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再びアルバラスト編

冒険者生活開始1ヶ月前

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~冒険者生活開始1ヶ月前~


「…はぁ、はぁ、はぁ…」

「及第点だけどこんなものかしらね。」

「いやいやアミ…今更こんな事言うのもアレだが、これは新人冒険者にやって良い訓練では無いと思うぞ?」

「何言ってるのレド。
ノアは、今まで苦労してきたのよ?
これからの人生は気楽に過ごして欲しいじゃない。」

「まぁそうだが…うーむ…」


今しがた3日間に及ぶ、地獄の最終訓練が終了し、精魂尽き果てたノアが地面に倒れ伏している所である。

ノアは、昔から病弱だったのだが、ある時を境に回復の兆しが出て来た。
そんな時ノアから「冒険者になりたい」と言ってきた。

親としては「遂にこの時が来たか」と嬉しい反面心配でもあった。

いつまた病気が再発するかも分からなかった為、2人はある条件を出した。


『両親が行う(冒険者稼業を諦めさせる為の)訓練に合格する事』


であった。

元々上級冒険者であった両親は幾つもの厳しい状況、辛い場面を見てきた。

幼かった頃から辛い生活を送ってきたノアに、更なる辛い思いを経験させるのは酷だと考えたからだ。

それに、ノアの中に眠る"発現前の【適正】"からの助言があったのも、この訓練を実施した要因に繋がった。


そんな両親の思いとは裏腹に、ノアは両親が出す課題を次々とクリアしていく。
躍起になった両親は、課題のレベルをドンドンと上げていき、遂には対上級冒険者用の訓練をクリアするまでになった。

引退したとは言え両親は元上級冒険者。
生半可な訓練を行った覚えは無いし、手を抜いた事も無い。

地面に倒れ伏しているノアに『及第点』と言ったが、元上級冒険者2人を相手に3日間耐え抜く等『及第点』な訳が無い。

両親が全力で戦えるのが3日間であった為、本当は両親もこの時一杯一杯であった。


そして3日間が過ぎ、及第点を与えた後、冷静になった時に両親の頭に浮かんだのが『やり過ぎた』である。


冒険者稼業に辛苦は伴わないだろうが、このままノアを野に放てば冒険者稼業に支障が出る事は確実。

そこで父親であるレドリックは考えた。


『悪者であろうが人間は殺すな』であった。


割と当たり前の事だが、冒険者生活を送る上で野盗や盗賊と出会す事はままある。
ギルドの依頼の中には対象の殺害可、の物も合ったりする。

ノアは【ソロ】であって【暗殺】ではない。
やろうと思えば同じ様な事は出来るだろうが『訓練』の一部と言う事で納得して貰う事にした。


「良いかノア、人は殺すな。
これは訓練の一環でもあるんだからな?」

「く、訓練…?」

「あぁ、実は人を殺すと言うのは割と簡単だ。
気付かれない様に近付いて、背後から急所を刺せば良いのだからな。」

「…母さんや父さんは急所に刺しても死なないじゃん…」

「俺や母さんみたいな上級冒険者は体力があるから、1発2発刺したって死なないの。」

「…不条理ってヤツだね…」

「そう。
なのでそう言うのは抜きにして、人を殺すのは禁止。
訓練の一環で『不殺』を行う事。」

「はーい。」


と、そこまで話した所でノアの母アミスティアがやって来る。


「でもねノア、世界は広いわ。
圧倒的な力を持った人間なんてごまんと居るし、強者と戦いたがる変わり者だって居るわ。
『不殺』を貫いた結果命を落としたりしたら意味ないから、どうしようも無い時や調子に乗った奴が相手の時は一時的に『不殺』を解禁しても良いわ。」

「え?殺しちゃって良いの?」

「うーん…『殺す』と言うよりか『壊す』かしらね。」

「『壊す』ってアレの事?
母さんがよく狙ってやって来た、『鎖骨砕き』とか『肋骨むしり』とか『股肉千切り』とか…」

「そう。
調子に乗った人程痛みに弱いの。
痛みで冷静になった時の反応次第で『殺す』かどうかを判断する様に。」

「えっと、具体的には?」

「そうねぇ…
この間「強力な【固有スキル】を手に入れた」って言って調子に乗った子が居たんだけど、力任せ過ぎて技術が伴って無かったからボコボコにしてやったのね?
その子は素直に負けを認めたけど、その後もぶつくさ言う様だったら『分かって貰う』為に『殺してやろう』かと思ったわ…」

「な、なる程…
その子は助かって良かったね…」

「本当にね。
『今日こそは母さんに泥水の味を教えてやる』って意気がっ「うわぁあっ!そうだよ!僕の事だよ!意気がってごめんなさい!」


地面に突っ伏した状態で泣き寝入りをするノアであった。


「まぁ冗談はさておき、単純にノアに『殺し』をして欲しく無いだけよ。」

「そうそう。私や母さんの場合、力も無かったから仕方無く『殺し』と言う選択を取った時もあったが、全く気持ちの良い物では無かった。
そんな想いをノアにして欲しくないだけだ。」

「…父さん、母さん…」


両親からの想いを噛み締めるノア。

だが


「『壊す』方がサクッと『殺す』より気持ちの良い物では無い気がするんだけど…」

「「まぁまぁ、まぁまぁ(はぐらかし)」」

「ホラ、やっぱりそうなんじゃ『バシャッ!』冷たっ!?水責め!?何?何!?」

「はい、この話はここまで、3日も戦ってたから汗だくよ。
ホラ水浴び水浴び。」バシャッ!

「母さガボッ、これ水浴び違っ…水責めガボボッ…」









『結局あの後何だかんだあって『不殺』を訓練の一環として言いつけられたんだったね。』

(『2ヶ月位前の話だっけかな?
取り敢えずギュラドスカルを『壊し』てみて反応見てから考えようぜ。』)

(そうしよう。)


『俺』と今後の方針を話し合ったノアは、大きく後退し、傷を癒しつつ外された手首、肘を戻しているギュラドスカルを見やる。




「グ…クソッ…『ガコッ!』ッテェ…」

『幾ら支援魔法掛けられてても外された関節迄は治らないでしょう?』
  
「フ、ハンゲキガハイッタテイドデイイキニナルナヨ…」

『そう来なくちゃ、な!」スゥゥ…ザッ!ザスッ!

「ナ、ナニヲシテイル!?」


突如赤黒いオーラが消え、生成した腕も霧散。  
手にしていた荒鬼神2本を地面に突き刺すノア。


「ブキヲテバナストハ…
ショウブヲアキラメタカッ!?」

「逆ですよ、逆。
僕は無手の方が得意なんだ。」ダッ!

「ヌカセ!
ソコマデイウナラオモイシラセテヤロウゾ!」

グォアッ!


ギュラドスカルは巨斧を振り被り、向かってくるノアを迎え撃つ構えである。


「オラァッ!」ブォンッ!

ドゴァッ!ズザザザザッ!


ギュラドスカルの振りに合わせ地面を踏み抜く速度で<スライディングダッシュ>を発動し、斧を回避した勢いのまま股の下を通り背後を取る。




「ソウクルトオモッテイタサ!」ブォンッ!


ギュラドスカルは巨斧を振った勢いを殺さず、勢いそのままに背後にまで振り抜く。



スカッ!「ヌッ!?」

背後にはノアは居らず、何の手応えも無く空振りをする。

ゾリッ!「ウガッ!?」ガクンッ!

左足のアキレス腱に痛みが走り、立っていられなくなるギュラドスカル。

ザキッ!ブォンッ!「ヌアァッ!」

寸での所で斧を支えにして転倒を防ぐと、もう一本の斧を振って更に後方に斧を振る。

ビュォッ!

ザッ!ゾリッ!メチッ!「ギッ!?」ドッドスッ!シュピッ!ゴッ!ゴツッ!

巨斧を避けたノアは<洗練された手業>を発動して再び手首と腕をカランビットナイフで斬り、肘の関節を破壊し、上腕に二撃の刺突を加え、首を掻き斬り、顎に2発の拳を加える。


「ガ…オゴ…ッ!」グラリ…

タッ、タタ…

一瞬の内に8発の攻撃を食らい、たたらを踏むギュラドスカル。


「やっぱりね。
支援魔法の類いを幾つも掛けられているけど"反応速度は大して上がってない"みたいですね。」

「ナ、ンダト…」

「さっき僕が『リベラ』を発動したのにあなたは避ける事も無く受け切った。
てっきり支援魔法の効果を信用して避ける事をしなかったと思ったんですが、本当は反応出来なかっただけなんですよね?
その証拠に速さ重視の攻撃に切り替えた途端、攻撃を食らい出したし、避ける事もしなかった。」

「アァ、ミエハシナイ。
ダガ、シエンマホウノコウカデコノテイドノキズハスグニナオル!
ナンノモンダイモナイゾ?」


そう言い放つギュラドスカルの体に付けられた傷の数々は、現在高速回復中である。

だがノアは、不敵に嗤う。


「何言ってんですか?
治る前にまた『壊せば』いいだけじゃないですか?」
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