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再びアルバラスト編
閑話 【勇者】ミユキの居候生活7日目~襲撃1回目①~
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ズザザッ!
「ハァ…ハァ…」
「ふむ。初日と違って軽く息を切らす程度にまでなったか…
この短期間で持久力が付くとは流石【勇者】、と言った感じだな。」
ノアの両親であるアミスティア、レドリックの家に居候して早7日。
初日は1ヶ所回るだけでも呼吸がままならなかったのだが、7日目の早朝から行われた巡回では、10ヶ所回っても肩で息をしつつも、立ち止まる事無く走破していた。
「いえ…まだ付いて行くだけで精一杯です…
それにまだ巡回で周囲の索敵をするだけの余裕はありません…」
「まぁミユキちゃんの巡回での主目的は体力、スタミナの底上げだから、ある程度余裕が出来れば索敵出来るだけの余裕も出来るさ。
それに、今日初めて行う『襲撃』の相手であるマドリックには索敵はそこまで必要無い。
何せあっちの方からやって来るからな。」
ノアの父親レドリックの言った『襲撃』とは、週に一度訓練の成果を見る試験の様なもの。
内容によっては、再訓練が必要であれば厳しくなるし、次の段階に進めて良いと判断したら更に厳しい訓練に身を置く事になる。どっちにしろ厳しくなる事に変わりは無い。
「さて、休憩も済んだ事だし家に戻って朝御飯食べたら軽く訓練するとしよう。」ザッ…
「はい。」ザッ…
ミユキの呼吸が落ち着いてきたのを見計らい、レドリックは村の方へと駆け出した。
数分程走ると、村の家々から住人達が寝ぼけ眼を擦りながら朝の作業を行う姿が散見され始めた。
「おぅレド、ミユキちゃん、朝の巡回ご苦労さん。
森の方は変わり無いか?」
「いや、この間に比べて熊の足跡や爪の痕が目立つ様になったからそろそろ間引きに行こうと思う。」
「そうか、奥さんの熊鍋が楽しみだ。」
「あ、てめ、それ目当てだな?」
「バレたか。」
(熊鍋…)ゴクリ
他愛の無い話をしつつ森の状況を伝えるレドリック。
アミスティアの熊鍋、ミユキも興味が沸いた様子である。
「そういや、今日は『あの日』だっけか?」
「あぁ、『襲撃』の事だな。やるよ。」
「そうか…
ミユキちゃん…頑張るんだぞ…」
「…?」
村の住人から何故か生温かい目を向けられたミユキは少し困惑している。
それを察した住人に理由を言われた。
「いやぁ…2年以上前から『襲撃』が行われる度にノア君がボロボロになって帰ってくるモンだから…
その分滅茶苦茶強くなってるからそう言うものだと割り切ってはいたんだが、他の…それに女の子が『アレ』をやるとなると…な…」
「そ、そんなに…ですか…」
「あぁ…村の子供達からは"冒険者になる為にあそこまでする位なら冒険者になりたくない"なんて声も上がる位だよ…」
「え?その話俺知らないんだけど…」
「ノア君が居る間にそんな事言えるかよ…
ノア君が旅立った日、皆色々な意味で"おめでとう"と言ったもんだよ。」
レドリックは本当に知らなかった様で「そんな事が…」と顔をひきつらせていた。
と、そんな事を話していると
ズシッズシッ…「よぅ、ラニとお2人さん何の話をしてたんだ?」
肩に、太さ1メル、長さは4メル程の大木を担いだマドリックがズシズシと音を立てて歩いてきた。
「今日の『襲撃』の話をしてたんだよ。
お前さん、ミユキちゃんをあまり酷い目に合わせるなよ?」
「…と言われてもな、アミからは"薬を持たせるから腕ぶっ飛ばす位は構わん"と言われてるからなぁ…」
「ひっ…」
「おいおい…」
「うんうん。」
マドリックから聞かされた言葉に短く悲鳴を上げるミユキ。
ラニと呼ばれた住人は顔をひきつらせ、レドリックは同意見だ、と言わんばかりに頷いている。
「腕をぶっ飛ばされるのって、なかなか堪えるもんなんだ。
1回でも食らえばそうならない様な立ち回りを取れるだろ?」
「えぇ…」
と、さも当然の様に答えた辺り"ああ…やっぱりノア君の両親なんだな"と思うミユキであった。
その後2、3会話をした後に各々家路に着くのであった。
ガフッ、ガフッ、ムシャムシャ、バクバク…
「ふいまへん、おはわりふだはい。(すいません、御代わり下さい。)」
「ふふ、慌てなくても御代わりはまだまだあるわよ。」
「つい最近まで"こんなに食べたら太っちゃう"って叫んでた娘とは大違いだな。」
村に来た当初のミユキは、アミスティアから出された食事の多さに驚いていた。
丁度年頃と言うのもあってか、スタイルをやけに気にしていた。
アミスティアから"食ってても痩せる"と言われたものの半信半疑であった、何せ"元の世界"で食べていた量の2.5倍である。
だがミユキは食べる事を拒めなかった。
何せ彼女の居た国はヒュマノ聖王国である。
料理を作れる者が殆ど居らず、"筋ばった肉に適当に塩コショウ振って焼いただけの肉"をご馳走と呼んでいる国である。
その焼いた肉も品質レベル3か4と、"食えるっちゃ食える"程度の出来映えである。
※ちなみにこの村で料理が苦手、と言っている子供ですら品質レベル6の料理が作れます。
そんな国で過ごしていたミユキの前に品質レベル10の料理が出て来てみなさい、口では「食べれない」と言いつつも、ミユキの腹の虫が喉から手を出す勢いで鳴くのは至極当然と言える。
気が付くと、出された料理の8割を食べ終わっていた。
ハッとなって、作ったアミスティアの方を向いた時の事は今でも鮮明に覚えている。
「ふ、堕ちたな…」
それからは残さず綺麗に食べる様になった。
スタイル云々よりも食欲が勝ってしまったのだ。
そして、ミユキが気にしていたスタイルの方はというと
チミッ。「うひゃっ!?」
「どう?食べてる割にしっかり痩せてきたでしょ?」
ふにふに…
「は、はい、お陰さまで…
あの、お願いですから脇腹を摘まむのを止めて下さい…」
ミユキの脇腹を摘まんで贅肉チェックをするアミスティア。
「さ、食事が落ち着いたら軽く剣の訓練を行いましょう。」
「はい。」カチャカチャ…
食べ終わった皿等を片付けたミユキは家の外へと向かう。
「はっ!」ヒュンッ!「やっ!」ビュオッ!「てぃっ!」ブンッ!
カッ、チッ、スッ…
「はぁぁっ!」ブォンッ!
ガッ!くるんっ!
「くっ!」ガッ!ヒュババッ!スタッ!
剣を左上、右下、左と斬り掛かるミユキだが、アミスティアはその辺にあった"木の枝"で全ていなす。
最後の一撃は後方に僅かに下がる事で回避するも、一歩踏み込んで上段蹴りを繰り出すミユキ。
しかし足首を掴んで受け止めたアミスティアは、振りかぶってミユキの体を地面に向けて叩き付けようとする。
が、アミスティアの手首を蹴って難を逃れたミユキは、空中で身を翻して何とか着地した。
「初日に比べれば動きは良くなった、剣だけじゃなく体術を使ってきたのも良かったけど、もう一手二手位あっても良かったわね。」
「ハァ…ハァ…が、頑張ります。」
食事後の"軽め"の訓練として、ミユキは約1時間に及ぶ戦闘訓練を行っていた。
アミスティアは指で木の枝をクルクルと回しつつ今の戦闘について指摘をおこなっていた。
ミユキは着地した後、地面に膝から崩れ落ち、手を付いて息を整えていた。
すると
「「ミユキおねーちゃーん、頑張ってー。」」
「は、はーい…」
訓練の様子を見ていた近所の子供達から激励の声が掛かる。
何故この場に子供達が居るかと言うと
「あら、もう稽古の時間だったわね。
という訳でミユキちゃん、ちょっと短かったけど今日の訓練は終わりにしましょ。」
「はい。」
アミスティアは週に一度、村の子供達に剣の指導を、レドリックは弓と体術の指導を行っている。
丁度この日はその指導の日であったのだ。
「"ぐんそー"、ミユキおねーちゃんの訓練はもう良いの?」
「今日は夜に別の訓練があるからもうこれ位で良いのよ。
あと私の事はアミおばさんて呼ぶハズでしょ?"ぐんそー"って呼ばないの。」
(そっかー…アミスティアさん、"ぐんそー"って呼ばれてるんだ…)
アミスティアぐんそーの裏工作が明るみに出た所で、ミユキに少しの間休憩時間が出来た。
気分を入れ替える目的で村の中を散策する事にした。
「ハァ…ハァ…」
「ふむ。初日と違って軽く息を切らす程度にまでなったか…
この短期間で持久力が付くとは流石【勇者】、と言った感じだな。」
ノアの両親であるアミスティア、レドリックの家に居候して早7日。
初日は1ヶ所回るだけでも呼吸がままならなかったのだが、7日目の早朝から行われた巡回では、10ヶ所回っても肩で息をしつつも、立ち止まる事無く走破していた。
「いえ…まだ付いて行くだけで精一杯です…
それにまだ巡回で周囲の索敵をするだけの余裕はありません…」
「まぁミユキちゃんの巡回での主目的は体力、スタミナの底上げだから、ある程度余裕が出来れば索敵出来るだけの余裕も出来るさ。
それに、今日初めて行う『襲撃』の相手であるマドリックには索敵はそこまで必要無い。
何せあっちの方からやって来るからな。」
ノアの父親レドリックの言った『襲撃』とは、週に一度訓練の成果を見る試験の様なもの。
内容によっては、再訓練が必要であれば厳しくなるし、次の段階に進めて良いと判断したら更に厳しい訓練に身を置く事になる。どっちにしろ厳しくなる事に変わりは無い。
「さて、休憩も済んだ事だし家に戻って朝御飯食べたら軽く訓練するとしよう。」ザッ…
「はい。」ザッ…
ミユキの呼吸が落ち着いてきたのを見計らい、レドリックは村の方へと駆け出した。
数分程走ると、村の家々から住人達が寝ぼけ眼を擦りながら朝の作業を行う姿が散見され始めた。
「おぅレド、ミユキちゃん、朝の巡回ご苦労さん。
森の方は変わり無いか?」
「いや、この間に比べて熊の足跡や爪の痕が目立つ様になったからそろそろ間引きに行こうと思う。」
「そうか、奥さんの熊鍋が楽しみだ。」
「あ、てめ、それ目当てだな?」
「バレたか。」
(熊鍋…)ゴクリ
他愛の無い話をしつつ森の状況を伝えるレドリック。
アミスティアの熊鍋、ミユキも興味が沸いた様子である。
「そういや、今日は『あの日』だっけか?」
「あぁ、『襲撃』の事だな。やるよ。」
「そうか…
ミユキちゃん…頑張るんだぞ…」
「…?」
村の住人から何故か生温かい目を向けられたミユキは少し困惑している。
それを察した住人に理由を言われた。
「いやぁ…2年以上前から『襲撃』が行われる度にノア君がボロボロになって帰ってくるモンだから…
その分滅茶苦茶強くなってるからそう言うものだと割り切ってはいたんだが、他の…それに女の子が『アレ』をやるとなると…な…」
「そ、そんなに…ですか…」
「あぁ…村の子供達からは"冒険者になる為にあそこまでする位なら冒険者になりたくない"なんて声も上がる位だよ…」
「え?その話俺知らないんだけど…」
「ノア君が居る間にそんな事言えるかよ…
ノア君が旅立った日、皆色々な意味で"おめでとう"と言ったもんだよ。」
レドリックは本当に知らなかった様で「そんな事が…」と顔をひきつらせていた。
と、そんな事を話していると
ズシッズシッ…「よぅ、ラニとお2人さん何の話をしてたんだ?」
肩に、太さ1メル、長さは4メル程の大木を担いだマドリックがズシズシと音を立てて歩いてきた。
「今日の『襲撃』の話をしてたんだよ。
お前さん、ミユキちゃんをあまり酷い目に合わせるなよ?」
「…と言われてもな、アミからは"薬を持たせるから腕ぶっ飛ばす位は構わん"と言われてるからなぁ…」
「ひっ…」
「おいおい…」
「うんうん。」
マドリックから聞かされた言葉に短く悲鳴を上げるミユキ。
ラニと呼ばれた住人は顔をひきつらせ、レドリックは同意見だ、と言わんばかりに頷いている。
「腕をぶっ飛ばされるのって、なかなか堪えるもんなんだ。
1回でも食らえばそうならない様な立ち回りを取れるだろ?」
「えぇ…」
と、さも当然の様に答えた辺り"ああ…やっぱりノア君の両親なんだな"と思うミユキであった。
その後2、3会話をした後に各々家路に着くのであった。
ガフッ、ガフッ、ムシャムシャ、バクバク…
「ふいまへん、おはわりふだはい。(すいません、御代わり下さい。)」
「ふふ、慌てなくても御代わりはまだまだあるわよ。」
「つい最近まで"こんなに食べたら太っちゃう"って叫んでた娘とは大違いだな。」
村に来た当初のミユキは、アミスティアから出された食事の多さに驚いていた。
丁度年頃と言うのもあってか、スタイルをやけに気にしていた。
アミスティアから"食ってても痩せる"と言われたものの半信半疑であった、何せ"元の世界"で食べていた量の2.5倍である。
だがミユキは食べる事を拒めなかった。
何せ彼女の居た国はヒュマノ聖王国である。
料理を作れる者が殆ど居らず、"筋ばった肉に適当に塩コショウ振って焼いただけの肉"をご馳走と呼んでいる国である。
その焼いた肉も品質レベル3か4と、"食えるっちゃ食える"程度の出来映えである。
※ちなみにこの村で料理が苦手、と言っている子供ですら品質レベル6の料理が作れます。
そんな国で過ごしていたミユキの前に品質レベル10の料理が出て来てみなさい、口では「食べれない」と言いつつも、ミユキの腹の虫が喉から手を出す勢いで鳴くのは至極当然と言える。
気が付くと、出された料理の8割を食べ終わっていた。
ハッとなって、作ったアミスティアの方を向いた時の事は今でも鮮明に覚えている。
「ふ、堕ちたな…」
それからは残さず綺麗に食べる様になった。
スタイル云々よりも食欲が勝ってしまったのだ。
そして、ミユキが気にしていたスタイルの方はというと
チミッ。「うひゃっ!?」
「どう?食べてる割にしっかり痩せてきたでしょ?」
ふにふに…
「は、はい、お陰さまで…
あの、お願いですから脇腹を摘まむのを止めて下さい…」
ミユキの脇腹を摘まんで贅肉チェックをするアミスティア。
「さ、食事が落ち着いたら軽く剣の訓練を行いましょう。」
「はい。」カチャカチャ…
食べ終わった皿等を片付けたミユキは家の外へと向かう。
「はっ!」ヒュンッ!「やっ!」ビュオッ!「てぃっ!」ブンッ!
カッ、チッ、スッ…
「はぁぁっ!」ブォンッ!
ガッ!くるんっ!
「くっ!」ガッ!ヒュババッ!スタッ!
剣を左上、右下、左と斬り掛かるミユキだが、アミスティアはその辺にあった"木の枝"で全ていなす。
最後の一撃は後方に僅かに下がる事で回避するも、一歩踏み込んで上段蹴りを繰り出すミユキ。
しかし足首を掴んで受け止めたアミスティアは、振りかぶってミユキの体を地面に向けて叩き付けようとする。
が、アミスティアの手首を蹴って難を逃れたミユキは、空中で身を翻して何とか着地した。
「初日に比べれば動きは良くなった、剣だけじゃなく体術を使ってきたのも良かったけど、もう一手二手位あっても良かったわね。」
「ハァ…ハァ…が、頑張ります。」
食事後の"軽め"の訓練として、ミユキは約1時間に及ぶ戦闘訓練を行っていた。
アミスティアは指で木の枝をクルクルと回しつつ今の戦闘について指摘をおこなっていた。
ミユキは着地した後、地面に膝から崩れ落ち、手を付いて息を整えていた。
すると
「「ミユキおねーちゃーん、頑張ってー。」」
「は、はーい…」
訓練の様子を見ていた近所の子供達から激励の声が掛かる。
何故この場に子供達が居るかと言うと
「あら、もう稽古の時間だったわね。
という訳でミユキちゃん、ちょっと短かったけど今日の訓練は終わりにしましょ。」
「はい。」
アミスティアは週に一度、村の子供達に剣の指導を、レドリックは弓と体術の指導を行っている。
丁度この日はその指導の日であったのだ。
「"ぐんそー"、ミユキおねーちゃんの訓練はもう良いの?」
「今日は夜に別の訓練があるからもうこれ位で良いのよ。
あと私の事はアミおばさんて呼ぶハズでしょ?"ぐんそー"って呼ばないの。」
(そっかー…アミスティアさん、"ぐんそー"って呼ばれてるんだ…)
アミスティアぐんそーの裏工作が明るみに出た所で、ミユキに少しの間休憩時間が出来た。
気分を入れ替える目的で村の中を散策する事にした。
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