1,168 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-395 再会
しおりを挟む『……あ……あ!?』
盾の創造者の口からは、焦りと自分の想定外の出来事に対して、どちらも処理ができていない感情が口から漏れていた。
どれほどに拳で殴りつけても、ハルナの姿をした盾の創造者の顔が赤く腫れたり血がにじむようなことは無かった。しかしそのことを不思議に感じることなく、サヤはただ何度もその顔に対して拳を打ち付けていった。その行動の理由としてハルナの中から盾の創造者という存在を叩き出したいという思いもあったが、ただただ今までのうっ憤を晴らすという意味が強かった。
ともかく、サヤの攻撃は盾の創造者に対して大きな効果をみせた。
卵の殻のようにひび割れた皮膚からは、内側から血ではなく光が溢れ漏れている。
しかもその変化に一番驚いているのは、誰でもない盾の創造者自身だった。
その口から漏れる声は、予想外の出来事を前に止められない焦りが滲んでいる声色だった。
「――?」
必死にひび割れた顔に手をあて、ヒビがそれ以上大きくならないように必死に抑えている。
その様子は手を出さずとも、盾の創造者の思い通りになっていないため、サヤはただ黙って何が起こるのかを黙って見守っていた。
『が……あぁ!!!』
その叫び声と同時に、盾の創造者の顔から光が増して顔の形が崩れ落ちていく。
「眩……っ!?」
その様子を離れたところから見ていたローディアたちも、眩しさに目が開いていられない状態だった。
「――なにぃ!?」
サヤも用心のために自分の周りには薄い瘴気を纏っていたが、それらは一瞬にして弾ける光によって蒸発してしまっていた。
『ま、待て!?行くな!!!』
「……そんなこと聞けるわけないでしょ!?」
放たれた真っ白な光の世界の中、盾の創造者と聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「……ったく。手間かけさせやがって」
「ごめん……サヤちゃん……でも」
「でも……なに?」
「痛くなかったけどさ、本気で殴り掛かってきてなかった!?」
「当たり前だろ!?こっちだって必死だったんだよ!!」
「そ、そうだよね!?ご……ごめん」
「……ったく。助けてやったのに、お礼の一つも言えないのか?」
「あ!ご、ごめんね!?ありがとう……って、本当にこれで助けられると思ったの?」
「……なんでそういうところは、勘がいいんだろうねぇ。アンタは」
「えっへへへ……っていうかやっぱりさっきのって!?」
二人のやり取りの最中の真っ白な世界にも、いよいよその光にも陰りが見える。
光の強さは徐々に収まっていき、その中心部には人の形をしたシルエットが見える。
その現れた人型の表情には笑顔が浮かび、それを見守る方にも同じ表情が浮かんでいた。
「……でも、ありがとう。サヤちゃん」
「あぁ。お帰り、”ハルナ”」
二人はお互いの無事を確認し合い、ホッとしていた。
『……逃がさない。逃がしはしないよ!ハルナ!!!』
盾の創造者は、ハルナの姿を保てない程にボロボロに砕けていった。
そこには、外側を失ったハルナに近い体系の存在が、二人に向かって怒りの感情をぶつけていた。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる