4 / 385
イベントもの
短冊に綴る想い・弐
しおりを挟む
「月見ちゃん、大丈夫?」
「は、はい…」
夏彦に気を遣わせたくなくて、いつもの調子でそんなふうに答えてしまう。
人は多いのは苦手だけど、折角今の時間ならと外に連れ出してくれたのだからもう少し夜空を楽しみたい。
「ここに願い事を書いた紙…短冊を結んでおくと願いが叶うんだって」
「大きい、ですね」
「今年は張り切ってたらしいよ。今までで1番大きな笹を置くんだって…」
これが笹というものなのか。
本では何度か見たことがあったものの、こうして直接間近で見るのは初めてだ。
さらさらと音がして、ここに糸を結ぶと思うと少し罪悪感が沸いてくる。
「月見ちゃん、お願い事は決めた?」
「た、多分…」
私の願いは、ただ色々な人に迷惑をかけずに過ごせるようにということだけだ。
ちらっと見えた夏彦の短冊には、《商売繁盛と月見ちゃんの幸せ》と書かれている。
…夏彦の幸せをお願いに追加しておこう。
「あ、マー君のだ」
「知り合いの方、ですか?」
「ごめん、こんな呼び方じゃ分からないよね」
「その呼び方、本当にやめて」
振り返ると、そこではトウマさんがため息を吐きながら立っていた。
「マー君、やっぱり来てたんだ」
「別にいいでしょ。僕は忙しいからもう行く」
トウマさんは無表情のまま、人混みの中へと消えていった。
「…私、何かしてしまったのでしょうか」
「マー君は悪い子じゃないんだけど、いつも言葉が足りてないというか…。
あの感じ、多分本当に急ぎの用事があったんだと思うよ」
それが気にしないように言ってくれていることなのか、それとも本当のことなのかは分からない。
ただ、人が多すぎてだんだん頭が痛くなってきた。
そういえば、先程から夏彦が何も話さない。
「あ…」
手に触れていたぬくもりが消えたことに気づき、ふと顔をあげたときには遅かった。
どうしようか困っていると、誰かに手首を握られる。
「…こっち」
「え…?」
声がした方を見てみると、トウマさんが手をひいてくれている。
「あの、えっと、」
「いいから」
それだけ話してどんどん人気がない道に入っていく。
「夏彦、見つけた」
「月見ちゃん、ごめん!」
「いえ、私の方こそ…あの、ありがとうございました」
トウマさんにお礼を言ったつもりだったけれど、言葉が返ってこない。
「ちょいちょいマー君。ちゃんと言わないと伝わらないって、この前アッキーにも言われてなかったっけ?」
「…僕は夏彦を手伝っただけだから」
そう話すと、トウマさんはまた人混みに消えていった。
完全に姿が見えなくなったところで、夏彦がため息混じりに教えてくれる。
「月見ちゃんがいなくなってるのに気づいたのは、マー君なんだ。
それで、いそうな場所を探すって自分から率先して手伝ってくれたんだよ」
「そう、なんですね…」
少し怖そうな人だと思っていたけれど、実は知らないだけで違うのかもしれない。
もう少し夏彦たちのことを知りたいと願いながら、星空のアーチをくぐって来た道を戻ったのだった。
「は、はい…」
夏彦に気を遣わせたくなくて、いつもの調子でそんなふうに答えてしまう。
人は多いのは苦手だけど、折角今の時間ならと外に連れ出してくれたのだからもう少し夜空を楽しみたい。
「ここに願い事を書いた紙…短冊を結んでおくと願いが叶うんだって」
「大きい、ですね」
「今年は張り切ってたらしいよ。今までで1番大きな笹を置くんだって…」
これが笹というものなのか。
本では何度か見たことがあったものの、こうして直接間近で見るのは初めてだ。
さらさらと音がして、ここに糸を結ぶと思うと少し罪悪感が沸いてくる。
「月見ちゃん、お願い事は決めた?」
「た、多分…」
私の願いは、ただ色々な人に迷惑をかけずに過ごせるようにということだけだ。
ちらっと見えた夏彦の短冊には、《商売繁盛と月見ちゃんの幸せ》と書かれている。
…夏彦の幸せをお願いに追加しておこう。
「あ、マー君のだ」
「知り合いの方、ですか?」
「ごめん、こんな呼び方じゃ分からないよね」
「その呼び方、本当にやめて」
振り返ると、そこではトウマさんがため息を吐きながら立っていた。
「マー君、やっぱり来てたんだ」
「別にいいでしょ。僕は忙しいからもう行く」
トウマさんは無表情のまま、人混みの中へと消えていった。
「…私、何かしてしまったのでしょうか」
「マー君は悪い子じゃないんだけど、いつも言葉が足りてないというか…。
あの感じ、多分本当に急ぎの用事があったんだと思うよ」
それが気にしないように言ってくれていることなのか、それとも本当のことなのかは分からない。
ただ、人が多すぎてだんだん頭が痛くなってきた。
そういえば、先程から夏彦が何も話さない。
「あ…」
手に触れていたぬくもりが消えたことに気づき、ふと顔をあげたときには遅かった。
どうしようか困っていると、誰かに手首を握られる。
「…こっち」
「え…?」
声がした方を見てみると、トウマさんが手をひいてくれている。
「あの、えっと、」
「いいから」
それだけ話してどんどん人気がない道に入っていく。
「夏彦、見つけた」
「月見ちゃん、ごめん!」
「いえ、私の方こそ…あの、ありがとうございました」
トウマさんにお礼を言ったつもりだったけれど、言葉が返ってこない。
「ちょいちょいマー君。ちゃんと言わないと伝わらないって、この前アッキーにも言われてなかったっけ?」
「…僕は夏彦を手伝っただけだから」
そう話すと、トウマさんはまた人混みに消えていった。
完全に姿が見えなくなったところで、夏彦がため息混じりに教えてくれる。
「月見ちゃんがいなくなってるのに気づいたのは、マー君なんだ。
それで、いそうな場所を探すって自分から率先して手伝ってくれたんだよ」
「そう、なんですね…」
少し怖そうな人だと思っていたけれど、実は知らないだけで違うのかもしれない。
もう少し夏彦たちのことを知りたいと願いながら、星空のアーチをくぐって来た道を戻ったのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
怒れるおせっかい奥様
asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。
可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。
日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。
そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。
コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。
そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。
それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。
父も一緒になって虐げてくるクズ。
そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。
相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。
子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない!
あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。
そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。
白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。
良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。
前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね?
ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。
どうして転生したのが私だったのかしら?
でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!
あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ!
子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。
私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ!
無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ!
前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる!
無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。
他の人たちのざまあはアリ。
ユルユル設定です。
ご了承下さい。
旦那様は妻の私より幼馴染の方が大切なようです
雨野六月(まるめろ)
恋愛
「彼女はアンジェラ、私にとっては妹のようなものなんだ。妻となる君もどうか彼女と仲良くしてほしい」
セシリアが嫁いだ先には夫ラルフの「大切な幼馴染」アンジェラが同居していた。アンジェラは義母の友人の娘であり、身寄りがないため幼いころから侯爵邸に同居しているのだという。
ラルフは何かにつけてセシリアよりもアンジェラを優先し、少しでも不満を漏らすと我が儘な女だと責め立てる。
ついに我慢の限界をおぼえたセシリアは、ある行動に出る。
(※4月に投稿した同タイトル作品の長編版になります。序盤の展開は短編版とあまり変わりませんが、途中からの展開が大きく異なります)
【完結】公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す
金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。
今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。
死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。
しかも、すでに王太子とは婚約済。
どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。
ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか?
作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。
甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。
そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。
しかしその婚約は、すぐに破談となる。
ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。
メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。
ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。
その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる