彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第三章 名無しのエトランゼ

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 夜明けが世界を包み込んでいた。

 昇りくる太陽の輝きは誰にでも公平に優しく、全てを癒し許すように世界中を等しく光で満たす。

 名もなき丘の上。

 彼はそこに立っていた。


「派手にやったもんだな」


 背後から声を掛けられるが、特に驚いた様子もなく返事も返すことはない。

 言葉を発した主、老年の男。

 大魔導師と呼ばれた老人は緩慢な速度で歩みを進めると、青年の隣に立つ。

 風にローブの裾がはためき、白くなった髪の下にある目で老人が眺めるのは、数多の死に覆い尽くされた大地だった。

 百か、それ以上はいるだろう。

 まだ息のあるもの既に事切れているもの、それぞれ状況は異なるが、一つだけ彼等に共通していることがある。

 彼等をそんな風にしたのは、一人の男だ。

 この老人の横に立つ、最強のギフトを持つエトランゼがたった一人でこれをやってのけたのだった。


「なんでまた、わざわざ殺すんだ? お前なら別に、連中を生かしたまま捕まえることだってできるだろう?」


 彼我の力の差はそれほどのものだ。

 大人と子供という話ではない。視線だけでその命を奪うこともできるし、その気になれば武器や戦う力だけを無力化することも容易い。

 それでも何故か、青年はそれをしなかった。


「全員を生かしても、話が変わるとは思えなかったからです」

「成程な。まぁ、一理ある」


 一言で言えば、倒れている者達は反乱軍だ。

 ある権力者がエトランゼを集め、彼等の生活に不満があることにつけ込んで武力蜂起を目指した。

 だが、それは資金や武器集めの段階で周囲の街に被害が出たことで情報が露呈した。

 オルタリアは動かなかったが、街の人の依頼を受けて動いたのが、この青年だった。

 反乱軍にとっては不幸なことだろう。まさか最強のエトランゼである彼が出張ってくるとは、誰も思わなかった。

 それどころか首謀者たる貴族は地位を与えることで懐柔できるであろうとすら考えていた。


「全てに等しくか。……まるで神様みたいだな」


 エイスナハルの聖典によれば、神の裁きに慈悲はない。信じるもの、信仰無きものに関わらずこの地上にあるもの全てに等しくそれは下される。

 彼のその言葉は大魔導師と呼ばれた老人、ヨハンが忌み嫌うその教えを彷彿とさせるものだった。


「まさか」


 神にも等しいと評された男は、その意見を切って捨てる。


「もし俺が神なら、もっとこの力を有効に使っているでしょうね」

「あぁ。かもな」


 地面に杖をつき、ヨハンはそこにどっかりと腰を下ろした。

 丘の上から見える景色は一見すれば地獄のようだが、朝日に照らされる彼等の姿は何処か哀愁を含んだ美しさがある。

 その光景を生み出した本人は、果たして何を思うのか。

 嘲弄か、憐憫か、それともこんな力を持たされてしまったことに対する憤怒か。

 ヨハンの知る限り、エトランゼは持たされたギフトの次第でこの世界で生きる困難さが変わる。

 その点で言えば、彼は最上の物を持たされたはずだ。


「その力は、お前から選択するってことを奪っちまったみたいだな」


 無言であることが、肯定を現していた。

 彼は決して選ばない。希望を持たない。理想を語らない。

 最もそれを叶えるに相応しい力を持っているからこそ、自分がそれをしてしまうことを唾棄している。

 それが力を得た代償であるとでも言いたげに。


「俺が選べば、多くの人の生き方が変わる。死すべき運命を覆すものもいれば、その逆もまた。だからこそ、自分の意思でそれを振るうことは許されない」


 だから機構であろうとしている。

 意思を持たない、人に請われるがままに、できるだけ世界を平らな方向に持っていくだけの存在。

 老人は想う。

 例えそれが余計な、恐らくは来ることのない未来だったとしても考えてしまった。

 もし彼が、その神の座と呼んでもいいほどの立場から転がり落ちてしまったとき、どうするのだろうかと。

 理想を持たず、意思無き機械のように、他の誰かのために在り続けるのだろうか?

 もしそうだとしたら。


「それは人の在り方じゃねえな。そんなんじゃ、何も救えない。自分自身すらな」

「……何か?」

「独り言だ。年取ると増えんだよ」


 それきり会話は途切れ、どちらともなくそこを去る時まで、ついぞ再開されることはなかった。
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