路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-New dark appearance-

第111話

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ー*ー
「ん...」
私が目を開けると、そこは見慣れたベッドの上だった。
(もしかして、カムイが運んでくださったのでしょうか?)
起こしてほしいとお願いしたはずなのだけれど、もしかすると気を遣って起こさないようにしてくれたのかもしれない。
キッチンの方からいい香りがする。
「メル、起きた?」
「カムイ...!」
「ごめんね、メルがとても気持ちよさそうに寝てたから、どうしても起こしたくなかったんだ」
「ありがとうございます。ぐっすり眠れました」
キッチンには、とても美味しそうな香りが漂っていた。
フライパンの中を見ると、そこには私が大好きなものが入っていた。
「ハンバーグです...!」
「そうだよ、今日は夕食の買い物に行けなかったから、余っていた材料でハンバーグを作りました」
カムイが微笑みかけてくれる。
私もつられて笑顔を返した。
ー**ー
先程よりは元気そうなメルを見て、少し安心した。
(少なくとも、間違ってはなかったみたいだ)
「今日は中にチーズを沢山入れたんだ」
「とっても美味しそうです...!」
メルが目をキラキラとさせて、じっとフライパンの方を見ている。
じゅわ...と美味しそうな音がなった。
「わあ...」
「先に、お風呂に入っておいで?お湯は入れてあるから」
「はい!」
俺はその間に、せっせと料理の仕上げをする。
メルの笑顔が見たかった。
だから、ある意味成功だが...もっと笑ってほしい。
どうすればいいだろうか。
ー*ー
「今日はどれを入れましょうか...」
私は、バスソルトを何にするか悩んでいた。
『癒しのラベンダー』という文字が目に入る。
私はそれを手にとり、入浴を済ませた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いただきます」
「いただきます」
私はその美味しさのあまり、言葉が出てこなかった。
「メル?もしかして、不味かった?」
「いえ、とっても美味しいです!美味しくて、感動してしまって...」
「よかった」
カムイはフォークで切り分けて、自分の分も分けてくれた。
「俺のはソースをチーズにして、中は普通のハンバーグなんだ。...口開けて?」
「...っ」
私は恥ずかしかったけれど、とても美味しく食べられた気がした。
「じゃあ、カムイも食べてください」
「じゃあ、遠慮なく」
カムイの口に運んだ時、窓から顔が覗いていた。
「きゃっ...」
ー**ー
「メル?」
「ごめんなさい、誰かが覗いていたので...」
「ちょっと待っててね」
俺が玄関のドアを開けると、エリックが立っていた。
「どうしたの?」
「すまない、ドアをノックしても反応がなかったので、何かあったのかと思ってな...」
「ドアをノックしてたの?ごめん、全然気づいてなかったよ。それで?何か急ぎの用があってきたんでしょ...?」
エリックは申し訳なさそうに話を切り出してきた。
「その、ホテルの事件の調書をとらせてほしいんだが...」
「どうして、そのことをご存知なんですか...?」
メルが少し震えている。
また思い出してしまったのだろうか。
「メル、大丈夫だよ」
「ごめんなさい...ごめ、ごめんなさっ」
「どうした?」
...過呼吸だ。
エリックが青ざめている。
「メル、ゆっくり息をしてごらん?」
「はあ、は...ぁ」
震えが止まらない。
恐らく、痙攣をおこしかけている。
(早く処置をしないと...)
ー*ー
「カム、イ」
「落ち着いた?」
たしか、エリックさんがきて、それから...。
「ごめんなさい...」
思い出すと、とても申し訳なく感じた。
「メルのせいじゃないよ」
「でも、私...」
涙が止まらなかった。
どうして私は、こんなにも迷惑をかけてしまうのだろう。
「あれだけ怖い思いをしたんだ。だから、思い出して怖くなるのも仕方ないよ」
「...すまなかった」
エリックさんに頭をさげられた。
「エリックさんは悪くありません。私がもっとしっかりしていれば...」
私が、もっと強かったら。
それならきっと、こんなふうに迷惑をかけなかったのに...。
「違うよ。今回は、誰も悪くないんだ。メルはしっかりしてないわけじゃない。ただ、今日は調子が悪くて体調を崩しただけなのかもしれない。それに、エリックは仕事できたんだ。それは悪いことじゃないよね?」
「カムイ...」
「おまえはこういう時、本当に器用だな」
「そうかな?」
カムイとエリックさんが話しているのを聞いて、だんだん落ち着いてきた。
「エリックさん、調書をとるんですよね?」
「メル、無理はしなくていい。上は俺がなんとかする。だから...」
「いえ、もう平気です。だから...何をお話ししたらいいのか、教えてください」
「強いね、メルは」
私が話している間、カムイがずっとそばにいてくれた。
手を、繋いでいてくれた。
そのあたたかさに、私は安心した。
(怖いけど、ちゃんと話をしないとです)
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