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春人ルート
第30話
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「しばらくここには戻れそうにないから、別の場所に身を隠すことになる。…少し落ち着いたらゆっくり荷造りしよう」
「この場所を、離れるんですか?」
「きっと別の奴等にも目をつけられているはずだから。…今回の件が終わったらまた戻ってこられるよ」
春人の声は優しいけれど、どこか悔しさが滲んでいるような気がする。
思い出が詰まった場所だから離れたくないんじゃないかと思うと、ただただ申し訳なさが積もっていく。
「ごめんなさい。私がもっと気をつけていればよかったのに…」
「あれだけ蔦を出してまで様子を窺ってくれたんでしょ?君が気にすることじゃない」
他の人がいないのを見計らって、彼はそんな言葉をかけてくれた。
「観葉植物を世話してたってことにして、君の力についてはまだ隠せてる。
いつか君が話したいと思ったときに、話したいと思った相手に話せばいい」
その瞳はどこまでも真っ直ぐで、感謝の言葉以外出てくるものはなかった。
「…これで全部?」
「はい。あ…あと、この子たちも連れていっていいですか?」
ラビとチェリーを抱えると、春人はふっと笑ってゆっくりと頷く。
「ずっと留守番させるわけにはいかないし、一緒に来てもらおうか」
「…はい」
荷物はある程度まとめていたけれど、食器類を運ぶのが少し大変だった。
「春人、手伝いにきたよ!」
「夏彦」
「新居まで運んであげるから、こっちに荷物ちょうだい?」
重いものから順番に運んでもらっていると、夏彦さんの目が私の腕に留まる。
「…?あの…」
「あ、ごめんね。その子、まだ手元に置いてたんだなって思っただけなんだ」
「ラビの、ことですか…?」
夏彦さんは笑って、何かを懐かしむように話しはじめた。
「俺と初めて会ったときから、ハルはその子を絶対離さなかったんだ。
どこへ行くときも一緒で、寝るときは同じ布団に入って…あの人ともよく話したっけ」
「【あの人】…?」
「いや、こっちの話。…そうだ、今度小さい頃の写真沢山見せてあげようか?」
「それは、」
「…夏彦、何を話しているんですか?」
「え、あ、それは、」
「……ん?」
その一言にいつもとは違う威圧感がのっていて、背筋がぞくっとなる。
夏彦さんは笑顔をはりつかせたまま、荷物運びを続けてくれた。
「何か言われなかった?」
「だ、大丈夫です」
「それならいいけど…」
多分怒ってはいない。
ただ、その後も夏彦さんと話すときだけ春人から冷たい空気がもれていた。
こうして、私が知らなかった春人をまた知ることができたような気がする。
もう少し近づきたいなんて思うのは贅沢だろうか。
「この場所を、離れるんですか?」
「きっと別の奴等にも目をつけられているはずだから。…今回の件が終わったらまた戻ってこられるよ」
春人の声は優しいけれど、どこか悔しさが滲んでいるような気がする。
思い出が詰まった場所だから離れたくないんじゃないかと思うと、ただただ申し訳なさが積もっていく。
「ごめんなさい。私がもっと気をつけていればよかったのに…」
「あれだけ蔦を出してまで様子を窺ってくれたんでしょ?君が気にすることじゃない」
他の人がいないのを見計らって、彼はそんな言葉をかけてくれた。
「観葉植物を世話してたってことにして、君の力についてはまだ隠せてる。
いつか君が話したいと思ったときに、話したいと思った相手に話せばいい」
その瞳はどこまでも真っ直ぐで、感謝の言葉以外出てくるものはなかった。
「…これで全部?」
「はい。あ…あと、この子たちも連れていっていいですか?」
ラビとチェリーを抱えると、春人はふっと笑ってゆっくりと頷く。
「ずっと留守番させるわけにはいかないし、一緒に来てもらおうか」
「…はい」
荷物はある程度まとめていたけれど、食器類を運ぶのが少し大変だった。
「春人、手伝いにきたよ!」
「夏彦」
「新居まで運んであげるから、こっちに荷物ちょうだい?」
重いものから順番に運んでもらっていると、夏彦さんの目が私の腕に留まる。
「…?あの…」
「あ、ごめんね。その子、まだ手元に置いてたんだなって思っただけなんだ」
「ラビの、ことですか…?」
夏彦さんは笑って、何かを懐かしむように話しはじめた。
「俺と初めて会ったときから、ハルはその子を絶対離さなかったんだ。
どこへ行くときも一緒で、寝るときは同じ布団に入って…あの人ともよく話したっけ」
「【あの人】…?」
「いや、こっちの話。…そうだ、今度小さい頃の写真沢山見せてあげようか?」
「それは、」
「…夏彦、何を話しているんですか?」
「え、あ、それは、」
「……ん?」
その一言にいつもとは違う威圧感がのっていて、背筋がぞくっとなる。
夏彦さんは笑顔をはりつかせたまま、荷物運びを続けてくれた。
「何か言われなかった?」
「だ、大丈夫です」
「それならいいけど…」
多分怒ってはいない。
ただ、その後も夏彦さんと話すときだけ春人から冷たい空気がもれていた。
こうして、私が知らなかった春人をまた知ることができたような気がする。
もう少し近づきたいなんて思うのは贅沢だろうか。
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