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夏彦ルート
第21話
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それからというもの、夏彦は真夜中に出掛けるとき必ずどんなことをしに行くのか話してくれるようになった。
「守秘義務があるからどんなことかは教えられないけど、大切な仕事なんだ」
「い、いってらっしゃい」
「いってきます。…できるだけ早く帰ってくるね」
ソルトとふたりで留守番をする時間が若干増えたような気もするが、それでも真剣に仕事と向き合っている彼の邪魔にはなりたくない。
「…ソルト?」
いつものように声がしないと思っていたら、ソルトは丸くなって眠っていた。
その姿を微笑ましく思いながら、手にはめている手袋をはずす。
「──お願い、蕀さんたち」
特に急ぎの用事があるわけでも、何かを調べる必要があるわけでもない。
ただ、時々こうして出しておかないといざというときに咄嗟に動けないような気がする。
「痛…薬草?」
いつも出てくるわけではないそれを摘んで、窓際で月を見つめる。
まだまだ暑さが和らぐ気配がないなか、少しだけ裁縫の練習をすることにした。
こんなことでも役に立てるなら、自分にできることをしたい。
夏彦が怪我をしないことを祈りながら、ぼんやりと月明かりを浴びる。
独りの時間の過ごし方を少しずつ忘れてしまいつつあるけれど、もっと手芸が上手くできれば役に立てるだろうか。
そんなことを考えながら、蔦を編んで指先の感覚を鍛えた。
「ただい…え、大丈夫!?」
「ご、ごめんなさい…」
蕀が予想以上に出てきて、それを隠すのでせいいっぱいだった。
その為、手のひらから滴り落ちる血を片づける余裕がなかったのだ。
「気にしないで。拭くのは後でもできるから、先に消毒しようか」
「ありがとう、ございます」
「それじゃあまずは左手からね」
夏彦の手は温かくて、ずっと握っていてほしいなんて思ってしまった。
消毒液の痛みよりその想いの方が強くて、手当ての時間が終わらないでほしいなんて考えている。
…私はおかしいのだろうか。
「次は右手やるね」
「ごめんなさい」
「いいんだよ。困ったときはお互い様なんだから」
「でも私は、」
「何もできてない、なんて言わないでね。俺は月見ちゃんに感謝してるんだから」
夏彦の笑顔は少しだけ疲れているように見えて、何かできないかと視線を巡らせる。
ちらっと見えたのは、作りかけのまま置かれている紅茶だった。
「はい、手当て終わり!そのグローブ、そろそろ別のも作るね」
「いいんですか?」
「勿論!」
「ありがとうございます。あの、えっと…紅茶、淹れかけだったのでもしよければ一緒に飲みませんか?」
「それじゃあお願いしようかな」
夏彦は優しい口調でそう話してくれるけれど、やっぱり疲れているような気がする。
…【情報屋】というのは、一体どんなお仕事なのだろうか。
「守秘義務があるからどんなことかは教えられないけど、大切な仕事なんだ」
「い、いってらっしゃい」
「いってきます。…できるだけ早く帰ってくるね」
ソルトとふたりで留守番をする時間が若干増えたような気もするが、それでも真剣に仕事と向き合っている彼の邪魔にはなりたくない。
「…ソルト?」
いつものように声がしないと思っていたら、ソルトは丸くなって眠っていた。
その姿を微笑ましく思いながら、手にはめている手袋をはずす。
「──お願い、蕀さんたち」
特に急ぎの用事があるわけでも、何かを調べる必要があるわけでもない。
ただ、時々こうして出しておかないといざというときに咄嗟に動けないような気がする。
「痛…薬草?」
いつも出てくるわけではないそれを摘んで、窓際で月を見つめる。
まだまだ暑さが和らぐ気配がないなか、少しだけ裁縫の練習をすることにした。
こんなことでも役に立てるなら、自分にできることをしたい。
夏彦が怪我をしないことを祈りながら、ぼんやりと月明かりを浴びる。
独りの時間の過ごし方を少しずつ忘れてしまいつつあるけれど、もっと手芸が上手くできれば役に立てるだろうか。
そんなことを考えながら、蔦を編んで指先の感覚を鍛えた。
「ただい…え、大丈夫!?」
「ご、ごめんなさい…」
蕀が予想以上に出てきて、それを隠すのでせいいっぱいだった。
その為、手のひらから滴り落ちる血を片づける余裕がなかったのだ。
「気にしないで。拭くのは後でもできるから、先に消毒しようか」
「ありがとう、ございます」
「それじゃあまずは左手からね」
夏彦の手は温かくて、ずっと握っていてほしいなんて思ってしまった。
消毒液の痛みよりその想いの方が強くて、手当ての時間が終わらないでほしいなんて考えている。
…私はおかしいのだろうか。
「次は右手やるね」
「ごめんなさい」
「いいんだよ。困ったときはお互い様なんだから」
「でも私は、」
「何もできてない、なんて言わないでね。俺は月見ちゃんに感謝してるんだから」
夏彦の笑顔は少しだけ疲れているように見えて、何かできないかと視線を巡らせる。
ちらっと見えたのは、作りかけのまま置かれている紅茶だった。
「はい、手当て終わり!そのグローブ、そろそろ別のも作るね」
「いいんですか?」
「勿論!」
「ありがとうございます。あの、えっと…紅茶、淹れかけだったのでもしよければ一緒に飲みませんか?」
「それじゃあお願いしようかな」
夏彦は優しい口調でそう話してくれるけれど、やっぱり疲れているような気がする。
…【情報屋】というのは、一体どんなお仕事なのだろうか。
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