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王都編

【鬼神】のノア

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突如としてド派手な登場を果たした【鬼神】のノアに対し、闘技場全体が揺れる程の歓声が上がる。

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!

「うひゃー、やっぱり人多いなー。<聞き耳>切っておこうかな…」


ノアは試合場をざっと見回し、距離や足場の状態を確認し、その流れで対戦相手である『新鋭の翼』の面々を一瞥。
ノアの表情を見る限り、緊張している様子は一切無い。





「キャー!ノアくーん頑張ってー!」


観客席に座るクロラがノアに向け声援を送る。
その様子を見たクリスとクックが固まっている。


「え?クロラ、ノア君の事知ってるのか?」

「知り合い?」


状況がイマイチ分かっていない兄2人に、一段上の席に座っていたポーラが説明をする。


「えー、昨日から話題に上がっていたクロラの彼氏と言うのが、ノア君です。」

「「…え?…ええーっ!?」」


あまりの衝撃に、クリスとクックは顎が外れんばかりに口を開き、驚きに目をひんむいていた。






「うーん…やっぱりこの人数だと分からないな…
レター。"クロラさん僕が見えますか?見えたら手を振ってみて下さい。"」


ペアリングに声を掛け、クロラに連絡を送る。
ノアは注意深く周囲をぐるっと見渡すと、ある一点に目が止まる。


「見付けた。」





ピカッ

「あ、ノア君から連絡が来たみたい。
ちょっと待っててね。」


兄2人は未だ放心状態である。
クロラはそんな兄2人に断りを入れ、ノアからの連絡を確認。

少ししてクロラは立ち上がると、ノアに向かって手を振る。
すると試合場にいるノアがピタリと動きを止め、クロラに向かって手を振り返した。

その光景を見た兄2人は何も言えなくなってしまった。





ノアの登場に闘技場全体の空気が一気に【鬼神】に傾いた。

先程まで上がっていた『新鋭の翼』に対する声援は消え、全てノアに対する声援に変わっていた。


『さーて、只今ド派手に試合場に姿を現したのは、齢15にして【鬼神】の二つ名を授かった冒険者稼業2ヶ月目の新人冒険者、そして本日の御前試合の主役であり今回一番の被害者。
【鬼神】のノアの登場じゃ!』

『ホント今回はただただ巻き込まれただけだよね~、同情するよ。
でも君の勝利に100万ガル賭けてるけ『はいはーい、時間が差し迫ってるから先進めるぞ、先ぃ。
さてお主ら、王の御前に集まってくりゃれ。』


ジャロルの指示に従い、エルニストラ王がいる特殊結界の前に並ぶ。
すると、ガントレットを装着した王が立ち上がり、各々の顔を見やる。


「今回の御前試合は良くも悪くも何もかもが異例尽くしだ。
特に【鬼神】殿は色々と思う所があるだろうが、存分に己が力を示すが良い。
さて、試合開始に当たって何か申す事はあるかな?」


この王からの言葉にデミが発言する。


「『新鋭の翼』リーダー、デミ・スロアの名に誓って必ずやこの【鬼神】とか言う名ばかりな輩を討ち倒してやりましょう。」

「ごめんなさいね、ノア君。
ここまで舞台が整ってしまったのだからこちらは徹底的にやらせて貰うわ。」


このリナの言葉に他のパーティメンバー全員が頷く。


「【鬼神】殿からは何か申す事はあるかな?」


「先程実況のヤンさんも言ってましたが、今回僕はただただ巻き込まれただけなんですよね。
本来であれば『こういう事』に巻き込まれたくないから王都にすら来るつもりもありませんでしたしね。
今回の御前試合はお前らにとっては力を示す場じゃ無い。
お前ら『新鋭の翼』は見せしめだ。
面白半分で戦いを挑んできた奴らは『次こうなるぞ』と言う戒めとして利用させて貰う。
"討ち倒す"?"徹底的にやらせて貰う"だ?
こっちは最初っから徹底的に殺るつもり満々だ!
妙な気を使ってねぇで生き残る算段でも考えとけ。」


自然と殺気が漏れ出ていたノアは眉をひそめ、試合開始を今か今かと待ちわびている様だ。

対してノアの殺気に当てられた面々は嫌な汗を流す。
そして意思疎通を取る事無く、全員が開幕全力で挑み短期決着を行おうという思考に切り替わる。


『た、猛っておる!【鬼神】は猛っておるようじゃ!
それでは間も無く試合を開始するでの、お互いある程度距離を取ってくれぬか?』

ワァアアアアアアアアア!

観客はジャロルの実況と、もう間も無くの試合開始とで俄然盛り上がっている。

『新鋭の翼』、ノアはジャロルの指示通り距離を取る。
その間ノアをよく知る者は全員同じ事を思っていただろう。

『あー、相当頭に来ている様だ』と。








『新鋭の翼』とノアとの距離は約100メル。
全員を真正面に捉えたノアは特に身構えるでも無く腕をだらりと下げて佇んでいる。
 

対して『新鋭の翼』リーダーのデミはアイテムボックスから小型の盾を左手に装着し、右手には魔石が幾つか嵌め込まれたショートソードを装備。

リナは両腰にレイピアを装着し、更に両手に1本ずつ持って構える。

ミミ、ララは体を覆っていたフードを取ると、革鎧装備の至る所に20本以上のナイフを装着。
お互い太腿の辺りからナイフを2本ずつ抜き、構えている。

ガドラはアイテムボックスから杖を取り出して構え、いつでも魔法が放てる様に待機。

ノンは特に杖等は出さず、手を前に翳している。



『お互い準備が出来た様じゃな?それでは御前試合開始じゃ!』



開始の合図と同時にリナ、ミミ、ララが放たれた弓の様に駆け出す。

その後ろではガドラが数種類の魔法を発動する。

「皆!支援魔法掛けるぞ!<守護者の盾><身体強化><剣強化付与>!
食らいやがれ!<ヘヴィ><鈍重><闇視>!
効果時間は30秒程度だ!最速で決めちまえ!」


ガドラから放たれた妨害魔法は全てノアに付与され、ノアの動きは鈍り、体が重く感じ、目が見えなくなる。

だが

「問題無い。」


ノアはそう言うと、何も無かったかの様に3人に向けて歩き出し、敢えて接近を図る。

最速で迫って来たリナは、走りながらもレイピアを正眼に構える。

リナの剣の間合いに入った瞬間、目にも止まらぬ速さで首元を狙った突きを繰り出す。

ドッ!

が、それよりも素早い動きで体を滑り込ませたノアは拳を握り、<渾身><拳撃><剛拳>を発動。
リナの腹部目掛けて拳を振るうと、身に付けている鎧を何の抵抗も無く破壊し、どてっ腹を抉り飛ばす。

ゴヂュッ!!

衝撃は凄まじく、胴体部分にあった内臓全てが迫り上がって来る感覚と、体内で爆裂魔法を炸裂させたかの様な感覚とが一度に迫る。

<身体強化>を受けた体ですらその衝撃に耐えられず、体が爆ぜそうになった時だった。

試合場の緊急措置が即座に反応。
致命傷所か即死レベルと判断し、蘇生魔法が発動する。

周囲からは、爆ぜかけたリナが吹き飛ばされながら超高速で再生している姿が目に映っている事だろう。

その光景に、一瞬観客は言葉を失う。
が、そんな中でもミミとララは脇目も振らずに、寧ろ更に加速してノアに迫る。

ノアの少し手前で左右に別れたミミとララは<忍び足>を発動して音を消した状態で両側からノアに接近。
音も無く喉元や顔面に向けて刺突を繰り出す。

ガシッ!ガシッ!

「「な!?」」

ノアに迫っていたミミとララの刺突だが、直前の所で手を掴まれ、阻止される。

次の手を、と外そうとしてもノアの手はビクともしない。


「たかだか音を消して視界を潰した程度でどうにかなると思うなよ?」


<闇視>効果を受けたノアの漆黒に染まった目がミミとララに向けられる。

そしてノアは<渾身>を発動し、ミミとララの手をナイフごと握り潰した。
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