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夏彦ルート
第29話
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「あの…このくらいで大丈夫でしょうか?」
「うん!あとは縫っていくんだけど、並み縫いだとほどけるから…」
夏彦から沢山アドバイスをもらいながら、少しずつ進めていく。
「こう、ですか?」
「そうそう、そんな感じ!月見ちゃん呑みこみ早いね」
「そうでしょうか…」
「すごく上手だよ」
こんなふうに誰かに褒められたことなんてなかった。
できていない場所を叱られることはあっても、満面の笑みを向けられたことなんて1度もなかったのだ。
だから、今も反応に困っている。
どうすればいいのか分からなくて、とにかく混乱してしまう。
「えっと、あ、ありがとう、ございます…」
「月見ちゃんのペースでやっていけば確実に間に合うよ。俺より早くできあがるかも」
「夏彦が丁寧に教えてくれるから、すごく楽しいんです」
「それならいいけど、疲れたら休憩しようね」
少しずつ形になっていく布だったものを見ると、本当に自分で作っているのか疑わしくなってくる。
自分の洋服の修繕なら何度もしてきたけれど、こんなふうに1から服を作れるのは楽しい。
それに、誰かの為になれることが何よりも嬉しかった。
「そこは布が固いから俺がやるよ。結構力を入れないと針が通らないし…多分、ミシンでやった方が安全だから」
「ごめんなさ…お願いします」
「任せて」
夏彦がミシンを動かすところを隣で見学させてもらう。
その瞳には真剣さが滲んでいて、ただ見ているだけのはずの私も緊張した。
「はい、完成!一旦ここまでにして、ご飯食べようか」
「あの…私が作ってもいいですか?」
「駄目とは言わないけど…月見ちゃん、疲れてるんじゃない?
それに、ふたりでやった方が早いからちゃちゃっと完成させようか」
「はい」
料理は洋服作りの息抜きにもなるし、誰かと一緒にできるのが嬉しい。
いつも残飯ばかり食べていた頃とは違うんだと思うと少しだけ複雑になる。
私はこの生活を続けていたい。
ただ、夏彦はどう思っているんだろう。
やっぱり私がいたら迷惑になるのではないか…そう考えると、彼に直接訊くのが怖い。
「……ちゃん、月見ちゃん」
「あ…ごめんなさい」
夏彦の声にはっとしてフライパンに目を向けたときには遅かった。
魚の皮は焼き目がつくどころか真っ黒で、身も明らかに火が通りすぎている。
まさかこんなに焦がしてしまうとは…。
「謝らなくても大丈夫だよ。こうなっちゃったときのとっておきがあるんだ!」
そう言って彼が冷蔵庫から取り出したのは、お茶のような色の液体。
「それって何ですか?」
「ご飯に魚に海苔、それからこれをかけて…冷やし出汁茶漬けの完成!」
…洋服以外のアイデアも沢山出てくるのが本当にすごいと立ち尽くしてしまう。
それからふたりで食べたそれの味は、表現できないほど美味しかった。
「うん!あとは縫っていくんだけど、並み縫いだとほどけるから…」
夏彦から沢山アドバイスをもらいながら、少しずつ進めていく。
「こう、ですか?」
「そうそう、そんな感じ!月見ちゃん呑みこみ早いね」
「そうでしょうか…」
「すごく上手だよ」
こんなふうに誰かに褒められたことなんてなかった。
できていない場所を叱られることはあっても、満面の笑みを向けられたことなんて1度もなかったのだ。
だから、今も反応に困っている。
どうすればいいのか分からなくて、とにかく混乱してしまう。
「えっと、あ、ありがとう、ございます…」
「月見ちゃんのペースでやっていけば確実に間に合うよ。俺より早くできあがるかも」
「夏彦が丁寧に教えてくれるから、すごく楽しいんです」
「それならいいけど、疲れたら休憩しようね」
少しずつ形になっていく布だったものを見ると、本当に自分で作っているのか疑わしくなってくる。
自分の洋服の修繕なら何度もしてきたけれど、こんなふうに1から服を作れるのは楽しい。
それに、誰かの為になれることが何よりも嬉しかった。
「そこは布が固いから俺がやるよ。結構力を入れないと針が通らないし…多分、ミシンでやった方が安全だから」
「ごめんなさ…お願いします」
「任せて」
夏彦がミシンを動かすところを隣で見学させてもらう。
その瞳には真剣さが滲んでいて、ただ見ているだけのはずの私も緊張した。
「はい、完成!一旦ここまでにして、ご飯食べようか」
「あの…私が作ってもいいですか?」
「駄目とは言わないけど…月見ちゃん、疲れてるんじゃない?
それに、ふたりでやった方が早いからちゃちゃっと完成させようか」
「はい」
料理は洋服作りの息抜きにもなるし、誰かと一緒にできるのが嬉しい。
いつも残飯ばかり食べていた頃とは違うんだと思うと少しだけ複雑になる。
私はこの生活を続けていたい。
ただ、夏彦はどう思っているんだろう。
やっぱり私がいたら迷惑になるのではないか…そう考えると、彼に直接訊くのが怖い。
「……ちゃん、月見ちゃん」
「あ…ごめんなさい」
夏彦の声にはっとしてフライパンに目を向けたときには遅かった。
魚の皮は焼き目がつくどころか真っ黒で、身も明らかに火が通りすぎている。
まさかこんなに焦がしてしまうとは…。
「謝らなくても大丈夫だよ。こうなっちゃったときのとっておきがあるんだ!」
そう言って彼が冷蔵庫から取り出したのは、お茶のような色の液体。
「それって何ですか?」
「ご飯に魚に海苔、それからこれをかけて…冷やし出汁茶漬けの完成!」
…洋服以外のアイデアも沢山出てくるのが本当にすごいと立ち尽くしてしまう。
それからふたりで食べたそれの味は、表現できないほど美味しかった。
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