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13・御剣走と神鷹真弓。親子に見られる。

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ベンチに座る俺の前で、脱がせた俺のヘルメットを持ち片膝をついてしゃがんだ真弓は、兜を持ち王様にかしずいた騎士の様だ。

真弓が超カッコイイ!
誰か、誰か今の俺達の写真撮ってください!!
この真弓と俺のツーショ、欲しい!


「もしかして、乗り物酔いでもしたのか?
気分が悪くなったなら……」


「ち、違うよ!
初めてのバイクに感動し過ぎてボンヤリしていただけ!」



顔を上気させて胸の辺りを手の平で押さえた俺を、気分が悪いのかと心配した真弓が「帰るか?」と訊ねようとした。
気分が悪いワケない。
真弓の背中に密着していた感触を思い出した上に、目の前に居るカッコいい真弓を見て…
要するに真弓に興奮していただけです!

とは、言えない…。



「なら、朝めし食えるか?」


「食べる!お腹空いてる!」



元気な事をアピールしとかなきゃ。
俺はシュタッと手を上げ、元気な返事をする。
真弓が「そうか」と、少し安心した様に目を細めた。



「ちょっと待ってろ。歩き回るなよ。」



小さな子ども扱いすんなよと思いつつ、キョロキョロと辺りを見回す。
俺を座らせたベンチの前には河が流れており、ベンチの前の幅の広い綺麗なレンガ道を、ジョギングする人や犬を散歩させる人が行き来する。

この場所に来たのは初めてだったが、以前近くを通った事がある。

その時は昼過ぎで、デート中のカップルがうじゃうじゃ居た。



「デート……デート中のカップル…かぁ」



俺達もソレだよな。
おソロコーデで、初デート中。
あのラファエル皇子だった神鷹真弓とデート。
小学1年生の頃から想い続けた人とデート。
しかもテレビの中の人と。
それ、スゴクない!?
実際、会ってみたらかなりなオジサンだったワケだけれど!
そんなの、もう何の苦にもならないっつか!
むしろ、今の真弓に惚れ直したって言うか!




「………ベシベシベンチ叩いてナニやってんだ、ボウズ。」



「まっ真弓!?」



興奮し過ぎた俺は、意識せずにベンチをベシベシ叩いていたみたいだ。
両手に特大のクレープを持った真弓が立っていた。

クレープ!?朝からクレープ!?
しかもデカっ!生クリームはみ出してるじゃん。
え、真弓……スイーツ男子??



「前から気になっていたんだが、俺一人で食う勇気が無くてな。
イチゴとバナナどっちにする?」



「へ、へぇー……一緒に食べてくれる友達とか……は?
バナナで。」



「まぁ、だいたい結婚して家庭持ってる野郎ばかりだし。
一緒に行動するような女の友人てのは、ほぼ居ないからな。」



「へ、へぇー…そうなんだ。」



思わぬ所で、真弓の交友関係が聞けた。
よく考えてみれば真弓はお父さんと近い歳だし、同世代の友人が結婚していても不思議ではない。
女の友人も居るには居るが、一緒に出掛けたりするような程の仲では無いらしい。

そう言えば真弓のウチには、真弓以外の人の気配が全く無かった。
自宅に人を招いたりも余りしない様子だ。

そんな真弓のウチに入って茶を貰い、真弓の布団で寝させて貰った俺は、きっと特別なんだ。

そう思ったら、嬉し過ぎて思わずヨシ!と拳を握ってしまった。



「あ、コレ美味いな。
朝からヘビーだと思ったがイケる。」



外国人の悪い奴みたいな真弓が生クリームを頬張っている。
ヒゲにクリーム付いてるし。
なん……なんだコレ……

真弓がすんげー可愛い……!!!



「真弓お願い。誰にも見せないから撮らせて。」



俺は超真面目な顔でスマホを取り出した。



「ああ!?こんなツラをか!?」



「うん。そんなツラを。」



真弓は凄く嫌そうな顔をしたけど、ここは引けなかった。
これは俺以外の誰も絶対に知らない真弓の顔だ。
俺だけの真弓の姿だ。
いつでも見れる様にしたい。
真弓がドン引きしようが、ここは引きたくない。


むにゅ


真弓の親指で、俺の鼻の頭に生クリームが擦り付けられた。
その後も、俺の唇のはし、下唇の上、顎と真弓の親指で生クリームがなすり付けられていく。

クリームが口まわりに付かないように慎重に食べていた俺の口まわりが生クリームだらけになった。


……なぜ!?


左手にクレープ、右手にスマホを持ったまま茫然としている俺の前で、真弓が親指に付いたクリームをペロッと舐めた。
俺の口まわりに触れた指を舐める真弓にドキッとする。



「その、みっともないツラのボウズとのツーショットなら撮ってやるよ。」



「マジで!?やった!」



俺にとっては棚ぼた。

真弓は俺の反応が予想外だったらしく、「え?」ってな顔をしたが、言い出したのは自分だから諦めた模様。

念願の真弓とのアップでのツーショを撮れる事となった。



ベンチに真弓と並んで座り、クリームの付いた顔を寄せてスマホを構える。
腕が短い俺がスマホで自撮りしようとすると、距離が近過ぎて手がぷるぷるブレて上手く出来ない。

見かねた真弓が俺のスマホを取り、腕を伸ばした。

クリームだらけの俺と、ヒゲにクリームが付いた真弓が顔を近付けて並べて数回シャッターを押してくれた。



「ほれ、誰にも見せんなよ?」



俺のスマホを俺の方に渡し、先にクレープを食べ終わった真弓が紙ナプキンで口元を拭った。

まだ食べ終わらない俺の隣に座り、片腕をベンチの背もたれの上で伸ばした真弓が缶コーヒーを飲んでいる。
俺は返されたスマホの画像を確認しながら思い切り微笑んでしまった。
何だか、デート中の仲良しカップルらしい写真じゃね?
なんて思えたりする。




「仲の良い親子ね。」


「そうだね。」




俺達の座るベンチ前を通り過ぎた散歩中のおじいちゃんとおばあちゃんが、少し離れた場所まで行き微笑ましげに俺達を見て、去って行った。

優しい感じのおじいちゃんとおばあちゃんだった。
悪者みたいな真弓の格好を見ても、怪訝そうな顔をしなかった。

それなのに俺………去って行く小さくなった二人の背中を思わず睨んでしまった。

それが普通だし、当たり前なんだって分かっている。
分かっているけど………


親子━━


親子じゃないと説明したとして、結局は保護者や引率者と子ども。
そうとしか思われない事に、改めてショックを受けた。



「分かるわぁ、ガキンチョ扱いされるとムッとしちまうよな。」



真弓の大きなゴツゴツした手が俺の頭に乗った。
ポンポンと言うよりは、ボスボスと頭が叩かれる。



「いっ、痛いんだけど!!
オッサンの真弓に、何が分かるんだよ!」



「俺も、子役ん時は大人達にまじって仕事していたからな。
大人達の中で、自分もイッパシの役者のつもりだったからガキ扱いされんのが嫌で嫌で……
と、跳ねっ返りだったラファエル皇子も今や、こんなオッサンだ。」



真弓は俺が子ども扱いされた事に不満を感じていると思っている。
それは確かにそうなんだけど


俺は真弓と横に並んで見られたい。
大人の真弓に守られる、小さな子どもでありたくない。


なんて説明を真弓には出来ない。
このムシャクシャする感じを吐き出せない……。



「人の目なんか気にすんな。
お前らしく育て、お前らしく生きろ。
………ま、死んだ祖父さんの受け売りだがな。」



真弓は俺に、飲みかけの缶コーヒーを渡した。
渡された缶コーヒーを受け取り、固まる。


間接キス………より、これブラックコーヒーだ。
めちゃくちゃ苦いヤツ!



「嫌でも大人にはなるんだ。
だが早く大人になりたいってーボウズは
一味先に大人の味を知っとけ。」



ニヤニヤしながら真弓が俺を見ている。
甘いモノ好きなスイーツ男子の癖に、コーヒーはブラックかよ…。
その、飲めるモンなら飲んでみろみたいな顔が腹立つ!


クソぅ!飲んでやる!!!


缶に半分ほど残ったコーヒーを一気に飲んだ。
クソにがっ!!美味しくない!!
何で大人は、こんなもの美味しそうに飲めるの!?



「プハッ!!!」



「おー!頑張った頑張った!
これで一歩、大人に近付いたな。」



真弓が自分のスマホを取り出し、ブラックの缶コーヒーを持つ俺と自分を一緒に撮った。
そして、すぐに俺のスマホに送る。



「大人記念だな。」



俺のスマホに送られた真弓の撮った写真を見る。 

苦いコーヒーを飲んだ後で、よく言えばキリッと、実は苦さに耐えている俺の隣で、真弓もキリッとした表情を作り写っている。
さっきの生クリームだらけのツーショ写真との差が激しい。

それが可笑しくて、思わず噴き出した。



「アハハハハ!面白っ!!」



「ハハハ、そうやって笑ってろ。
今日は、お前を喜ばせたくてデートに誘ったんだからな。」



真弓の口から直接聞かされた「デート」の単語に、思い切り胸を撃ち抜かれた気がした。

ちょっ……攻撃力すごっ……

さっきまでの、沈んだ気分もぶっ飛んだ。


真弓はやっぱり大人で、俺はやっぱり子どもだ。
そんな分かり切った事でウジウジしていたって仕方ない。
真弓が俺を喜ばせたいと言ってくれてる。
もう、かなり喜ばせて貰ったけど……もっと?



俺やっぱり、真弓がスゲー好きだ。


    
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