裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第14話

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春人は相変わらず、夜になるとどこかへ行ってしまうことが多い。
「それじゃあいってきます」
「い、いってらっしゃい…」
扉が閉まった後、ラビとチェリーを抱きしめる。
あの場所にいた頃はずっと独りだったのに、今は独りでいると不安になってしまう。
普通の人たちなら寝ている時間なのだろうけれど、私は未だにそれができない。
「……少しお話してもいい?」
周りから見ればぬいぐるみに語りかけるのはおかしいことなのだろう。
…でも、私が心を許せたのはぬいぐるみたちしかいなかった。
〈おまえなんか要らないのよ!〉
何度も殴られた場所が今でも痛む。
春人を悲しませたくなくて、ただ笑っていてほしくて誤魔化している…つもりだ。
「…ふたりとも、ここにいてね」
勝手に外に出る訳にもいかないので、入ってもいいと許可をもらっている部屋の扉に手をかける。
そこには、見たことがない大量の道具が保管されていた。
勝手に触ってはいけないと思いつつ、1歩だけ足を踏み入れてみる。
すると、目の前にころころと歯車が転がってきた。
「…何やってるの?」
帰ってきたことに全く気づいていなかった私は、ただひたすら頭を下げる。
「ご、ごめんなさい。どんな部屋なのか気になってしまって、それで歯車が…」
「ここは壊れたものを直す為の部屋。別に入っても構わないけど、工具にはあまり触らない方がいい」
「分かり、ました」
怒られると思っていたのに、次に聞こえてきた一言は予想外のものだった。
「…ただいま」
「え?」
「今日は寝てるのかと思ったから、何も言わずに入ってきた。だから…ただいま」
「お、おかえりなさい」
彼はとてもいい人で、けれど何か抱えているように見えてもっと力になりたいと思う。
ただ、私には人との距離感が分からない。
ここから踏みこんだことを訊いてしまってもいいのか、それともこれ以上は駄目なのか…。
「もしまだ眠れそうにないなら、少しだけ手伝ってもらってもいい?」
「はい。勿論です」
寂しさで塗りつぶされていた心に、だんだん明るい光がさしこんでくる。
私がいても邪魔になるだけだと思っていた。
それなのに、彼はいつも私に光を与えてくれる。
あの家のことを考えると気分が悪くなるけれど、それとは違う意味で胸が苦しくなることがあるのはどうしてだろう。
「そっちの棚の1番上にある部品、とってくれる?」
「は、はい」
指定された場所から部品を取り出すと、ただ一言ありがとうと伝えてくれる。
今はできることが少ないけれど、もっと役に立てる日がくるのだろうか。
…くるといいな。
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