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11・御剣走。神鷹真弓から、ご褒美を貰う。

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火曜日から金曜日に至るまで。


真弓と出会う前と同じ日常を過ごした。
と、俺は思っていたのだけれど……


はたから見た俺は、なんか色々と違っていたらしい。

ソワソワして落ち着きが無いと言うか……


だってな……
土曜日になったら、真弓とご褒美デート。
すっごく楽しみだけど、土曜日が来るまで真弓に会えない。

もう、火、水、木、金曜日いらなくね?

本気でそう思っていた。


学校でもソワソワ、少林寺拳法の教室でもソワソワ。
家ではスマホを握り締めてソワソワ。


真弓からは、おはよーさんと、おやすみボウズのメッセージだけが来る。


俺は毎回、挨拶以外のメッセージを送るけれど、それに対して真弓からの返事は皆無だった。


すげーヘコむ。
でも毎日2回会ったばかりのボウズのために、わざわざ朝と夜に欠かさずメッセージを送ってくれる律儀な真弓。

優しい……凄く優しい……。



「………!!!」



リビングのソファーの上でゴロゴロしていた俺の持っていたスマホに、いきなり真弓からのメッセージが届いた。

ガバっと身体を起こしてスマホを両手で持つ。
夕方の6時過ぎ、こんな時間に真弓から………


まさか、明日のデートは延期とか……中止とか……
言わないよな……。


俺はどうも……真弓に関しては悪い想像から入ってしまう。
自分自身が傷付く度合いを軽減するためか、嫌な状況を先に想像して、覚悟をしておくというか。


恐る恐る、真弓のメッセージを開く。





━━━明日のデートだがな


━━━朝の七時に迎えにいったら


━━━早いか?




「真弓がっ!!真弓がデートって言ってくれてるっ!!」



大袈裟な位に、デカい声をあげてしまった。
お母さんはキッチンで音楽を聴きながら夕飯の支度をしていて、俺の声は聞こえなかったようだ。



「あっ、朝の7時から真弓に会えるの?
デートしてくれんの?
そんなの、サイコーじゃん!!」



スマホを抱き締め、ソファーの上でバタバタビチビチと暴れ回る。
いや、興奮して喜んでる場合じゃない。
早く返事をしないと、駄目なんだな、なんて思われたら困る。



ぜんっぜん早くないよ!大丈夫!━━━



急いでメッセージを送ると、すぐに既読が付いた。
あまり間を空けないで良かった……真弓、返事を待ってたんだ。



━━━なら七時に迎えにいく


━━━半ズボンは駄目だ長ズボンで



「………??服の指定??
半ズボンはガキッぽ過ぎて、やめとけって意味??」


これは…大人っぽい、デートっぽい格好をしろという意味?

だってデートだもんな!



真弓の意図を勝手に想像して、思わず口元がニヤけてしまう。
いや…そんな事、あるはずが無いんだけど……
でも、服装の指定をされたって…
あからさまにガキっぽい子供を連れて歩きたく無いから?

そう考えたら、少し気分が落ち込む。



「喜んだり落ち込んだり、一人で忙しいわね。
明日の神鷹さんとのお出かけ、何がそんなに心配なの?」



お母さんがキッチンからリビングに来た。
夕飯の支度が終わり、あとはお父さんが帰るのを待つだけの状態らしい。



「明日の服装……。」



「そんなもの、いつも友達と出かける時と同じでいいじゃないの。
オシャレでもするつもりだったの?」



「半ズボンは駄目だって……」



「じゃあ長ズボンでいいじゃない。何を悩む事があんのよ。」



確かにそうなんだけど……
俺が頭に思い浮かべた事を、お母さんに伝えるわけにもいかず、一人深読みして色々と考えてしまう。

俺って、こんなグジグジしたヤツだったっけ?

真弓に会ってからだよな。
こんな風になったの。



「走のソレってまるで、私が初めてパパとデートをした時みたいだわぁ。」



お母さんの言葉に思わずドキッとする。
初めてのデート、俺、まさにソレで悩んでるんだけど!!



「どんな服を着たらパパが一番、気に入ってくれるかって…
デートの前日はもう、一人ファッションショーやって大騒ぎだったのよねー」



俺の感情、まさにソレ!初デートだもん!
真弓に良い印象を与える服装!
つか、真弓に嫌がられない、子供っぽ過ぎない服装どんなやつ!



「あんたは初デートじゃないんだから、そんなに気にしなくていーでしょ。
彼女が出来たら悩みなさいよ。」



だからっ!俺にとっての真弓がソレ!!
……ってお母さんには言えないしっ!!



「ところで神鷹さん、何時に迎えに来るの?
それまでに支度を済ませなきゃでしょ。
お出かけ中に、あんたがお腹空いたって神鷹さんに迷惑かけるワケにもいかないし。
朝ごはんも早めに用意するわよ。
トーストとサラダと茹で卵位なら…」



「ちょっと待って、真弓7時に迎えに来るって言ってるし。」




「えっ7時!?はやっ
じゃあ6時には朝ごはん済ませとかないと駄目?
って、あんたは神鷹さん呼び捨てやめなさいって!」



お母さんが、真弓を呼び捨てにしちゃ駄目だとプリプリ言ってるけど聞いてないフリをした。
確かに、どこに行くのか分からないけど…早いよな。
真弓に急いで朝ごはん済ませた方がいいのか、確認のメッセージを送る。




━━━どうせなら朝めし一緒に食おうかとな


━━━どうだ?朝は食わない方か?




「真弓が朝ごはん、誘ってくれたぁ!!
お母さん、俺、明日の朝はごはんいらない!
真弓が一緒にって!!」



「へー良かったじゃない。でもねー
神鷹さん、あんたに呼び捨てされてるって知ったら怒るわよ」



真弓からの返事のメッセージに大騒ぎする俺に対し、お母さんは言う事を聞きやしない俺に冷ややかな表情を向けた。

一人で騒いだり、落ち込んだり。
何だか忙しい様子の俺を呆れた様に見るお母さん。

でもって、お母さんには言わなかったけど…
俺はもう、真弓を本人の前でも真弓と呼んでるし。
だもんで
お母さんの事はスルーした。



やがて、お父さんが仕事から帰って来て、夕飯を3人で食べながら明日についての話をする。

真弓はお父さんに、明日の予定を前もって連絡してあったみたいだ。

お父さんからの許可を得ないと勝手には連れ回せないと、行く場所や帰宅の予定時間などを先に報告していたらしい。


真弓の気遣いは素晴らしいと思う。
人様のウチの子どもを預かるんだから、それくらいは当たり前の事かも知れない。

でも、やっぱり…
この数日間、俺には「おはよーさん」と「おやすみボウズ」しかメッセージが来なかったのに…。
お父さんと連絡をやり取りしたってのは…妬ける。



「走、真弓くんとの明日のお出掛け楽しみだろう。
ご迷惑、お掛けしちゃ駄目だよ?」



「め、迷惑なんて掛けたりしないよ!!」



慌ててお父さんに返事をする。
一瞬、沈んだ顔を見られたかと思って焦った。
お父さんは、天然で空気が読めなかったりするクセに、妙に勘がいい時がある。
俺が沈んだ様子を見たら、その理由に気付くかも知れない。




夕飯を終えて明日の支度を全て済ませ、早めにベッドに入った。
ベッドの中で充電しながらもスマホを触る。

明日のお出掛けデートが楽しみだって気持ちは勿論あるのだけど、小さな針がチクチクと胸に刺さる。


当たり前だし、思っても仕方が無い事。

俺よりも、お父さんとのメッセージのやり取りのが多いだろう事に対する胸のモヤモヤ。
今まで、誰かに対してこんなにも独占欲を持った事なんかない。


ブブッ


手に持ったスマホが震えた。
布団に潜った状態で、メッセージを読む。



━━おやすみボウズ



「まゆっ……真弓!!」



いつもと同じ、素っ気ないメッセージが来た。

真弓は、携帯をあまり見ないから頻繁にメッセージのやり取りは出来ないと、連絡先を交換した時に言った。

だから、この短いメッセージでさえ、本当ならば貰える事が無かった可能性がある。

なのに俺は欲張りだ。



おやすみ真弓!
俺、明日のデート、すんごく楽しみなんだ!!
朝から真弓と出掛けるの嬉しい!
真弓はどう?━━━



返事を促す様なメッセージを送った。
既読がすぐつく。
返事は、返って来ないかも知れないけど……


一方的に送られるだけではなく、もっと真弓とメッセージのやり取りをしたい。


ブブッ
スマホが震えた。



俺も明日のデートが楽しみだ━━━


だから明日に備えて早く寝ろ━━━




「……………!!!うん!!!」



思わず返事を打つと共に口に出し、スマホをギュッと握り締めた。


ああ…好きだ!好きだ!
真弓が好きだ!


朝が来るのが待ち遠しい!!



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