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第一章 エトランゼ
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丸二日の行軍の末に辿り付いたフィノイ河の畔は、既に油断を許さない状況になっていた。
道を歩くのは列を成す避難民。そしてディッカーの部下達がその周囲を囲むように護衛して橋を渡らせている。
目を凝らして平原の先を見てみれば、道の上には夥しい数の死体や荷物が転がり、こちらに向けて進行してくる異形の群れがゆらゆらと不気味に揺れている。
「状況は最悪ですね」
「そうだな。加えて、河を背負わねばならぬから逃げることもできぬ」
「逃げる人達を守らなきゃいけないんだから、どっちにしても俺達が逃げるわけにはいかないでしょ」
隊列の先頭にトウヤとディッカーは並んで立っている。
領地の防衛部隊も残さなければならないので、連れて来れた兵の数はディッカーのもともとの部下と、イシュトナルから合流した兵士、合わせて約百五十人。そこに既に陥落した各地の防衛隊が合流し、大凡二百人程度。
「対する異形の数は……。数えるだけ無駄そうだな」
地平線に見える影は時間と共に数を増し、逃げる民達に恐怖を与え続ける。
「好きにはさせんよ。我々は避難民の最後尾の防衛に回る! これ以上一人たりとも犠牲者を出させるな!」
ディッカーの号令が響き、地鳴りを響かせて兵達は駆けた。
トウヤもその中に交じり、調達してきた剣を構えて最前線に躍り出る。
「まずは槍兵で敵の進軍を抑える! トウヤ君、君は防備が手薄になった場所の補強頼んだ!」
「了解!」
この戦場でディッカーと交わした言葉はそれが最後だった。
彼は指揮を執る役目があるし、トウヤはこれから誰かと喋る余裕もないほどの戦いを強いられる。
異形達の突進は凄まじく、一瞬にして槍による壁の一部が突き崩され、そこから逃げていく民達に異形が迫る。
それを横合いから、トウヤの放った炎が纏めて三匹焼き焦がした。
「た、助けてくれ!」
叫び声と共に、既に戦意を失った兵士二人が、重傷を負った仲間を背負いながらこちらに走ってくる。
トウヤはそこに飛び込み、炎を纏った剣で異形の一匹を切り裂く。そして更に群がってきた二匹を、左手から放つ炎の壁で焼き尽くした。
「ここは俺が! あんた達は負傷者を!」
「き、君はエトランゼか? エトランゼがどうしてここに……?」
「そんなことを話してる場合じゃないだろ」
「わ、判った!」
後退する兵達を見送ると、先行しすぎたトウヤの周りをいつの間にか異形の群れが取り囲んでいた。
人間と同じぐらいの大きさのが三匹に、虫や魚のような形の小型の個体は最早数えるのが馬鹿らしいほどの数に上っている。
その醜悪さに泡立つ肌を抑えながら、トウヤは自身の炎で半ば溶けかけた剣を構える。
迫りくる異形を斬り払い、炎によって集団戦にならないように器用に距離を取りながら戦う。
その間に味方の兵達がトウヤの元に集まり、誰が言うまでもなく炎を操るエトランゼを中心に戦線を構築し始めた。
「大型の奴は俺が!」
「すまない!」
正面に立つ、皮膚が剥がれ、目玉が飛び出した人型の異形へと、炎を纏った剣を突き入れる。
心臓にあたる個所へと突き刺さったが、それの息の根を止めることはできず、唸り声ともつかない異音を発しながら、だらりと垂れさがっていた腕が、鞭のように撓りトウヤの身体を打った。
「つっ……!」
力など入っていないように見えた一撃は思いのほか重く、トウヤの身体は吹き飛んで地面を転がる。
それでも鎧を付けていたおかげで致命傷ではないと、すぐさま態勢を立て直した。
「魔法が来るぞ! 一度距離を取れ!」
号令と共に、なけなしの数の魔法兵が炎の槍を一斉に放つ。
着弾し、辺りに炎を撒き散らした炎の槍だがその威力はトウヤのものとは比べ物にならず、相手の進軍をほんの少しばかり抑えることしかできない。
かといって連射が効くわけでもなく、続く攻撃までの時間を稼ぐために再び兵達は戦線を維持する必要があった。
「来いよ!」
そう叫び、剣が胸に刺さったままの異形の正面に飛び出す。
一匹だけならばまだよかったが、トウヤの声はもう一匹の人型も呼び寄せてしまったようだった。
「まあいいや。どっちにしても、お前等を抑えられるのは俺だけみたいだし……!」
横目に見れば兵士達は複数で取り囲み、小型の異形を攻撃するだけで精一杯で、大型の個体相手には時間稼ぎ程度のことしかできていない。
槍を投げ、弓を射って、相手が怯んだ隙に剣で斬りかかる。しかし、痛覚があるかも判らない化け物相手では、その反撃として伸ばされた手で何人かが殺される。
既にトウヤの足元には兵士達の死体が折り重なっており、中にはそれに対して牙を突き立てる異形もいた。
炎を放ちそれらを追い払うと、死体が握っていた剣を借りて、正面の異形へと斬りかかる。
「っらぁ!」
撓る腕を弾き、正面に接近。
横合いから迫るもう一匹に対しては炎を纏った剣を振り回して牽制し、左手を突き刺さったままの剣へと伸ばした。
「燃えろおおぉぉぉぉぉ!」
金属の剣を伝わり、トウヤの左手から発された熱が、異形の体内を蹂躙する。
流石にそれは効いたようで、黒煙を吐きながら異形は一度動きを止めた。
だが、脅威は去ったわけではない。
牽制が緩んだ隙に、鞭のような腕が伸びて、トウヤの身体に巻きついた。
「こいつっ……!」
隙ができれば、正面の異形も動きだす。
動きを止めたのは一瞬だけで、まるで何のダメージもないかのように素早く動き、両腕を振り回してトウヤを攻撃する。
「エトランゼの少年を死なせるな!」
万事休すのトウヤを救ったのは、オルタリアの兵達だった。
トウヤが前線を引きつけたおかげで態勢を整えることに成功した彼等は、三人一組を組むと、二人が同時に槍を突きだし、一匹の異形へと攻撃する。
喉と、胸に槍が突き刺さり異形は怯むが、それでもまだ動きは止まらない。
反撃に伸ばされた腕は、残った一人が盾で受け止める。
そうしている間に槍を捨てた二人の兵士が、今度はより接近して剣で持ってその身体を左右から斬りつけた。
『キシイイィイィイイイ!』
口の位置にある器官から、不気味な音とともに涎のような液体が漏れた。
それが毒液の類でないことを祈りながら、トウヤは肉薄し、左腕で異形の腹部に掌底を叩き込む。
「燃えろおおぉぉぉぉぉぉ!」
至近距離で打ち出された火球が異形を吹き飛ばし、そのまま全身を炎で包み込む。
倒れた異形は最初こそ立ち上がろうともがいていたが、やがて体力が尽きたのか、炎に巻かれたまま動きを鈍らせ、次第に動かなくなった。
「後、一匹!」
大振りで振るわれた剣が、肩口から心臓の辺りまで一気に食い込む。
トウヤの炎を纏った剣は一気にその強度を落とし、異形の肉繊維の固さに耐えられず、中央から折れ飛んだ。
「だああぁぁぁぁぁぁぁ!」
反撃の腕を避ける。
読んでいた、などと言うつもりはない。単純に運がよかっただけだ。
身体を回転させ、後ろ回し蹴りでその身体を一気に放した。可能なら踵に炎を纏わせるべきだったのかも知れないが、そこまで達者ではない。
「エトランゼ殿!」
ひゅんと風を切る音とともに、後方から投げられた一本の槍が、丁度トウヤの足元に突き刺さる。
「気持ちはありがたいけどさ……!」
それを引き抜きぐっと構え、態勢を立て直した異形へと狙いを込める。
狙うは何処か。
心臓ではない。身体の末端を狙っても無駄。
「俺にはトウヤって名前があんだよ!」
半ば閃いたように、トウヤはその顔面へと槍を伸ばしていた。
牙のようなものを砕き、槍が顔面に突き刺さる。
あの生き物に脳があるのかは判らないが、そのまま頭部を破壊された異形はぴたりと動きを止めて、崩れ落ちていった。
「見ろ! 奴等が撤退していくぞ!」
歓声に顔を上げると、残る一匹の人型も、他の異形達もこちらに背を向けて逃げだしていく。
「くっ……はぁ……!」
大きく息を吐く。同時に内臓までも零れ落ちてしまいそうなほどに濃い疲労感がトウヤを襲っていた。
そのまま膝を突き、地面に倒れ込んでしまいたいが、そんなことをすればもう立ち上がれなくなるだろう。何よりも敵味方の死体だらけの地面に顔を近づけたくはない。
「……勝った、のか?」
横で、名も知らない兵士が誰に問うでもなく呟いた。
「全然、勝ってないよ」
トウヤの答えに対してそれ以上の言葉はない。お互いにこれから先のことを話せば、恐怖で押しつぶされてしまいそうだったから口を噤んだ。
ウァラゼルが生み出した異形の数はこんなものじゃない。地を埋めるほどの数がそこにあったはずだ。
異形達にどんな生態があるかは判らないが、今は撤退した。もしかしたら、ウァラゼルが気紛れて退かせただけの可能性だってある。
明日には今よりも多い数が来る。明後日にはそれ以上が来るかも知れない。
そして何より、ウァラゼル本人が動けばここの戦線は崩壊する。一日も持たないだろう。
トウヤがこの戦場に来てから、いったい何分間戦っただろうか。行軍の疲れがあるにせよ、この疲労は尋常ではない。
こんな戦いが明日も明後日も続き、しかも勝てる展望が今のところないと思えば、全身に圧し掛かる倦怠は更に増していく。
「ほんと、誰かなんとかしてくれよ」
トウヤの呟きを聞く者はいない。
兵士達はもう、次の戦いに備えた防衛線の構築のために動きだしていた。
明日の見えない戦いをするのが一人ではないことは、せめてもの救いなのだろうか。
道を歩くのは列を成す避難民。そしてディッカーの部下達がその周囲を囲むように護衛して橋を渡らせている。
目を凝らして平原の先を見てみれば、道の上には夥しい数の死体や荷物が転がり、こちらに向けて進行してくる異形の群れがゆらゆらと不気味に揺れている。
「状況は最悪ですね」
「そうだな。加えて、河を背負わねばならぬから逃げることもできぬ」
「逃げる人達を守らなきゃいけないんだから、どっちにしても俺達が逃げるわけにはいかないでしょ」
隊列の先頭にトウヤとディッカーは並んで立っている。
領地の防衛部隊も残さなければならないので、連れて来れた兵の数はディッカーのもともとの部下と、イシュトナルから合流した兵士、合わせて約百五十人。そこに既に陥落した各地の防衛隊が合流し、大凡二百人程度。
「対する異形の数は……。数えるだけ無駄そうだな」
地平線に見える影は時間と共に数を増し、逃げる民達に恐怖を与え続ける。
「好きにはさせんよ。我々は避難民の最後尾の防衛に回る! これ以上一人たりとも犠牲者を出させるな!」
ディッカーの号令が響き、地鳴りを響かせて兵達は駆けた。
トウヤもその中に交じり、調達してきた剣を構えて最前線に躍り出る。
「まずは槍兵で敵の進軍を抑える! トウヤ君、君は防備が手薄になった場所の補強頼んだ!」
「了解!」
この戦場でディッカーと交わした言葉はそれが最後だった。
彼は指揮を執る役目があるし、トウヤはこれから誰かと喋る余裕もないほどの戦いを強いられる。
異形達の突進は凄まじく、一瞬にして槍による壁の一部が突き崩され、そこから逃げていく民達に異形が迫る。
それを横合いから、トウヤの放った炎が纏めて三匹焼き焦がした。
「た、助けてくれ!」
叫び声と共に、既に戦意を失った兵士二人が、重傷を負った仲間を背負いながらこちらに走ってくる。
トウヤはそこに飛び込み、炎を纏った剣で異形の一匹を切り裂く。そして更に群がってきた二匹を、左手から放つ炎の壁で焼き尽くした。
「ここは俺が! あんた達は負傷者を!」
「き、君はエトランゼか? エトランゼがどうしてここに……?」
「そんなことを話してる場合じゃないだろ」
「わ、判った!」
後退する兵達を見送ると、先行しすぎたトウヤの周りをいつの間にか異形の群れが取り囲んでいた。
人間と同じぐらいの大きさのが三匹に、虫や魚のような形の小型の個体は最早数えるのが馬鹿らしいほどの数に上っている。
その醜悪さに泡立つ肌を抑えながら、トウヤは自身の炎で半ば溶けかけた剣を構える。
迫りくる異形を斬り払い、炎によって集団戦にならないように器用に距離を取りながら戦う。
その間に味方の兵達がトウヤの元に集まり、誰が言うまでもなく炎を操るエトランゼを中心に戦線を構築し始めた。
「大型の奴は俺が!」
「すまない!」
正面に立つ、皮膚が剥がれ、目玉が飛び出した人型の異形へと、炎を纏った剣を突き入れる。
心臓にあたる個所へと突き刺さったが、それの息の根を止めることはできず、唸り声ともつかない異音を発しながら、だらりと垂れさがっていた腕が、鞭のように撓りトウヤの身体を打った。
「つっ……!」
力など入っていないように見えた一撃は思いのほか重く、トウヤの身体は吹き飛んで地面を転がる。
それでも鎧を付けていたおかげで致命傷ではないと、すぐさま態勢を立て直した。
「魔法が来るぞ! 一度距離を取れ!」
号令と共に、なけなしの数の魔法兵が炎の槍を一斉に放つ。
着弾し、辺りに炎を撒き散らした炎の槍だがその威力はトウヤのものとは比べ物にならず、相手の進軍をほんの少しばかり抑えることしかできない。
かといって連射が効くわけでもなく、続く攻撃までの時間を稼ぐために再び兵達は戦線を維持する必要があった。
「来いよ!」
そう叫び、剣が胸に刺さったままの異形の正面に飛び出す。
一匹だけならばまだよかったが、トウヤの声はもう一匹の人型も呼び寄せてしまったようだった。
「まあいいや。どっちにしても、お前等を抑えられるのは俺だけみたいだし……!」
横目に見れば兵士達は複数で取り囲み、小型の異形を攻撃するだけで精一杯で、大型の個体相手には時間稼ぎ程度のことしかできていない。
槍を投げ、弓を射って、相手が怯んだ隙に剣で斬りかかる。しかし、痛覚があるかも判らない化け物相手では、その反撃として伸ばされた手で何人かが殺される。
既にトウヤの足元には兵士達の死体が折り重なっており、中にはそれに対して牙を突き立てる異形もいた。
炎を放ちそれらを追い払うと、死体が握っていた剣を借りて、正面の異形へと斬りかかる。
「っらぁ!」
撓る腕を弾き、正面に接近。
横合いから迫るもう一匹に対しては炎を纏った剣を振り回して牽制し、左手を突き刺さったままの剣へと伸ばした。
「燃えろおおぉぉぉぉぉ!」
金属の剣を伝わり、トウヤの左手から発された熱が、異形の体内を蹂躙する。
流石にそれは効いたようで、黒煙を吐きながら異形は一度動きを止めた。
だが、脅威は去ったわけではない。
牽制が緩んだ隙に、鞭のような腕が伸びて、トウヤの身体に巻きついた。
「こいつっ……!」
隙ができれば、正面の異形も動きだす。
動きを止めたのは一瞬だけで、まるで何のダメージもないかのように素早く動き、両腕を振り回してトウヤを攻撃する。
「エトランゼの少年を死なせるな!」
万事休すのトウヤを救ったのは、オルタリアの兵達だった。
トウヤが前線を引きつけたおかげで態勢を整えることに成功した彼等は、三人一組を組むと、二人が同時に槍を突きだし、一匹の異形へと攻撃する。
喉と、胸に槍が突き刺さり異形は怯むが、それでもまだ動きは止まらない。
反撃に伸ばされた腕は、残った一人が盾で受け止める。
そうしている間に槍を捨てた二人の兵士が、今度はより接近して剣で持ってその身体を左右から斬りつけた。
『キシイイィイィイイイ!』
口の位置にある器官から、不気味な音とともに涎のような液体が漏れた。
それが毒液の類でないことを祈りながら、トウヤは肉薄し、左腕で異形の腹部に掌底を叩き込む。
「燃えろおおぉぉぉぉぉぉ!」
至近距離で打ち出された火球が異形を吹き飛ばし、そのまま全身を炎で包み込む。
倒れた異形は最初こそ立ち上がろうともがいていたが、やがて体力が尽きたのか、炎に巻かれたまま動きを鈍らせ、次第に動かなくなった。
「後、一匹!」
大振りで振るわれた剣が、肩口から心臓の辺りまで一気に食い込む。
トウヤの炎を纏った剣は一気にその強度を落とし、異形の肉繊維の固さに耐えられず、中央から折れ飛んだ。
「だああぁぁぁぁぁぁぁ!」
反撃の腕を避ける。
読んでいた、などと言うつもりはない。単純に運がよかっただけだ。
身体を回転させ、後ろ回し蹴りでその身体を一気に放した。可能なら踵に炎を纏わせるべきだったのかも知れないが、そこまで達者ではない。
「エトランゼ殿!」
ひゅんと風を切る音とともに、後方から投げられた一本の槍が、丁度トウヤの足元に突き刺さる。
「気持ちはありがたいけどさ……!」
それを引き抜きぐっと構え、態勢を立て直した異形へと狙いを込める。
狙うは何処か。
心臓ではない。身体の末端を狙っても無駄。
「俺にはトウヤって名前があんだよ!」
半ば閃いたように、トウヤはその顔面へと槍を伸ばしていた。
牙のようなものを砕き、槍が顔面に突き刺さる。
あの生き物に脳があるのかは判らないが、そのまま頭部を破壊された異形はぴたりと動きを止めて、崩れ落ちていった。
「見ろ! 奴等が撤退していくぞ!」
歓声に顔を上げると、残る一匹の人型も、他の異形達もこちらに背を向けて逃げだしていく。
「くっ……はぁ……!」
大きく息を吐く。同時に内臓までも零れ落ちてしまいそうなほどに濃い疲労感がトウヤを襲っていた。
そのまま膝を突き、地面に倒れ込んでしまいたいが、そんなことをすればもう立ち上がれなくなるだろう。何よりも敵味方の死体だらけの地面に顔を近づけたくはない。
「……勝った、のか?」
横で、名も知らない兵士が誰に問うでもなく呟いた。
「全然、勝ってないよ」
トウヤの答えに対してそれ以上の言葉はない。お互いにこれから先のことを話せば、恐怖で押しつぶされてしまいそうだったから口を噤んだ。
ウァラゼルが生み出した異形の数はこんなものじゃない。地を埋めるほどの数がそこにあったはずだ。
異形達にどんな生態があるかは判らないが、今は撤退した。もしかしたら、ウァラゼルが気紛れて退かせただけの可能性だってある。
明日には今よりも多い数が来る。明後日にはそれ以上が来るかも知れない。
そして何より、ウァラゼル本人が動けばここの戦線は崩壊する。一日も持たないだろう。
トウヤがこの戦場に来てから、いったい何分間戦っただろうか。行軍の疲れがあるにせよ、この疲労は尋常ではない。
こんな戦いが明日も明後日も続き、しかも勝てる展望が今のところないと思えば、全身に圧し掛かる倦怠は更に増していく。
「ほんと、誰かなんとかしてくれよ」
トウヤの呟きを聞く者はいない。
兵士達はもう、次の戦いに備えた防衛線の構築のために動きだしていた。
明日の見えない戦いをするのが一人ではないことは、せめてもの救いなのだろうか。
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