彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

文字の大きさ
102 / 178
第三章 名無しのエトランゼ

3‐3

しおりを挟む
 イシュトナル要塞南側。

 要塞の北側は今やイシュトナル自治区の中心地として栄え、住居や店が幾つも立ち並ぶが、要塞事態を境にしての南側は広く軍事施設として利用されていた。

 午後になるとヨハンは簡単な書類をアーデルハイトに任せて、そちらの方へと向かう。

 頂点に昇った太陽が照り付ける日差しの中で、多くの兵達が訓練に精を出していた。

 彼等の中心で声を上げるのは兵達の中でも叩き上げのベテランと、元軍人であるエトランゼだった。

 その二人は兵達に円形に縁どられた運動場を走ることを命じると、ヨハンの元へと駆け寄ってくる。


「ヘーイ! ようやく帰ってきましたね、ミスタヨハン!」


 手を上げてそう挨拶したのは、金髪碧眼の大男だった。ヴェスターよりも更に身長は高く、身体は筋骨隆々、短く刈られた金髪と、日に焼けた浅黒い肌が特徴的な男だった。


「テッド。今日も精が出ているな」

「ハッハッハ!」


 快活な笑い声が答える。

 その男の名前はテッド。エトランゼで、元々の世界でも軍人だった。それほど高い地位にいたわけではないが、軍隊の勝手が判るということで、訓練役を務めてもらっていた。


「バーナー卿。そちらの方はどうです?」


 もう一人、貴族服をきっちりと着こなす男の名はクルト・バーナー。こちらはこの世界の住人で、ディッカーについてオルタリアを離反した貴族の一人だった。

 口数こそ少ないが実直な男はディッカーの信頼も厚く、だからこそテッドと並んで軍部に配属することになった。


「問題はない。テッドの考案した訓練方法は合理的で、俺の部下達も練度を上げてきている。……エトランゼの知識とは、恐ろしいものだ」

「はっはー! ミー達はギフトだけじゃないんだよー!」


 得意げにテッドは大声を出す。


「だが、人手不足は否めない。主に用兵を行える……あー、そちらの言葉なんというんだったか?」


 言い淀み、クルトは続きの言葉をテッドに促す。


「オフィサー、士官ね」

「そう。それが足りていない。我々のやり方ではそれは貴族がやることだったが、そちらでは違うのだろう?」

「一応それに関しては解決の糸口はあります。ヘルフリートへの支持が落ちていけば、こちらに寝返る貴族も出てくるでしょう」

「……ふむ。しかし、だからといって貴族全てが戦上手なわけではない。俺達の戦力は本国よりも圧倒的に少ない。下手な将に指揮を取らせ兵を無駄死にさせれば、あっという間に崩れ落ちるぞ」


 クルトの言葉は正しい。


「ええ。だからこそ、戦いが始まれば短期で決着を付ける必要があります」


 三人は場所を移し、天幕が張ってある下のテーブルに地図を広げながら、話を続ける。

 遠目には兵達が厳しい訓練をしている姿が見え、その中にはウァラゼルと一緒に戦ったトウヤの姿もあった。


「ですが、ミサイルも爆撃機もない状態でどうやるのです? ミー達のアナログ兵器じゃ、例えギフトがあっても短期決着は無理ですねー」

「なにも戦いの全てが完全制圧で終わるわけじゃない。むしろ今のエレオノーラ様の立場でそれをやれば、単なる簒奪者となってしまう危険性もある」

「ふーむ?」


 首を傾げるテッド。

 それとは反対に、クルトの方はもうヨハンの言いたいことを理解したようだった。


「つまりは、ヘルフリート陛下に和平を結ばせることが目的ということだな?」

「そういうことになります」


 王都を落とすわけではない。ただ、ヘルフリートが折れて、このイシュトナル自治区を自国領の一部として手厚く扱うことを認めてくれれば戦いは終結する。

 現状の問題としてはそれが明らかに難しいと判るほどに、ヘルフリートが苛烈な人間であるということだった。


「そのために戦力が必要です。バーナー卿、周辺の街からの戦力の集まりはどうなっていますか?」

「まずまず、と言ったところだな。各地に駐屯している兵達はやることがない時は農作業や力仕事に従事させている。そこから兵隊に興味を持ってくれるものはいるのだが……。如何せん、誰でも採用するというわけにもいかん」

「判りました。……後数日もすれば、先日の王都であった件が結果を持ってくる頃でしょうが」

「そいつは楽しみねー。で、ボス。開戦はいつ頃ですかー? ミーの部下達……というか、主に一人のビーストが我慢の限界が近いデース!」


 視線の先には大剣を振り回し、五人がかりの兵士を弾き飛ばす、ヴェスターの姿があった。肩まで伸びた金髪の男は、その鋭い目でヨハンを捉えると、にやりと唇を釣り上げる。


「早ければ一ヶ月以内には戦いが始まる。そのためにはもっと準備をしておく必要がある。テッド、例の部隊はどうなってる?」

「完全、とは言えませーん。ですが二つとも、実戦投入前には使い物になるようにしておきまーす! ボスから預かった二つの武器、あれはびっくりするぐらい強力でーす! 実戦投入されれば確実に戦争は変わりまーす!」

「俺達にできることは兵を鍛え、その時になって命を賭けることだけだ。事前準備はお前に任せる」


 クルトとテッドに両肩を叩かれてから、ヨハンはその場を後にする。

 彼等には兵達の練度を限界まで高めておいてもらう必要がある。

 あの事件から、ヘルフリートがどういう動きをするのかまだ判らないが、あの男の性格上穏便に事を済ませてくれる可能性は限りなく低い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...