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イベントもの
真夏の大輪・壱
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「ごちそうさまでした」
「片づけますね」
いつもどおり、一緒にご飯を食べてゆっくり寛ぐ。
これが終わったら何をしようかと考えていると、春人に声をかけられる。
「もしよかったら花火でもやろう」
「花火、ですか?」
見たことはあったけれど、当然やったことは1度もない。
迷惑をかけてしまうのではと不安になり断ろうとすると、ぐっと手を掴まれる。
「俺が息抜きにつきあってほしいだけだから、別に気にしなくていい」
素っ気ない言い方をしているけれど、言葉ひとつひとつに優しさが隠れている。
春人は丁寧に教えてくれて、それがとてもありがたかった。
「それを下に向けて…そう、そのままの体勢で」
「こう、ですか?」
「大丈夫、ちゃんとできてるから」
沢山の花が咲いていく姿を見つめながら、ちらっと春人の方を見つめる。
その瞳は少し寂しそうで、何か話さなければと思うのに言葉が出てこない。
「…やっぱりここにいた」
「冬真、今日はどうしたんですか?」
「たまたま近くに来たから。…花火してるの?」
「はい。久しぶりにやってみたくなりまして…。冬真も如何ですか?」
「俺、邪魔じゃない?」
冬真さんは私の方をちらっと見て小さく呟く。
「ごめんなさい、私がいたら、」
「そうではないんですよ。冬真は、月見にとって邪魔になるのではと考えているようです」
言われたことが当たっていたのか、
「私は、冬真さんとも仲良くなりたいです」
「…そう」
怒らせてしまったのかと思っていたけれど、一緒に花火をしてくれることになった。
「今はこういうのもあるんだね」
「新作だと店主が言っていました」
「…春人さんは、見てると寂しくなるの?」
その言葉に春人は1度手を止め、冬真さんの方をじっと見つめる。
「そんなことありませんよ」
「ならいいけど…」
嘘だ。
今の彼の言葉は嘘だとすぐ分かった。
それが昔のことと関係しているのか、それとも別の理由があるのかは分からない。
ただ、あまり聞かれたくない話だということは理解した。
「ありがとう。息抜きできた」
「それは何よりです。…ではまた」
冬真さんに向かって一礼すると、春人が最後の花火を取り出す。
「これが定番の線香花火。大抵最後にこれをやる」
「そう、なんですね…」
ぱちぱちと小さな花を咲かせる様子に魅いってしまいそうになりながらも、やっぱり彼の様子が気になってそちらを見てしまう。
「…どうかした?」
「花火に、嫌な思い出があるのかなって思ったんです」
「嫌なことじゃないよ。…ただ、ちょっと懐かしいことを思い出してただけ」
その瞳からは先程の寂しさは消えていたけれど、どんなことを考えていたのか気になる。
私はまだ、彼について知らないことが多い。
いつか、もっと深く知ることができるだろうか。
……知れるといいな。
「片づけますね」
いつもどおり、一緒にご飯を食べてゆっくり寛ぐ。
これが終わったら何をしようかと考えていると、春人に声をかけられる。
「もしよかったら花火でもやろう」
「花火、ですか?」
見たことはあったけれど、当然やったことは1度もない。
迷惑をかけてしまうのではと不安になり断ろうとすると、ぐっと手を掴まれる。
「俺が息抜きにつきあってほしいだけだから、別に気にしなくていい」
素っ気ない言い方をしているけれど、言葉ひとつひとつに優しさが隠れている。
春人は丁寧に教えてくれて、それがとてもありがたかった。
「それを下に向けて…そう、そのままの体勢で」
「こう、ですか?」
「大丈夫、ちゃんとできてるから」
沢山の花が咲いていく姿を見つめながら、ちらっと春人の方を見つめる。
その瞳は少し寂しそうで、何か話さなければと思うのに言葉が出てこない。
「…やっぱりここにいた」
「冬真、今日はどうしたんですか?」
「たまたま近くに来たから。…花火してるの?」
「はい。久しぶりにやってみたくなりまして…。冬真も如何ですか?」
「俺、邪魔じゃない?」
冬真さんは私の方をちらっと見て小さく呟く。
「ごめんなさい、私がいたら、」
「そうではないんですよ。冬真は、月見にとって邪魔になるのではと考えているようです」
言われたことが当たっていたのか、
「私は、冬真さんとも仲良くなりたいです」
「…そう」
怒らせてしまったのかと思っていたけれど、一緒に花火をしてくれることになった。
「今はこういうのもあるんだね」
「新作だと店主が言っていました」
「…春人さんは、見てると寂しくなるの?」
その言葉に春人は1度手を止め、冬真さんの方をじっと見つめる。
「そんなことありませんよ」
「ならいいけど…」
嘘だ。
今の彼の言葉は嘘だとすぐ分かった。
それが昔のことと関係しているのか、それとも別の理由があるのかは分からない。
ただ、あまり聞かれたくない話だということは理解した。
「ありがとう。息抜きできた」
「それは何よりです。…ではまた」
冬真さんに向かって一礼すると、春人が最後の花火を取り出す。
「これが定番の線香花火。大抵最後にこれをやる」
「そう、なんですね…」
ぱちぱちと小さな花を咲かせる様子に魅いってしまいそうになりながらも、やっぱり彼の様子が気になってそちらを見てしまう。
「…どうかした?」
「花火に、嫌な思い出があるのかなって思ったんです」
「嫌なことじゃないよ。…ただ、ちょっと懐かしいことを思い出してただけ」
その瞳からは先程の寂しさは消えていたけれど、どんなことを考えていたのか気になる。
私はまだ、彼について知らないことが多い。
いつか、もっと深く知ることができるだろうか。
……知れるといいな。
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