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アルバラスト編

武器屋店主の猫獣人レスト

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武器屋店主の猫獣人レストはカウンターから地図を退けて背後の棚から小指の爪程の大きさの宝石をジャラリとカウンターに撒く。


「"我が告げし声、発す音、機微の報、一切をこの地に集いし兵達の元へ伝えよ"」


再び祝詞の様な物を唱えると宝石達が各所に飛び散っていく。
その中の1つが、ノアの耳の中へと吸い込まれていくが違和感は無い。


【さて、皆さん私の声が聞こえるかしら、昨日ギルド長経由で伝えられた通り、私の声や音が聞こえる様に、逆にあなた達を通して声や音が伝わってくる様に数多の術式を込めた宝石をこの街の冒険者、兵士、職員全てに届けたわ。】


目の前のカウンターに立つ猫獣人レストの体は光輝き、周囲に10にも及ぶ魔方陣が展開している。


【皆、足元を見て御覧なさい。
あなた達が立っている場所にボードゲームの盤の様にマスと位置を表す記号が割り振ってあるハズよ。
そして術式の中に<気配感知>と<集約>を組み込んであるの。
これによって1人1人ではそこまで範囲は無いけど各々が散らばる事でこの街全ての範囲を網羅する事が可能よ。】


ノアが武器屋の前の通りを見てみると所々に光の線みたいな物がはしっている。


【ウェイン!北の16へ、カミラ東の21、ルディアは中央の52で警戒!
作戦開始は約5分後よ、朧!着替えは終わってる?ノアもそちらへ向かうから一緒になるまで待機!
良いか皆?今まで散々辛酸嘗めさせられて来たけど対象、その手下を確保するまでは平静を保ちつつ周囲の警戒に当たれ!
僅かな機微でも報告しろ、最大18人同時に喋ろうが問題無い!
この糞みたいな案件を、今日この日を以て終わらすぞ!
作戦開始1分前まで一旦通信を切る、以上だ!】


レストの体から光が消え、魔方陣も一旦閉ざされる。


「と言う訳で君もそろそろ配置に向かってね。」

「はい。レストさん凄いですね…」

「それは君のお陰さ、昨日ここに来たばかりなのにここまで事を進めてくれた。
全てが終わったらそれ相応の褒美を受け取って頂戴。」

「分かりました。その時は遠慮無く。」


レストに礼をして店を出る。
外には普段通りの心持ちで過ごす冒険者や巡回している兵士が見受けられる。

そして南門辺りの壁際まで行くと魔法使いの衣装に変装した朧が立っていた。


「来たかノア君、アレを見てみろ。」


そう言った視線の先で例の商人、アリが店を広げていた。
剣や盾、斧、等を並べている中に昨日の杖を見付けたが花の銀細工が施されている。


「くっ、見た目を少し変えているのか。」

「ま、何とかなるでしょう、さて、行きましょうか。」


ノアに促された朧が商人の元へ向かう。


「いらっしゃ…おや?昨日のお嬢ちゃん、どうしたんだい?」

「あ、昨日の商人さんお早うございます。
その…そこに置いてある杖が両親が買ってくれたのと似てるなー…って…」

「ああ、昨日言っていた野盗に盗られた杖の事だね?」

「はい、杖に付いてる宝石の形も杖の細かい所がそっくりで…」

「ん?昨日はそんな事言って無かったと思うが…
ははーん、後付けで特徴言えばタダで貰えるとでも思ったのかな?」

「そ、そんな事…」

「最近の子供は小狡い事を考え付くもんだな!
良いかい?この杖はね、ドーラと言う木の産地で採れた良木を使った杖なんだよ。
それとも何かい?
これが君の両親が買った証拠でもあるってぇのかい?」

「そ、それは…」

「無いだろうな!あるならこの場で証明してみるんだな!」

「それじゃあ証明してみましょうか。」

「あん!?」


商人のアリが声のした方を見ると、そこにはジョーが立っていた。


「何だ?あんたは。」

「初めまして、商人をやっておりますジョーと申します。」


この発言の後から周囲の商人らが遠目に彼等のやり取りを見始めた。


「ふぅん。で?どうやって証明するんだ?」

「この杖は確かにドーラで売られている物で価格は2万円程。
但しこの杖には特徴がありますね?」

「ああ、持ち手の上部に輝く宝石だな、そ「いやいや、違いますよ?」

「何!?」


アリから杖を受け取ったジョーはそのまま朧に渡す。


「はい、おぼろちゃん、持ち手を握った状態で魔力を流して杖を捻って貰えるかな?」


ジョーに言われた通り魔力を流すと持ち手の下に切れ目が入り、捻ると上と下で分離。
中の空洞部分に淡く輝く魔石が埋め込まれ、1枚のメモ紙が出てくる。

おぼろちゃんがそのメモ紙を開くとノアの字で『おぼろちゃんの。』と書かれた紙が出てきたではないか。


「あれ?その紙は昨日おぼろちゃんが杖おとしても直ぐに誰のか分かる様に僕がギルドの紙に書いた物だよ?何で商人さんが持ってるのかな?」

「し、知らん!そのガキがその杖を開けた時に仕込んだ奴だろう!」

「分かりました、その中に埋め込まれている魔石の魔力を辿ればどういう経路を辿ったか分かります。」

「な、何!?」

「さ、おぼろちゃん。その杖を貸して貰って良いかな?」


ジョーがおぼろちゃんから杖を受け取ろうとするとアリが割って入ってくる。


「う、ウチの商品に手を出すな!貴様らグルだな?」

「そんな事は有り得ませんよ。」

「はっ!どこの馬の骨とも分からん商人が出しゃばりおって!」


するとこのやり取りをずっと眺めていた周囲の商人がアリに対して「何言ってんだコイツ」と言う目を向ける。
その周囲の視線にアリがたじろぐ。


「な、何だよ…」

「まぁ知らなくても無理もないでしょう、彼はそもそも商人ですらありませんから。」

「ぬぐっ!?」


図星と言う顔をするアリ。


「彼は【万能】のアリディルダ、48歳。
元々冒険者をやっていたが努力を怠ってきた為早々に引退、最近まで野盗をやっていたがこの商売を思い付き【商い】に転換して今に至る。
ただ、持ち前の雑さのお陰で調べ始めたら直ぐに身元が割れたよ。
なーんで今までバレなかったんだろうね。」

「ぐ…ここまでか…」


アリディルダが悔しそうに膝から崩れ落ちた。
しかし胸元に差していたペンのフタを取ったかと思うと、直ぐに口に加えた。

「毒か!?」と誰しも思ったがよく見ると笛の様だが音はしない。
するとレストからの声が響く。


【これは犬型獣人を強制的に【獣化】させる魔笛の音だ!奴の手下は犬型獣人だ!】


等と報告が入ると同時に街の3ヶ所から咆哮が上がる。

グォオアアアアアッ!
バォオオオオオオッ!
ゴァアアアアアアッ!


「糞がぁ!こんなガキ共と知らねえおっさんに商いを邪魔されるとはなぁっ!
犬共ぉ!ここに来てコイツらを真っ先に殺せぇ!」

【ノア君!完全に手下は【獣化】してしまった!何とか押さえる様に周りに伝えるから早く逃「丁度良い、こっちに来るなら手間が省けました。
皆には手出しせずに言って下さい、こちらは迎撃態勢は整っています。」


【…どうなっても知らんぞ!?】


レストからの連絡が途絶えたと同時に視界の奥に【獣化】した犬獣人3体の姿を確認。


(『なぁちょっと前出るぜ?』)

(ああ、良いよ。この場合その方が良いだろう。)


ノアの体から赤黒いオーラが立ち昇り、目が赤黒く染まる。


「おお…その姿は…」


ジョーの驚く声が上がるが、『俺』は別の人物に向け声を掛ける。


『会うのは久しいな、ジョーの護衛なんだからしっかり職務を全うしろよ?双子ちゃん。』

「「御意!」」


ジョーを護る様に刀を携え、軽鎧に袴姿のルーシー姉妹が降り立った。
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