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春人ルート
第13話
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…これは一体、どうやって食べればいいのだろう。
「そんなに考えなくても、好きなところから食べてみればいい。
崩さずに食べるなんて至難の業だから、余程行儀悪くなければ大丈夫だよ」
「は、はい…」
ご飯を食べて少ししてから、ケーキというものに初めて向き合っている。
春人はそう言ってくれるものの、一気に崩してしまうのはなんだか申し訳ない。
それに、やっぱり初めてのものということもあって不安になってしまう。
「…このはじっこを崩すと、汚い食べ方にはならない」
「は、はい…いただきます」
ずっと怖がっていても仕方がないので、思いきって一口食べてみる。
「美味しい…」
「それはよかった」
瞬間、ぽろりと何かが零れ落ちる。
それは次第に止まらなくなっていって、自分でもどうしてこんなに溢れているのか分からない。
「大丈夫…?」
「ご、ごめんなさ…」
春人を困らせたい訳じゃないのに、歪みながら目にうつるのは彼の戸惑う表情だった。
人前ではできるだけ泣かないようにしてきたつもりだったのに、今は何故か止められない。
「泣きたいときは我慢なんてしなくていい。思いきり泣いていいんだよ」
思いきり泣く…?
それは一体、どうすればできるのだろうか。
それとも、今の状態はそれができていることになる…?
混乱する頭を抱えながら考えていると、そっと優しく撫でられた。
「泣かないでとは言わない。…俺には、泣いてもいいよとしか言えない」
「ごめんなさ…」
止めたいのに止められない。
空からは雨が降り続けている。
どうかこの複雑でよく分からない想いも、一緒に流していってはくれないだろうか。
「…落ち着いた?」
「……ごめんなさい」
「そんなに謝る必要はない。美味しかったならそれでいいんだ」
とても美味しかった。ただ、少しだけ疑問がある。
「あ、あの…」
「どうかした?」
「どうして、この味だったんですか?」
春人が食べていたのは、真っ白なクリームに真っ赤な苺がついているものだった。
私がもらったものはチョコレートの味がして、どうしてわざわざ選んでくれたのか疑問だったのだ。
「それは…君がよくチョコレート菓子を選ぶからチョコレートケーキにしただけだよ」
同じもので全然構わないのに、彼はこうして気遣ってくれる。
それがとてもありがたくて、ただ一礼することしかできなかった。
「ありがとう、ございます」
「たまたまあったから買ってきただけだよ」
「…あの、春人は白いクリームのケーキが好きなんですか?」
「うん。…昔、いつも買ってきてくれてたから」
それは、他の3人のなかの誰かだろうか。
…いや、もしそうならこんな表情はしないだろう。
まるで何かを思い出すように、黒柿色の髪が寂しげに揺れたような気がした。
「そんなに考えなくても、好きなところから食べてみればいい。
崩さずに食べるなんて至難の業だから、余程行儀悪くなければ大丈夫だよ」
「は、はい…」
ご飯を食べて少ししてから、ケーキというものに初めて向き合っている。
春人はそう言ってくれるものの、一気に崩してしまうのはなんだか申し訳ない。
それに、やっぱり初めてのものということもあって不安になってしまう。
「…このはじっこを崩すと、汚い食べ方にはならない」
「は、はい…いただきます」
ずっと怖がっていても仕方がないので、思いきって一口食べてみる。
「美味しい…」
「それはよかった」
瞬間、ぽろりと何かが零れ落ちる。
それは次第に止まらなくなっていって、自分でもどうしてこんなに溢れているのか分からない。
「大丈夫…?」
「ご、ごめんなさ…」
春人を困らせたい訳じゃないのに、歪みながら目にうつるのは彼の戸惑う表情だった。
人前ではできるだけ泣かないようにしてきたつもりだったのに、今は何故か止められない。
「泣きたいときは我慢なんてしなくていい。思いきり泣いていいんだよ」
思いきり泣く…?
それは一体、どうすればできるのだろうか。
それとも、今の状態はそれができていることになる…?
混乱する頭を抱えながら考えていると、そっと優しく撫でられた。
「泣かないでとは言わない。…俺には、泣いてもいいよとしか言えない」
「ごめんなさ…」
止めたいのに止められない。
空からは雨が降り続けている。
どうかこの複雑でよく分からない想いも、一緒に流していってはくれないだろうか。
「…落ち着いた?」
「……ごめんなさい」
「そんなに謝る必要はない。美味しかったならそれでいいんだ」
とても美味しかった。ただ、少しだけ疑問がある。
「あ、あの…」
「どうかした?」
「どうして、この味だったんですか?」
春人が食べていたのは、真っ白なクリームに真っ赤な苺がついているものだった。
私がもらったものはチョコレートの味がして、どうしてわざわざ選んでくれたのか疑問だったのだ。
「それは…君がよくチョコレート菓子を選ぶからチョコレートケーキにしただけだよ」
同じもので全然構わないのに、彼はこうして気遣ってくれる。
それがとてもありがたくて、ただ一礼することしかできなかった。
「ありがとう、ございます」
「たまたまあったから買ってきただけだよ」
「…あの、春人は白いクリームのケーキが好きなんですか?」
「うん。…昔、いつも買ってきてくれてたから」
それは、他の3人のなかの誰かだろうか。
…いや、もしそうならこんな表情はしないだろう。
まるで何かを思い出すように、黒柿色の髪が寂しげに揺れたような気がした。
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