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てぶくろをかいに
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空を仰いだ六花が、すんと小さく鼻を鳴らした。
「匂いがする」
「何の?」
「渉は繊細なようで鈍い」
その言葉は、質問の返事にはなっていない。もうすっかり葉の落ちた街路樹は、鈍色の空に裸の枝だけを広げている。今年ももうじき終わる。
入学してすぐの講義で隣の席に座った六花と一緒に出歩くようになったのは、秋になってからだった。なんとなく話しているうちに、お互いの欠けの部分を補うような関係が面白くなった。呑気だけど自分のペースを崩さずにいられる僕と、しっかり者に見えて他人の思惑を考えてしまう六花。
恋人と言うには今一歩踏み込めない距離で、ただ一緒の時間は妙に心地良い。僕は恋人など持ったことはないし、そういう意味では奥手かも知れない。彼女のアパートに入り浸ってるとか、一緒に旅行に行くなんて話を友達から聞くたび、羨ましく思いながらも自分の能動的な行動にはならない。この年齢でそれはおかしいと言う人もいるし、俺も年齢イコール彼女いない歴だから仲間だと言う人もいる。両方ともすべてに同意はできず、そこもまた中途半端だ。
誰かが、六花っていいよなと言った気がする。人懐っこく明るい表情で、物怖じしない性格がいいと言った。僕もそれには同意したい。けれど僕は、そうかなと曖昧に答えただけだった。彼は恋人候補として六花を挙げたのだとわかっているのだし、そうすると僕の中途半端な親しさは六花の恋の邪魔かも知れない。
もしも六花が誰かと恋をしても、僕に邪魔をする権利はない。だって僕は六花と気が合っているだけなのだから。時々カフェでお茶を飲んだり図書館で落ち合ったりするだけ――一度、公民館で催された古い映画の上映会に一緒に行ったことがある――それだけの間柄なのだから。
あの映画のふたりは、大学の図書館で出会ったんだっけ。名家と移民の身分差を乗り越えて結婚して、貧しさから解放されてやっと幸福になろうとした矢先に、永遠の別れが来たんだ。愛とはけして後悔しないこと、なんてね。
本当に後悔しなかったのか?生活の苦しさや親に認められない辛さを、相手のせいにしたくならなかったのか?
公民館のロビーで、六花はとても感動的な映画だったと言った。僕にはよくわからない。恋愛をする準備が、他人よりも遅いのだろうか。それともその部分が不足しているのか。僕は今まで、誰かに触れたくて眠れない晩なんて、過ごしたことはない。
「寒いね」
短い秋が終わってマフラーが必要になったころ、六花はもう手袋をしていた。
「あったかそうだね」
「かたっぽ、貸してあげようか?」
六花が差し出した手袋はとても小さい。
「そんなの、入んないよ。六花の手、小さいな」
「普通だと思う。渉だって、そんなに手は大きくないじゃない」
試しに手を入れたら、第一関節の分くらい指の長さが足りない。間抜けなことに僕はその時まで、六花が僕よりもとても小さいことに気がついていなかったのだ。一緒に歩くことが心地良い相手は、僕よりも華奢な肩で僕よりも細い指をしていた。
女の子なんだな、六花は。僕は女の子と行動を共にしているんだ。そう思うことの不思議な感覚が、突然足元から上ってきた。六花が男のようだと思ったことはない。スカートだって肩まである髪だって、今まで何の不思議もなく見ていたのに、女の子だと強く思ったことはなかった。
そうか、一緒に歩いているのは、気が合って居心地の良い女の子なんだ。
恋愛感情っていうものが、よくわからない。ただその時に感じたのは、六花が女であることが嬉しいという単純な喜びだった。僕が男で六花が女であることが嬉しい。
誰も六花を女の子だと認識していなければ良いなと思ったが、僕は友人の中で確実にひとり認識している奴がいることを知っている。
六花は、僕をちゃんと男だと認識しているんだろうか。今までの僕が六花をそう思っていたみたいに、僕をただの話し相手のひとりだと思っているだけかも。僕は社交的じゃないし頭の回転が速いわけでもないから、そんなにたくさんの交友相手は持っていない。けれど六花は誰とでも打ち解けるし、男女ともに友達が多い。
その他大勢、なんて言葉が頭を掠めた。
十二月に入ると、街はもうクリスマスの賑わいだ。校舎を出たところで六花に会い、そのまま駅前のカフェまで一緒に歩いた。僕は自転車を曳いていた。
「渉、手袋は?」
「まだ買ってない」
「手、冷たくないの?」
「そろそろ買おうかなと思ってる」
「じゃあ、手を出して」
言われるがままに差し出した手を、六花は指を絡めて握った。
「こっちの手、この手を出してね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ」
どこかで聞いたことのあるフレーズだった。僕の手をしっかり握った六花の手は、考えていたよりもずっと小さい。
「何だっけ、それ」
なんだかひどく照れてしまい、六花の指を外した。
冬休みの過ごし方が話題に出るようになると、学内もなんとなく浮き足立ち始める。実家に帰るとかスキーに行くとか、クリスマスをどう過ごすかとか――そんな風に、一人暮らし一年目の十二月の日めくりは薄くなってゆく。
「渉は実家に帰らないの?」
駅まで続く並木道で、六花は僕にそう訊ねた。
「ギリギリまでバイトして、三十一日に帰る」
そう答えた時、六花はふいに空を見上げて言ったのだ。
「匂いがする」
短い冬休みの間、六花は何をして過ごすのだろう。もしかしたら、帰省先に恋人が待っていたりして。ああ、その可能性には思い至らなかったな。六花にそんな話を聞いたことはなかったから。
「六花って、つきあってる人、いる?」
「なんでそんなこと、訊くの?」
答えに詰まった。ただの好奇心だと言うことはできないし、僕の自覚がはじまっていることに気がついてはいた。僕は六花が多分、女の子として好きなのだ。
「ほらね」
六花は呆れたように言う。
「渉は繊細なようで鈍い」
六花はいつかのように、僕の手に指を絡めた。
「手袋を買うとき、ちゃんとこっちの手を出した?」
どこかで知っているシチュエーションなのに、思い出せない頭がもどかしい。
「狐の手を、おじさんに見せたんじゃないでしょうね?」
「降参。何だっけ、その話。それにまだ結局、手袋を買ってないんだ」
知っている話のはずなのに、ぜんぜん掴めない狐と手袋。六花はいたずらっぽく笑った。
頭上から、白いものがちらりと舞った。僕の手を握ったまま、六花が空を見上げる。
「ほら、匂いがするって言ったでしょ」
六花の名は、この舞い落ちる白いものを表すのだと、聞いたことがある。
「ね、冷えるのも道理でしょ。渉の手袋、買ってあげる」
「自分で買うよ」
六花は手を離さずに言う。
「鈍い鈍ーい渉くん、そろそろ意思表示させてくれても良くない?渉のペースに合わせると、おばあちゃんになっちゃうかも」
言外の意が脳に届くまで、優に三十秒はかかったかも知れない。
僕の顔が上気したのが先か、六花が赤くなったのが先かはわからない。僕ははじめて意思を持って女の子の手として六花の手を握りしめた。
「ね、手袋買いに行こ?」
ちらちらと降り始めた冷たい花は、六花の頭のてっぺんで溶ける。人間には体温があって、今手を通して伝わってきているのは、好きな女の子の体温なんだ。確かに鈍いね、僕は。きっとみんな、それは学習済みに違いない。
六花は僕が追いつくのを、待っていてくれるだろうか?
「小学校の教科書だったよね」
思い出した挿絵は、白くなった林の中を歩く親子狐だ。
「そう、『手ぶくろを買いに』」
六花は握った手を揺らす。
「行こ、駅前のショッピングモール」
あの話の最後って、どうだっけ。ちゃんと手袋を買えたんだったかな。
街路樹の枝の間を縫って、僕に慣れない感情が降ってくる。
「匂いがする」
「何の?」
「渉は繊細なようで鈍い」
その言葉は、質問の返事にはなっていない。もうすっかり葉の落ちた街路樹は、鈍色の空に裸の枝だけを広げている。今年ももうじき終わる。
入学してすぐの講義で隣の席に座った六花と一緒に出歩くようになったのは、秋になってからだった。なんとなく話しているうちに、お互いの欠けの部分を補うような関係が面白くなった。呑気だけど自分のペースを崩さずにいられる僕と、しっかり者に見えて他人の思惑を考えてしまう六花。
恋人と言うには今一歩踏み込めない距離で、ただ一緒の時間は妙に心地良い。僕は恋人など持ったことはないし、そういう意味では奥手かも知れない。彼女のアパートに入り浸ってるとか、一緒に旅行に行くなんて話を友達から聞くたび、羨ましく思いながらも自分の能動的な行動にはならない。この年齢でそれはおかしいと言う人もいるし、俺も年齢イコール彼女いない歴だから仲間だと言う人もいる。両方ともすべてに同意はできず、そこもまた中途半端だ。
誰かが、六花っていいよなと言った気がする。人懐っこく明るい表情で、物怖じしない性格がいいと言った。僕もそれには同意したい。けれど僕は、そうかなと曖昧に答えただけだった。彼は恋人候補として六花を挙げたのだとわかっているのだし、そうすると僕の中途半端な親しさは六花の恋の邪魔かも知れない。
もしも六花が誰かと恋をしても、僕に邪魔をする権利はない。だって僕は六花と気が合っているだけなのだから。時々カフェでお茶を飲んだり図書館で落ち合ったりするだけ――一度、公民館で催された古い映画の上映会に一緒に行ったことがある――それだけの間柄なのだから。
あの映画のふたりは、大学の図書館で出会ったんだっけ。名家と移民の身分差を乗り越えて結婚して、貧しさから解放されてやっと幸福になろうとした矢先に、永遠の別れが来たんだ。愛とはけして後悔しないこと、なんてね。
本当に後悔しなかったのか?生活の苦しさや親に認められない辛さを、相手のせいにしたくならなかったのか?
公民館のロビーで、六花はとても感動的な映画だったと言った。僕にはよくわからない。恋愛をする準備が、他人よりも遅いのだろうか。それともその部分が不足しているのか。僕は今まで、誰かに触れたくて眠れない晩なんて、過ごしたことはない。
「寒いね」
短い秋が終わってマフラーが必要になったころ、六花はもう手袋をしていた。
「あったかそうだね」
「かたっぽ、貸してあげようか?」
六花が差し出した手袋はとても小さい。
「そんなの、入んないよ。六花の手、小さいな」
「普通だと思う。渉だって、そんなに手は大きくないじゃない」
試しに手を入れたら、第一関節の分くらい指の長さが足りない。間抜けなことに僕はその時まで、六花が僕よりもとても小さいことに気がついていなかったのだ。一緒に歩くことが心地良い相手は、僕よりも華奢な肩で僕よりも細い指をしていた。
女の子なんだな、六花は。僕は女の子と行動を共にしているんだ。そう思うことの不思議な感覚が、突然足元から上ってきた。六花が男のようだと思ったことはない。スカートだって肩まである髪だって、今まで何の不思議もなく見ていたのに、女の子だと強く思ったことはなかった。
そうか、一緒に歩いているのは、気が合って居心地の良い女の子なんだ。
恋愛感情っていうものが、よくわからない。ただその時に感じたのは、六花が女であることが嬉しいという単純な喜びだった。僕が男で六花が女であることが嬉しい。
誰も六花を女の子だと認識していなければ良いなと思ったが、僕は友人の中で確実にひとり認識している奴がいることを知っている。
六花は、僕をちゃんと男だと認識しているんだろうか。今までの僕が六花をそう思っていたみたいに、僕をただの話し相手のひとりだと思っているだけかも。僕は社交的じゃないし頭の回転が速いわけでもないから、そんなにたくさんの交友相手は持っていない。けれど六花は誰とでも打ち解けるし、男女ともに友達が多い。
その他大勢、なんて言葉が頭を掠めた。
十二月に入ると、街はもうクリスマスの賑わいだ。校舎を出たところで六花に会い、そのまま駅前のカフェまで一緒に歩いた。僕は自転車を曳いていた。
「渉、手袋は?」
「まだ買ってない」
「手、冷たくないの?」
「そろそろ買おうかなと思ってる」
「じゃあ、手を出して」
言われるがままに差し出した手を、六花は指を絡めて握った。
「こっちの手、この手を出してね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ」
どこかで聞いたことのあるフレーズだった。僕の手をしっかり握った六花の手は、考えていたよりもずっと小さい。
「何だっけ、それ」
なんだかひどく照れてしまい、六花の指を外した。
冬休みの過ごし方が話題に出るようになると、学内もなんとなく浮き足立ち始める。実家に帰るとかスキーに行くとか、クリスマスをどう過ごすかとか――そんな風に、一人暮らし一年目の十二月の日めくりは薄くなってゆく。
「渉は実家に帰らないの?」
駅まで続く並木道で、六花は僕にそう訊ねた。
「ギリギリまでバイトして、三十一日に帰る」
そう答えた時、六花はふいに空を見上げて言ったのだ。
「匂いがする」
短い冬休みの間、六花は何をして過ごすのだろう。もしかしたら、帰省先に恋人が待っていたりして。ああ、その可能性には思い至らなかったな。六花にそんな話を聞いたことはなかったから。
「六花って、つきあってる人、いる?」
「なんでそんなこと、訊くの?」
答えに詰まった。ただの好奇心だと言うことはできないし、僕の自覚がはじまっていることに気がついてはいた。僕は六花が多分、女の子として好きなのだ。
「ほらね」
六花は呆れたように言う。
「渉は繊細なようで鈍い」
六花はいつかのように、僕の手に指を絡めた。
「手袋を買うとき、ちゃんとこっちの手を出した?」
どこかで知っているシチュエーションなのに、思い出せない頭がもどかしい。
「狐の手を、おじさんに見せたんじゃないでしょうね?」
「降参。何だっけ、その話。それにまだ結局、手袋を買ってないんだ」
知っている話のはずなのに、ぜんぜん掴めない狐と手袋。六花はいたずらっぽく笑った。
頭上から、白いものがちらりと舞った。僕の手を握ったまま、六花が空を見上げる。
「ほら、匂いがするって言ったでしょ」
六花の名は、この舞い落ちる白いものを表すのだと、聞いたことがある。
「ね、冷えるのも道理でしょ。渉の手袋、買ってあげる」
「自分で買うよ」
六花は手を離さずに言う。
「鈍い鈍ーい渉くん、そろそろ意思表示させてくれても良くない?渉のペースに合わせると、おばあちゃんになっちゃうかも」
言外の意が脳に届くまで、優に三十秒はかかったかも知れない。
僕の顔が上気したのが先か、六花が赤くなったのが先かはわからない。僕ははじめて意思を持って女の子の手として六花の手を握りしめた。
「ね、手袋買いに行こ?」
ちらちらと降り始めた冷たい花は、六花の頭のてっぺんで溶ける。人間には体温があって、今手を通して伝わってきているのは、好きな女の子の体温なんだ。確かに鈍いね、僕は。きっとみんな、それは学習済みに違いない。
六花は僕が追いつくのを、待っていてくれるだろうか?
「小学校の教科書だったよね」
思い出した挿絵は、白くなった林の中を歩く親子狐だ。
「そう、『手ぶくろを買いに』」
六花は握った手を揺らす。
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