上 下
34 / 319
第1章

貴重な朝食

しおりを挟む
情けなく泣きつかれて眠ってしまった僕は翌朝まで目を覚ますことがなかったようだ。


目が覚めたら部屋が明るくて、ばぁやが呆れた様子で部屋に居た。

「やっと目を覚まされましたね!さっ、お顔を洗って下さい。寝ている間に冷やしておきましたが、少し腫れてますね。」


泣いて眠ったにしては目があまり痛くないと思っていたら、どうやらばぁやがしっかりとケアしてくれていたらしい。



ばぁやが持ってきてくれたぬるま湯で顔を洗い、化粧水とクリームを顔に塗られる。
貴族の人間の肌は使用人達の手によってツルツルにされている。

ばぁやに手伝ってもらいながら着替えていると僕のお腹からぐぅぅ~っという音が鳴った。


「ふふ、お夕食を召し上がられていませんものね。今朝は旦那様もアドルファス様もいらっしゃいますので、少し早いですが食堂に行きましょうか。」

ばぁやに笑われてしまったが、とーさまとにぃ様と揃って朝食がとれることに気分が上がる。

でも昨日のことがあるし…少し恥ずかしい気持ちもある。




もじもじしながらばぁやに促されて食堂へやってきた。

まだいつもの朝食の時間より少し早いから食堂にはとーさまもにぃ様も居なくて、せわしなく使用人達が朝食の準備をしてくれている。


僕に気づいた使用人達が深く礼をし、作業の手を止めるので気にしないよう伝えて僕は一足先に自分の席へ着く。



緊張しながらじっと待っていると机の上の食事が用意し終わってすぐにとーさまとにぃ様が食堂にやって来られた。



お二人が席に着くのをじっと待つ。

お忙しいとーさまとにぃ様と揃って朝食が食べられる機会はそうそうない。
僕は朝食を抜くことが偶にあるし、にぃ様は学園があるから馬車の中で食べることが多いみたい。

とーさまはお仕事が忙しくて不在なことが多いし、帰ってきてても朝食の時間が一緒になることはあまりない。


昨日のことがあっての今日。

皆揃っての朝食は嬉しいけれど、何でこんなタイミングなんだって拳を地面に叩きつけたくなる。




「アドルファス、ルナイスよく眠れたか。」


「はい父上。」

「…ぁぃ。とーさま。」



ご飯を食べ始める前にとーさまが声を掛けて下さったけど、僕はよく眠れたどころではなくがっつり泣き疲れ眠ってしまったので恥ずかしくて声が小さくなってしまう。

とーさまと僕の席は離れているから、ぎり聞こえたくらいかもしれない。


そんな僕の気持ちを察してかとーさまはうむっと頷いてカトラリーを持ちお肉をガブリと食べた。


とーさまが食べたのを合図に僕とにぃ様もお皿の上に盛られた朝食にしては豪華なご飯を口にしていく。




「父上、今年は華祭かさいにルナイスを連れていってやりたいのですが、よろしいでしょうか?」


にぃ様の言葉にとーさまがうむっと頷く。

だけど肝心の僕は華祭かさいなるものを知らない。

首を傾げている僕に後ろからそっとばぁやが領内で行われる春の祭りだと教えてくれた。


祭りは前世の時に3・4回行ったくらいだ。
人が沢山密集してねちゃっとした肌やもわっとした空気が苦手で近づかないようにしていた。

この世界の祭りがどんなものかは知らないけど、あまり気乗りしない。


でもにぃ様が連れていってやりたいと言ってくれたことが嬉しい。

気乗りはしないが、にぃ様と一緒だったら楽しい祭りになるかもしれない。




「ルナイスは3日は屋敷から出ることを禁じる。最近は危険な行為が過ぎるのでな。」


浮上していっていた気持ちがとーさまの言葉でぎゅんっと地に落ちる。

とーさまの言っている事はよく分かる。
だって、ドラゴンの時もお爺様達の時もよく考えもせず危ない行動をした覚えが僕には十分にある。



「では、4日後の最終日にルナイスと行って参ります。」

しょぼーっとしている僕をクスクスと笑い見ながらにぃ様はそう言った。

え?っと思ってとーさまを見れば口角を上げて頷いていた。
ちょっとだけ悪戯なお顔。


・・・



とーさまわざと厳しめの声で言いましたね?

僕の事からかいましたね?





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

僕は悪役令息に転生した。……はず。

華抹茶
BL
「セシル・オートリッド!お前との婚約を破棄する!もう2度と私とオスカーの前に姿を見せるな!」 「そ…そんなっ!お待ちください!ウィル様!僕はっ…」 僕は見た夢で悪役令息のセシルに転生してしまった事を知る。今はまだゲームが始まる少し前。今ならまだ間に合う!こんな若さで死にたくない!! と思っていたのにどうしてこうなった? ⚫︎エロはありません。 ⚫︎気分転換に勢いで書いたショートストーリーです。 ⚫︎設定ふんわりゆるゆるです。

婚約破棄は計画的にご利用ください

Cleyera
BL
王太子の発表がされる夜会で、俺は立太子される第二王子殿下に、妹が婚約破棄を告げられる現場を見てしまった 第二王子殿下の婚約者は妹じゃないのを、殿下は知らないらしい ……どうしよう :注意: 素人です 人外、獣人です、耳と尻尾のみ エロ本番はないですが、匂わせる描写はあります 勢いで書いたので、ツッコミはご容赦ください ざまぁできませんでした(´Д` ;)

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

婚約破棄と言われても・・・

相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」 と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。 しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・ よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。 *********************************************** 誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

処理中です...