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17・神鷹真弓の特別になりたい。

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「ほら、お望みのキーホルダーだ。
ラッピングはしてもらってないが、このままでいいのか。」



「うん!このままで!」



鷹をモチーフにしたキーホルダーを受け取った俺は嬉しさをそのまま顔に出す。
満面の笑みを浮かべて手にしたキーホルダーを何度も眺めた。
そして、真弓の手にある剣のキーホルダーの行方を見守る。

真弓が俺の視線に気付いて、少し考える様に指先でこめかみを掻いて俺を見た。
ワクワク顔で真弓をガン見する俺に、諦めたように腰から鍵がぶら下がったカラビナを外し、キーホルダーをそこに付けた。



「コレで、オソロだ。これでいいか?」



「うん!いい!俺が真弓ので、真弓が俺のモノって事で!」



「ち、違うわ!その言い回しをやめろ!
恥ずかしげもなく、よく、そんな事言えるな!
子どもって、こぇー…。」



何が恥ずかしいの?と、ニコニコ顔で無知な子どもを装う。
真弓は照れくさそうにフイと俺に背を向けて顔を見られないようにした。

分かってるよ。分かっている上で意識させる為に言ってる。
今すぐ気持ちを伝える事は出来ないけど、真弓には俺を意識していて貰いたい。

うーん何てゆーか……真弓の心の中に俺が描かれた薄っぺらい紙を1枚置いてくる感じ。
何枚も何枚も重ねて重ねて、それが分厚い本位になったら


真弓の方からも俺の気持ちに気付いてくれないかななんて。

思うんだよね…。


鷹のキーホルダーをキュッと握りしめ、背を向けて歩き出した真弓の指先に触れ、少し間を置いて手を握った。
手を握られた真弓が一瞬、ピクっと反応して俺を見下ろした。
ピクって。メチャクチャ可愛いくない?



「あー、人も多いしな。迷子になんなよ。」



「真弓が俺の手を離さないでいてくれたら大丈夫。」



俺も、絶対に真弓を離さない。






夕飯の時間より少し早目に、俺達はこじんまりした洋食屋みたいな店に入った。

俺は大きなオムライスを頼み、真弓はチーズたっぷり煮込みハンバーグを頼んだ。
この暑い時期にアツアツの煮込みハンバーグって……
……熱い男だな。好き。


何でもかんでも真弓ならカッコよく見える俺、ヤバくないか。
だもんで、大口を開けてハンバーグを口に入れる真弓の顔もガン見してしまう俺。


糸を引いたチーズが真弓の口の端っこから垂れて、顎の近くのヒゲに絡まる。
それを親指で拭って、その親指をペロっと舐める。
行儀が悪いとか、っどーでも良くて。

ただただエロいなぁなんて見とれてしまう。



「…………ナニ見てんだ。」



真弓が、恥ずかしい所見られたって顔をしている。
エロくて見とれていたなんて言える筈もなく。
かと言って、子どもっぽくて可愛いとも面白いとも言えず。
総合して、真弓をガン見していたとは言えず。



「ハンバーグ……美味しそう。」



って、言うしかなかった。



「ほれ、口開けろ。」



真弓がフォークの先に一口分のハンバーグを刺して俺の口の前に持って来た。行動が早い。
予測を上回る動きの早さに、俺の方が心の準備が出来てない。

ハンバーグを刺したフォークを前にして固まってしまった。



「あーんだ。あーん。」



これは真弓が、俺を小さな子ども扱いをしているからやってしまうんだろう。
だけど…この立場を利用しない手は無い!



「あ、あーん」



パクリと真弓の差し出したハンバーグを食べる。
あ、美味しい。真弓にあーんして食べさせて貰ったから、なおさら美味しいと感じるのかも。



「じゃ、俺も俺も!」



「はぁ!?い、いらねーよ!」



ここはあえて、子どもらしさを発揮する。
ワガママを通す!
俺はスプーンに一口分のオムライスを乗せて身を乗り出し、真弓の口の前に差し出した。



「はい、あーん。」




「……………あーん」



仕方ねェなって顔をして真弓が口を開けたが、俺を直視するのに照れがあるのか、少し下に傾いたサングラス向こうの目線を横に逸らした。
バレてないと思ってんだろうな。
そんな、可愛い反応を見せてくれてんの。

オムライスを口に含んだ真弓は、無言で噛み締めてコクンと飲み込んだ。



「ん、ウマい。」



「俺達、新婚さんみたいじゃない?」




「ゲホッ!んなワケねぇ!!」




咳き込む真弓が慌てて否定する。
そんな姿すら、もう照れているようにしか見えなくて可愛い。
周りの視線が気になっているのか、俺の言葉に反応したのか分からないけど、真弓がシャイで可愛いオジさんて事だけは確信した。
うん、すごく可愛い。好き過ぎる…。







「今日一日、楽しめたか?」



「うん、すごく楽しかった!」



夕飯を食べ終えた俺は真弓に、今日楽しかった事、思った事をたくさん話した。
初めてのバイクやヘルメット、一緒にクレープを食べた事や初めてのブラックコーヒー。
多分、まくし立てる様な勢いで興奮気味に話していたと思う。
テーブルに片肘をついて顎の下に手を当てた真弓が、そんな俺を見て自分もその情景を思い出した様に、ハハッと小さな笑いを何度もこぼした。
水色と灰色の目が、優しく細められる。

強い光に弱いと言っていた真弓の瞳は宝石の様に透明感がありキレイだ。
キレイな分、そこだけ脆く儚くも見えて

真弓自身は強そうなのに、なんでだか俺が守ってあげたいと思ってしまう。


見惚れる様に真弓を見詰めてしまい、俺は言葉を途切れさせてしまった。
まくし立てる様に話していたのに、急に無口になってしまった。
見惚れていたなんて真弓には分かって貰えないだろうし、急に言葉を途切れさせた俺を不自然に思うかも知れない!

一緒にいて、つまらなかったのかとか思われるのが一番イヤだ。
何か、話を続けないと……!



「あのね!真弓!
真弓のあだ名って、アーチャーって言うの!?」



真弓は、食後のサービスでテーブルに置かれたコーヒーに口をつけようとしている所だった。
俺が考えていたほど、会話が途切れた事を気にしてなかった様だ。



「ああ、メッセージ画面で気付いたか。
他ではアーチャーで通している。」




あだ名…仲良い人には、そう呼ばせてるって事?
だったら、今より仲良くなりたい俺もあだ名呼びした方がいいのかな。



「じゃあ俺も、そう呼んだ方がいいの?」




「本名を呼ばれるの嫌いなんだ。
特に下の名前ではな。
だから、なるべく本名は教えない。
教えた所で誰にも俺を本名では呼ばせてない。」




「嫌いなの!?
じゃあ、俺、真弓の嫌な事をずっとやっていたの!?
そんなの……そんなの!イヤだよ!!」



俺は、ごくごく自然に真弓を真弓と
しかも呼び捨てで呼ぶ事を定着させてしまっていた。
最初は、呼び捨てすんなってデコピンされたけど、真弓が諦めてくれて
俺の中では、この呼び方が当たり前になってしまっていた。

真弓が、真弓と呼ばれる事を嫌いだなんて…知らなかった!

真弓に嫌われるような事を、気付かないままずっとやっていた。
真弓に嫌われたら俺……どうしたらいいか分からない。


俺は、ひどい焦りと不安とを表情に出していたのだと思う。
俺の顔を見た真弓が困った表情を見せた。



「お前だけは特別だ。
もう慣れちまったし今から呼び方変えられる方が面倒くさい。
お前だけ、特別に許してやる。」



「特別……」



「俺の周りに、俺を真弓なんて呼ぶ奴はボウズしか居ないからな。お前は特別。
だからこれからもボウズだけは真弓呼びでいい。」



胸がギュンって苦しくなった。
真弓に特別だって言って貰えた喜びはもちろんだけれど

真弓が俺のあからさまな表情を見て、俺に気を遣ってくれたのだとも分かる。
子どもな俺に気を遣った大人な真弓との差が悲しくもある。
真弓の優しさが嬉しくて…でも悲しくて、切なくなる。

俺、真弓に気を遣わせて特別だと言わせるのではなくて
本当に真弓の特別な人にならないといけない。



「ありがとう、真弓!」



俺の満面の笑みに、ホッとしたような顔をした真弓。
俺が今自分に誓った事なんて、真弓は絶対分からないんだろうな。
今は、それでいい。頑張ろう俺!



「暗くなってきたな。帰るとするか。」



洋食屋を出た俺達は、バイクを停めてある場所に向かって歩き出した。
手を繋ぎたくて、先を歩く真弓の背を追って走った。
俺の前に、まだ僅かに汗ばんだ白いTシャツを背に張り付かせた真弓の大きな背中がある。
白い壁だ。
白いTシャツに、うっすらと肌が透けている。

色っぽいって…こーゆーことかな……



「真弓ッッ!!!」



「どぅわぁあ!!!」



俺は、思い切り真弓の背中に抱き着いてしまった。


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