなのに、この人はいつも僕の料理を褒めてくれる。
「お嬢ちゃんとは上手くやれそうか?」
「…頑張ってみる」
何もしなければ、明日にも消えてしまいそうなあの子…それを分かっていて、ただ見ているだけなんてできない。
「相変わらず優しいんだな」
「別に、そんなことないと思うけど…」
「行き詰まったらすぐ呼べ。俺にできることがあるかは分からないが、困ってる仲間を放っておくことなんてできないからな」
「ありがとう」
それから彼女と話をしてみたけど、僕より知らないことが多い。
虐待を受けた痕跡もあるものの、暴力をふるわれていたのかなんて簡単に訊けなかった。
「…無理、してたのかな」
それからそんなに日が経たないうちに、彼女はパニック発作のようなものをおこして倒れてしまった。
今は記録をつけながら、秋久さんに心配いらないと連絡してひと段落したところだ。
息をひとつして、手元にあるノートに今日の頁を綴った。
【彼女が倒れてしまった。相当無理をしていたのか、初日に見たものが関係しているのかは分からない。
そのことも含めて、秋久さんに相談するべきだろうか。…今の僕には分からない】
…彼女のカルテの側に置いたメモ帳にも、取り敢えず記録は残しておこう。
【新しい仕事の依頼がひとつきた。前回と同じく、家庭内から逃げる手助けをするというものだった。
最近あとを絶たないこの手の事件の解決には、まだ時間がかかりそうだ】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢アリーズは、侯爵家で侍女として働いていたが、そこの主人に抱きしめられているところを夫人に見られて愛人だと誤解され、首になって実家に戻った。 夫を誘惑する女だと社交界に広められてしまい、侍女として働くことも難しくなった時、元雇い主の侯爵が申し訳なかったと嫁ぎ先を紹介してくれる。 しかし、相手は妻が不貞相手と心中し昨年醜聞になった男爵で、アリーズのことを侯爵の愛人だったと信じていたため、初夜は散々。 しかも、夫が愛人にした侍女が妊娠。 離婚を望むアリーズと平民を妻にしたくないために離婚を望まない夫。というお話です。

【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~

Bonzaebon
ファンタジー
東方一の武芸の名門、流派梁山泊を破門・追放の憂き目にあった落ちこぼれのロアは行く当てのない旅に出た。 国境を越え異国へと足を踏み入れたある日、傷ついた男からあるものを託されることになる。 それは「勇者の額冠」だった。 突然、事情も呑み込めないまま、勇者になってしまったロアは竜帝討伐とそれを巡る陰謀に巻き込まれることになる。 『千年に一人の英雄だろうと、最強の魔物だろうと、俺の究極奥義の前には誰もがひれ伏する!』 ※本作は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

悪役令嬢?寝言は寝て言え〜全員揃って一昨日来やがれ〜

みおな
恋愛
 アレーシア公爵令嬢。 それが、私の新たな名前。  大人気ラノベの『君に恋したあの場所で』通称キミコイの悪役令嬢であるアレーシア。  確かにアレーシアは、ラノベの中では悪役令嬢だった。  婚約者と仲の良い聖女である平民のヒロインを虐め倒すのがアレーシア。  でも元日本人、そしてキミコイを知っている私がアレーシアになった時点で、物語通りに進むわけないでしょ?  

幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」 ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。 きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。 いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

処理中です...