裏世界の蕀姫

黒蝶

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イベントもの

短冊に綴る想い・壱

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「あの、これは一体…」
真横に立っている春人が持っているものは、今まで1度も見たことがないものだ。
「秋久がくれた。その短冊っていう紙に願い事を書いて。それから少しだけ出掛ける」
「分かり、ました」
できるだけ早く支度を整え、願い事を考えてみる。
ただ、残念なことに簡単には思いつかない。
「欲しいものとかやりたいこととか、君の心を素直に書いてみればいい。
それこそ、空を飛んでみたいだとか叶うかどうか分からないことを書くのもいいと思う」
「…書けました」
「それじゃあ行こう。…町の大きな笹に結ばないと、願い事が空まで届いてくれないから」
春人はただ黙って手をひいてくれる。
いつかこの優しさを、何かしらの形で返すことはできるだろうか。
人がわいわいしている場所はあまり得意ではないけれど、手を繋いでもらっているおかげがいつもより落ち着いて過ごせている…ような気がする。
「おう、やっぱりふたりとも来たか」
「こ、こんばんは…」
アキヒサさんに会うのは久しぶりで、どう話せばいいのか分からずにただ一礼する。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「…はい」
「お嬢ちゃんのは俺が結んでやろう。身長を生かせそうだしな」
「ありがとう、ございます」
たしかにアキヒサさんはとても大きい。
どう表現するのがいいか分からないけれど、周りの人と比べても頭ひとつ分出ている。
「ほら、できた」
ちらっと見えた短冊には、《周りの奴等の平和》と書かれていた。
「春人、おまえのも…」
「大丈夫です。あまり目立たない場所に、自分で結んでおきたいので」
アキヒサさんはそうかと言ってただ微笑んでいた。
「…なあ」
「え、あ、はい」
春人が短冊を結んでいる間にアキヒサさんから声をかけられる。
どんなことを言われるんだろうと不安に思っていると、予想外の質問が飛んできた。
「春人とは楽しく過ごせてるか?」
「ご迷惑になっていないか心配になるくらい、いつも親切にしてもらっています」
アキヒサさんは夜空を見上げながらぽつりと呟いた。
「あいつはちょっと言葉が足りないことがあるが、悪い奴じゃない。お嬢ちゃんが家事全般頑張ってくれてるって話もちゃんと聞いてる。
だから…もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃねえか?」
「ぜ、善処します…」
言葉遣いや呼び方を強要されないだけでも、私にとっては奇跡としか言いようがない。
ただ、アキヒサさんは春人が心配で堪らないという目をしている。
私にできることは祈ることくらいしかないけれど、春人が困っているときは助けになりたい。
「お待たせしました。それでは帰りましょうか」
「…うん」
一体春人はどんなお願い事を綴ったのだろうか。

……《春人の願いが叶いますように》と書いた短冊が、ちゃんと叶えてくれるといいな。
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