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32・最大級の幸せの前には、不幸がいっぱい。

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俺が拳を無視するのをやめてやれと金森が言う。
乱暴者の金森のクセに、そんなヤツに「イジメは良くないよ」と言われた気がしてムカッと来た。

「イッテエな、ナニすんだ御剣!」

思わず金森の背中を思い切りはたいてしまい、金森は前につんのめってから振り返って俺を睨み付ける。

「俺、アイツをイジメるつもりで無視してんじゃないからな!
ムカついたけど文句を言うのも何だかダルいし!
アイツと話す事自体が馬鹿馬鹿しいから、話す事が無くて話さないだけだ!
拳の胸ぐら掴んで怒鳴った金森に、無視した位でそんな事言われる筋合い無いだろ!」

俺は俺の正当性を睨み付けて来る金森に主張した。
声を張ってしまったのは、俺の中にも拳に対して無視をした後ろめたさもあったのかも知れない。
それでも俺が悪いんじゃない。

「俺が胸ぐら掴んだり怒鳴ったりしたって、いつもの事じゃないか。
みんな、また金森が暴れてるぞカワイソーって拳に同情するだけだろ。
だけど、お前が拳を無視すると誰も拳に話し掛けられなくなる。」

「はぁ!?なんで!」

「それ、マジで聞いてんのか?
お前、クラスの中じゃ好かれている方じゃん。
からかうのも、いじってるつもりで本気で怒らせたりするつもりはなかったろうよ。」

そんな事を考えた事なんか無かった。
俺は特に仲の良い友達ってのが居ない。
だが男子、女子関係無く誰とも気軽に話すし、クラス内であからさまな嫌悪感を向けられる事は無かったが…。
好かれているとは知らなかった。

「それが拳を無視すんのと何の関係があるんだよ。」

「お前が無視すれば、お前に嫌われたくないみんなも拳を無視する。
だから無視するのだけはやめとけ。」

えー………俺のせいで拳がハブられるって事?
俺、何にも悪くないのにイジメの首謀者みたいになるじゃん。

「無視する位なら皆の前でキレた方がいい。
で、フリでもいいから皆の前で許してやれ。」

ムカついた拳のために、俺がキレたり許しやったり小芝居しろって?
何だか納得いかない気もするけど………
金森の言う事も分かる気がする。

拳は俺とは違う意味で友達と呼べるほど仲の良いヤツがおらず、話し掛けてくれた相手の話題に乗って知ったかぶったりしたりし、その輪の中に自分の居場所を作ろうとする。

それが下校時の俺とのキスの話題だったり、俺の好きな人の話題だったりしたワケだ。

そんなヤツだから金森の言うように、クラスの中で孤立する拳の姿が容易に想像出来てしまった。

「………分かったよ。
明日、拳に文句の一つでも言ってから許してやる。」

なんで俺が反省したみたいなテイになっているのか納得いかないけど仕方ない。

と言うか金森の意外な一面を見た気がした。
いや、こないだ真弓と居る所を見られた時もそうだったっけ…。
悪い人に連れてかれそうだと思って俺を助けようとしたし。

金森ってヤツはすぐカッと来て手が出るってイメージがあったけど、意外と冷静に周りを見てるんだななんて思った。

「ああ、そうしてやんな。
で…よ…その……御剣のカノジョって、可愛いのか?」

急に話が変わって、彼女ってダレ?と一瞬キョトンとした顔をしてしまった。
少し間を置いて、真弓の事だと気付く。

真弓は……彼女になるのだろうか。
俺の彼氏……違う、俺が真弓の彼氏だ。
いや…二人とも彼氏なのかな??

だが立場を明確にするならば、俺にとっての真弓は彼女だ。
将来的にお婿さんではなく、お嫁さんにしたい側。

「何だよ、答えをそんな悩むほどブサイクなワケ?」

「んな訳無いじゃん!!めちゃくちゃ可愛いし、美人だ!
そいでメチャクチャかっこ良くて…………
めちゃくちゃ可愛い…。」

真弓の姿を頭に浮かべると何だか照れ臭くなって、モジモジと変な態度を取ってしまった。

「可愛くて美人で…かっこ良くて…結局可愛いのか。
どんな彼女か想像つかねーな。
お前、アニメやゲームのキャラを彼女って言ってないよな?
あるいは妄想の彼女………」

「実在してるし、ちゃんと付き合ってるっつの!!」

疑いの目を俺に向けた金森が、モジモジする俺から一歩下がって距離をあけた。

「どうやって付き合う事になったんだ?
相手の事は教えなくていいから、付き合うきっかけとか教えてくれよ。」

「え?いやもうストレートに好きだって言った。
のろけていいなら、もう少し詳しく話す。」

「のろけるのかよ。」

金森がヤレヤレといった顔をしてハハっと軽く笑った。
金森と喧嘩腰にならずに長い時間、話をしたのは初めてかも知れない。
互いの好きな人の正体は詮索せず、淡い恋バナをする。
金森の話が澤田さんの事を指しているのだと、すぐに分かった。
結構前から好きだった様で……保育園時代からの話が出てきた。
俺より長い間、一途に片思いをしているようだ。


金森との話に花が咲いて、分かれ道まで来ても暫く立ったままで話し続けた。
何か……コイツ、話しやすいし話していて楽しいな。

金森の色んな一面を知った、そんな一日だった。





次の日の朝、学校に行く途中で変な光景に出くわした。

拳が女子に囲まれている。
見覚えがないからウチのクラスの女子じゃないっぽい。
何だか責められているみたいだが………
無視はやめろと金森にも言われたし……
面倒くさい事になりそうだけど、これスルー出来ないよな。

「あのー…ソイツ、何かした?」

そーっと近付いて声をかけると、3人の女子がキッと睨む様に俺の方を向いた。

あ、これ……6年生の女子だ。先輩達だ。
なんで拳が6年生の女子に絡まれてんだ?

「あんた、ナニ?
この子の友達なの?
だったら聞いてるよね、真凛の事。」

「まりん………?いえ、聞いてません。」

3人の中で1番背が高くて、おっかない感じの女子が腕を組んで俺の前に立ち、ギロっと俺を睨んだ。
まりんてナニ??

「とぼけないでよ!コイツが真凛と、真凛のお兄さんが一緒に居た所を、キスしていたとか変な噂を流したんだから!」

「ええええっ!!!」

まりんて、日向さん!?
あの噂の出どころ、拳か!
で、自分の流した噂に乗って、自分はキスなんて映画で見慣れてるとか偉そうに言ってたの!?
なんっッッじゃそれ!!
しかも一緒に居た中学生がお兄さんて、キスは拳の捏造かよ!

「その上、ミツルギとかゆー5年の男子が真凛を好きだとか…!」

「…ミツルギは俺です……。
俺、日向先輩の顔も知りませんし…好きとか無いです。
すみません…。」

俺は、げんなりした表情で手を上げた。
なんで謝っちゃったんだろう…俺、悪くないのに。

とにかく、早くこの場を終わらせてしまいたかった。
話し掛けた以上逃げる事も出来ないし…
でも、俺も被害者なのに何で拳を庇うように謝ってるんだろう。

3人の6年生女子は、驚いた顔をして俺の顔を覗き込んだ。
口々に、この子がミツルギ?とか言ってる。
何だよ…俺がミツルギだから何なんだよ…
拳なんかに関わったせいで、こんな気分の悪い思いをしなきゃなんないなんて。

でも不幸と幸福が同じ割合で起こると言うのならば……
週末の真弓とのデートを得るために、昨日に続き嫌な思いをいっぱいしなきゃならないのか?

いいよ、神様がそう言うならこれ位我慢するよ。
真弓とのデートってご褒美があるなら耐えてやるさ。

「ねぇ、暗い顔して笑ってるけど…大丈夫なの?
ミツルギ君も、この子の噂の被害者なのね。」

6年生女子の中で、1番優しそうな人が俺に声を掛けて来た。

「ハハハ……大丈夫です…すみません。
あの…コイツには俺から強めに言っておくんで……
もう学校行きませんか…?遅刻しちゃいそうですし。」

俺が来てから、ずっと無言で置物の様に固まっていた拳の腕を掴んで先輩女子達の輪から引っ張り出す。
先輩女子達も辺りを見回し、他に小学生が歩いてないのを見て頷いた。

先輩女子達は一足先に、小走りで学校の方に駆けて行った。
取り残された拳と俺はすぐに歩き出さずに、しばらくボンヤリと立ち尽くしていた。

「……拳、お前さ……見間違いや勘違いもアレだけどさ…
嘘つくのはやめろよ。」

俺の好きな人が誰か、がコイツの中で勝手に日向さんになっていたように、拳は早とちりを勝手に真実だと思い込んだりする節がある。
だけど、日向さんが中学生とキスをしていたなんてのは完全に拳のウソだ。

拳は涙ぐみながら黙って大きく頷いたが………
今の俺には、それさえもウソっぽく見えてしまった。

大人の真弓なら……こういう時、どうするんだろ。
あー……真弓に会いたい……。




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