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48・お見舞いに来た2人。

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俺はベッドから降りてパジャマ姿のままドアの方に行き、澤田さんと金森を部屋に迎え入れた。
2人を俺の部屋に案内したお母さんも部屋に入り、俺のデスクにジュースとクッキーの乗ったトレイを置く。


「あのね私たち御剣くんに先生からの伝言とー、明日の授業で必要なモノとか伝えに来たんだよー。」


俺と話す時の澤田さんは、普段より声のトーンが高い。
俺のお母さんの前でもそんな感じで、明るくて可愛い女子アピールをしてくる。
そんな澤田さんの背後に居る金森は、黙りこくったまま大人し過ぎて陰うっす。


「それにしても、走にこんな可愛いガールフレンドがいたなんて知らなかったわァ!」


珍しく女子が俺を訪ねて来たモンで、恋バナ好きなお母さんが嬉しそうに弾んだ声をあげた。
いやお母さん、ガールフレンドって呼び方って何かさぁ…


「やダァ、御剣くんのお母さんったら、もぉ~!
御剣くんのガールフレンドだなんて~」


ガールフレンドって言葉を、お母さんが彼女みたいな意味で使ったのか分からない。

でも澤田さんは、そう言われた様に受け取ったのか、嬉し恥ずかしみたいな表情をした。
遠慮したり否定したりしない開けっぴろげな所が、俺に好きだと告白済みの澤田さんらしいと言うか…強い所だよな。

そんな澤田さんの背後霊みたいになって、お母さんに存在をスルーされている様な金森に対して俺が変な気を使ってしまう。
だって、片想い中の女子が自分じゃないヤツのガールフレンドって言われて喜んでるって…切なすぎるよな。

そう思った俺は、ガールフレンド=彼女ではないし、澤田さんは俺の彼女でも彼女候補でもないと言いたくて口を挟んだのだけど。


「ガールフレンド!それ女の子の友達って意味だよね!
じゃ金森は男の子の友達だから、俺のボーイフレンドって事かな!?」


部屋に居る3人の、「ナニ変な事を言ってんの?」的な視線が刺さった。
俺だって金森をボーイフレンドだとか、自分で言ってて何だか気持ち悪いよ。

でも、その場の空気を一回終わらせる事は出来たっぽい。
俺はすかさず、お母さんの背中をドアの方にグイグイと押した。


「もう、お母さんは出て行って!
俺達だけで話したいから!」


「はいはぁい」


お母さんは口元を手で隠してクスクスと笑いながら部屋を出て行った。

階段を降りて行く足音が聞こえなくなると、お母さんの前では少しばかりおしとやかに振る舞っていた澤田さんが俺の部屋をキョロキョロと遠慮無しに歩き回って見回し始めた。


「わぁー御剣くんの部屋だぁ…きゃー!
特撮好きって聞いていたけど、やっぱり何とかライダーとか系のフィギュアも飾ってあるんだね。
でも一体だけなんだぁ。
もっとズラッといっぱい並んでるかと思ったぁ。」


「そこにあるのはライダーじゃないよ。
それはメタトロンって昔の特撮のフィギュアで、お父さんから貰ったんだ。」


お父さんの趣味部屋にはフィギュア専用の棚があり、澤田さんが言う様にズラっとフィギュアが並んでる。
俺の部屋にあるフィギュアはメタトロンだけだ。

メタトロンは正体がラファエル皇子で…子ども時代のラファエル皇子にベタ惚れした俺が小学一年生の頃にお父さんから半泣きで奪った大事なフィギュアだ。

澤田さんは俺の説明を聞いて「そうなんだ~」と軽い返事をしながら、壁伝いに他の場所も見て行く。

あまりジロジロ見られるのもなぁ…少しは遠慮して欲しい…。
そんな澤田さんを見て金森までソワソワしている。

暴力は振るうクセに意外と常識がある金森も、澤田さんの行動に気が気でない様子だ。


「なぁ、もう座れよ。
あんまり人の部屋をジロジロ見んなって! 
気が休まらないだろ、御剣一応は病人なんだぞ。」


「そうだった!ゴメンね、御剣くん!
…………なに!?この美少女!!」


金森に促され、一回壁から離れようとした澤田さんがコルクボードに貼られたラファエル皇子時代の真弓の写真に気付いた。

成長したラファエル皇子役の城之内ヤスヒロと、子ども時代を演じた真弓との20年前に撮られたツーショット写真。
俺は自分の写真を城之内ヤスヒロの上に重ねて貼っており、時空を越えたツーショット写真を演出している。

子役時代の真弓は本当にキレイで可愛くて、澤田さんが女の子と間違えたのも頷ける。

けど…どう説明しよう。


「これが御剣が言っていた、外国に居るっていう遠距離恋愛中の御剣の彼女か?」


金森が澤田さんの隣に立って写真を見てから俺に訊ねた。
思わぬ助け舟を出された俺は「そうそう」と頷き、金森の質問で俺に彼女が居る事を思い出した澤田さんが、少ししょんぼりした感じで、床に敷いたラグの上に座った。


「ハーフなのかな…思った以上に美少女だった…。
絶対に追い越すつもりだったのに…。」


「澤田、より可愛くなったからって御剣が今カノを振って澤田と付き合うって無いだろ。
だいたい、そんな外見だけで彼女を選ぶようなヤツじゃないだろ?御剣は。」


金森の誘導のお陰で、何か上手く話しが収まった気がする。

その後は、澤田さんと金森が学校からの連絡を俺に伝えてくれたり、今日は音楽の先生が休みで自習になったとか、とりとめの無い話をした。


「それと…御剣くん…………
ううん、やっぱり、なんでもない。」


澤田さんが俺に何かを伝えようとして、やめた。

何を言おうとしたのか気になったけど、言うのをやめたんだから追及しなくていいだろうと、俺もスルーした。
「やっぱり御剣くんが好き!」とか言われても困るし。




1時間ほどして、2人は帰る事になった。

俺は病人だから見送らなくていいと部屋で別れ、階段を降りた2人がお母さんと会話をして玄関から出て行く音がした。


「目ざといなぁ澤田さん……」


俺は、コルクボードに貼られたラファエル皇子姿の真弓の写真に目をやり呟く。

本当は、この場に今の真弓と撮った写真を飾りたい。
でも、どの写真もきっと俺が真弓を好きだってのが、あからさまに分かる顔をしてそうだし貼る事が出来ない。


「今日みたいに誰かに見られて、真弓の存在をみんなに知られるのも嫌だしな…ん?」


玄関のチャイムが鳴ったようで、ドアに近付くとお母さんが「はーい」と言いながら玄関に向かう音が聞こえた。

何の気も無しにドアを開けて階下の様子をうかがう。


「あら、金森君だっけ?走の部屋に忘れ物でもした?
取って来てあげるわよ。」


「いえ、御剣君に大事な話を言い忘れていて…。」


「それで1人で戻って来たの?私で良かったら伝えておくわよ。」


「いえ、あの……男子同士にしか分からないし、話せない内容なんで…。」


「………まぁ…そうなの……?
それは……保健体育の授業関係かしら……」


ちょっ!お母さんが盛大な勘違いしているんだけど。

俺には金森が俺に伝えたい事ってのに心当たりがある。
多分、拳の事なんだろう。
でも、俺のお母さんにそれを言いにくいだろうし。


「はい、そうなんです。男子の身体について。
今日中に話したくて。」


金森がお母さんの話に乗った。しかも悪乗りした。
後から、お母さんにどんな話だったって聞かれたら、俺なんて答えればいいんだ。


「金森ッ!とりあえず部屋に上がって!」


俺は部屋から出て階段を途中まで降り、大きな声で金森を呼んだ。


「すみません、お邪魔します!」


俺の声を聞いた金森は素早く靴を脱ぎ、お母さんに頭を下げて階段の方に来た。

金森を先に部屋に行かせて、俺は階段から玄関近くにいるお母さんに声を掛ける。


「男同士の大事な話だから、お母さんは上がって来ないでね!」


俺は金森を部屋に入れ、部屋のドアを閉めた。
部屋に入るなり、金森が真面目な顔をして口を開く。


「実は今日な……」


「拳の事だろ?」


金森の言葉を遮って俺が言うと、金森も「やっぱり分かってたか」って顔をした。


「優乃も言おうとしていたんだろうけど、言いにくかったんだろうな。
でも、御剣が何も知らないまま明日学校に来るのも何か…って思ったからさ。」


俺は少し驚いた様に目を丸くした。
何に驚いたって、金森は澤田さん本人が居ないトコじゃ、澤田さんの事を優乃って呼んでるんだと。
目を丸くした後に、思わずニンマリしてしまった俺に気付いた金森が焦る様に訂正した。


「澤田な、!澤田!
ガキの頃はそう呼んでたから思わず口から出ただけだ!
俺が優乃って呼んだ事、誰にも言うなよ!?」


「そんな焦らなくても誰にも言わないよ。
それよりさ……拳の事、教えてくんない?
わざわざ言いに戻るって事は、何かあったんだろ。」


どうせ拳の事だから、俺がホモだとか面白おかしくペラペラ喋ったんだろうけど。


「……じゃあ、今日あった事を話すけど。
俺が見た事を感じたままに話すからな。」


そう言って金森はラグの上にあぐらをかいて座り、パジャマ姿の俺は金森の正面に同じ様にあぐらをかいて座って聞く態勢に入った。


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