241 / 385
秋久ルート
第7話
しおりを挟む
「すまない。驚いただろう?」
「えっと…」
驚いたと話せば困らせてしまうと思っていたけれど、秋久さんにはそれが伝わってしまったらしい。
彼は苦笑いしながら、私の腕の中にいた甘栗の頭を撫でた。
「悪いやつじゃないんだが、そいつもいつも驚いてる」
「そう、なんですね」
「いつも急に来るから、どうすればいいか戸惑ってるみたいだ。
甘栗は元々人が苦手だろうから脅かさないように言ってあるんだが、花菜は大人しくするということを知らない」
秋久さんの言葉に、怒っていないことを確認してほっとする。
失礼になるんじゃないかとか色々考えていたけれど、相手がそう思ってないであろうことも彼が説明してくれた。
「あいつはいつも滅茶苦茶なことを言うが、自分について分析できてる。
あと、お嬢ちゃんに色々質問しようとしていたのを我慢してたな」
「そうなんですか?」
「ああ。だが、いきなり初対面の相手を質問攻めにしたら驚くだろう?
あいつは勘が鋭いから時々訊かれたくないことを言われたりするかもしれないが、お嬢ちゃんさえよければ仲良くしてやってくれ」
「わ、分かりました」
「…で、何の話をしようと思ったんだか忘れた」
「え?」
たしかに秋久さんはさっきから何かを話そうとしていた。
それは花菜さんが持ってきた資料に関係するのか、私の家のことに関係しているのか…駄目だ、分からない。
「そうだ。お嬢ちゃん、こっちのにサインしてもらっていいか?」
「これって、何の契約書ですか?」
「あの家に帰らなくていい、自由に生きていくのに必要な誓約書だ。…その代わり、俺たちのことについては誰にも話さないことっていう条件が書かれてる」
なんだかずっしり重いものが肩にのしかかるような感覚になる。
ただ、私には話す相手なんていないし誰かにぺらぺらと話すことがいいことだとは思っていない。
「分かりました。…これで大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。悪いな、サインばかりもらって」
「いえ。寧ろ、私なんかの為に時間をいただいてすみません…」
頭を下げると、ぽんぽんと優しい手が髪に触れる。
「私なんか、なんて自分を卑下する必要はない。今のお嬢ちゃんにはまだ難しいかもしれないが、いつかそうなればいいとは思ってる」
「卑下、ですか…?」
「まだ分からなくていい。けど、できるだけ私なんかなんて言わないでほしい」
「…できるだけ気をつけます」
「ん、素直でよろしい」
顔をあげると、秋久さんは優しく笑ってまた頭を撫でてくれた。
そのとき、彼はあ、と声をあげる。
「そうだった。…お嬢ちゃん、店には行ったことあるか?」
「お店、ですか?」
「よければこれから少し時間をもらいたい。勿論、嫌なら無理強いするつもりはないが」
秋久さんの言葉に、私は分かりましたと一言答えることしかできなかった。
…そんなことを言われたのは初めてだったから。
「えっと…」
驚いたと話せば困らせてしまうと思っていたけれど、秋久さんにはそれが伝わってしまったらしい。
彼は苦笑いしながら、私の腕の中にいた甘栗の頭を撫でた。
「悪いやつじゃないんだが、そいつもいつも驚いてる」
「そう、なんですね」
「いつも急に来るから、どうすればいいか戸惑ってるみたいだ。
甘栗は元々人が苦手だろうから脅かさないように言ってあるんだが、花菜は大人しくするということを知らない」
秋久さんの言葉に、怒っていないことを確認してほっとする。
失礼になるんじゃないかとか色々考えていたけれど、相手がそう思ってないであろうことも彼が説明してくれた。
「あいつはいつも滅茶苦茶なことを言うが、自分について分析できてる。
あと、お嬢ちゃんに色々質問しようとしていたのを我慢してたな」
「そうなんですか?」
「ああ。だが、いきなり初対面の相手を質問攻めにしたら驚くだろう?
あいつは勘が鋭いから時々訊かれたくないことを言われたりするかもしれないが、お嬢ちゃんさえよければ仲良くしてやってくれ」
「わ、分かりました」
「…で、何の話をしようと思ったんだか忘れた」
「え?」
たしかに秋久さんはさっきから何かを話そうとしていた。
それは花菜さんが持ってきた資料に関係するのか、私の家のことに関係しているのか…駄目だ、分からない。
「そうだ。お嬢ちゃん、こっちのにサインしてもらっていいか?」
「これって、何の契約書ですか?」
「あの家に帰らなくていい、自由に生きていくのに必要な誓約書だ。…その代わり、俺たちのことについては誰にも話さないことっていう条件が書かれてる」
なんだかずっしり重いものが肩にのしかかるような感覚になる。
ただ、私には話す相手なんていないし誰かにぺらぺらと話すことがいいことだとは思っていない。
「分かりました。…これで大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。悪いな、サインばかりもらって」
「いえ。寧ろ、私なんかの為に時間をいただいてすみません…」
頭を下げると、ぽんぽんと優しい手が髪に触れる。
「私なんか、なんて自分を卑下する必要はない。今のお嬢ちゃんにはまだ難しいかもしれないが、いつかそうなればいいとは思ってる」
「卑下、ですか…?」
「まだ分からなくていい。けど、できるだけ私なんかなんて言わないでほしい」
「…できるだけ気をつけます」
「ん、素直でよろしい」
顔をあげると、秋久さんは優しく笑ってまた頭を撫でてくれた。
そのとき、彼はあ、と声をあげる。
「そうだった。…お嬢ちゃん、店には行ったことあるか?」
「お店、ですか?」
「よければこれから少し時間をもらいたい。勿論、嫌なら無理強いするつもりはないが」
秋久さんの言葉に、私は分かりましたと一言答えることしかできなかった。
…そんなことを言われたのは初めてだったから。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。(すみません、予定がのびてます)
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
【完結】貴方の子供を産ませてください♡〜妖の王の継承者は正妻志望で学園1の銀髪美少女と共に最強スキル「異能狩り」で成り上がり復讐する〜
ひらたけなめこ
キャラ文芸
【完結しました】【キャラ文芸大賞応援ありがとうございましたm(_ _)m】
妖の王の血を引く坂田琥太郎は、高校入学時に一人の美少女と出会う。彼女もまた、人ならざる者だった。一家惨殺された過去を持つ琥太郎は、妖刀童子切安綱を手に、怨敵の土御門翠流とその式神、七鬼衆に復讐を誓う。数奇な運命を辿る琥太郎のもとに集ったのは、学園で出会う陰陽師や妖達だった。
現代あやかし陰陽譚、開幕!
キャラ文芸大賞参加します!皆様、何卒応援宜しくお願いいたしますm(_ _)m投票、お気に入りが励みになります。
著者Twitter
https://twitter.com/@hiratakenameko7
愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】
皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」
お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。
初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。
好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。
******
・感想欄は完結してから開きます。
もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】
青緑
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。
親代わりの枢機卿と王都を散策中、王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。
ある辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認められていく。しかしある日、多くの王侯貴族の前で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。
———————————
本作品は七日から十日おきでの投稿を予定しております。
更新予定時刻は投稿日の17時を固定とさせていただきます。
誤字・脱字をお知らせしてくださると、幸いです。
読み難い箇所のお知らせは、何話の修正か記載をお願い致しますm(_ _)m
※40話にて、近況報告あり。
※52話より、次回話の更新をお知らせします。
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる