裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第92話

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「ありがとうございます。早速いただいては…」
「……そうだね」
今の間は何だろう。
春人の少し青い顔と、むすっとした冬真さんの顔が交互に目に映る。
「すみません、お邪魔でしたか?」
「いえ、もう話は終わりましたので大丈夫ですよ」
笑顔でそう答える春人とは対照的に、冬真さんからはまだ話し足りていないような雰囲気を感じる。
どうしようか迷っていると、後ろから夏彦さんの声がした。
「まー君、春人は患者さんなんだから優しくしないと駄目だよ」
「…あんたに言われたくない。この前もからかってたの知ってるから」
「春人…仕事もいいけど主治医を困らせない程度にね」
「そうですね、分かりました」
夏彦さんに言われたくない…そう考えているのが伝わってくる。
「夏彦さんと冬真さんも、休んでないんじゎないですか?」
「俺は平気!こういうときに時間の融通が利くから、自営業っていいんだよ」
「…僕はちゃんと休んでる。君の方こそもうちょっと寝る時間増やしたら?」
指先が動かないままなのはともかく、眠れていないことまで知られているとは思わなかった。
それだけすごいお医者さん、ということだろうか。
「それで、資料を作らないといけないんでしたね。元になるデータはありますか?」
「あんまりない。秋久さんが春人さんの主観で書いてほしいって言ってた」
「そうですか…」
なんだか複雑そうな顔をしてティーカップを置く春人は、今どんなことを考えていたのだろう。
嫌なことを思い出したのか、或いはこれから書いていくうえでそうなるのか…見ただけでは判断できない。
「仕上がったら渡しますね」
「うん、お願い。いつでもいいとは言ってたけど、これでけりをつけたいとも秋久さんが言ってたから」
「…リーダーの頼みでは断れませんね」
「まー君、ちょっとこっち来て」
夏彦さんはそう声をかけると、片手をひらひらとふりながら冬真さんを連れ出してしまった。
その瞬間、春人のため息がはっきりと聞こえる。
「大丈夫ですか?」
「冬真に小言を言われた。…何かしてないと余計なことを考えるから、気分転換のつもりだったのに」
「え…?」
何か話していたけれど、ちゃんと聞き取ることができなかった。
彼ははっとしたような表情で首を横にふる。
「いや、なんでもない。…これのおかわりもらってもいい?」
「分かりました」
今私にできるのは、こうやって飲み物を淹れることくらいだ。
部屋を出たところで夏彦さんに声をかけられた。
「多分ハルは相当参ってるだろうから、月見ちゃんにはできるだけあいつの側にいてあげてほしい。…意外と寂しがり屋だからね」
「…?分かりました」
同じ物を淹れて部屋に運んだ瞬間、その言葉の意味をはっきり理解することになる。
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