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第六章 【二つの世界】
6-83 ルーシー・セイラム4
しおりを挟む「――アタシたちはあんたの”敵”だよ」
サヤのこの言葉の部分だけが、ルーシーの頭の中で繰り返されている。
信じたくない気持ちで心中が埋め尽くされていたが、必死に残された冷静な領域でこの状況を整理しようとした。
(これではっきりした……これからどうするか……この場で……始末)
ルーシーは、その考えを一瞬にして頭の中から消し去った。
自分の契約精霊が怯えるほどの力を持つ者と対峙し、決して勝てるはずがない。
それは大精霊や大竜神に歯向かうことと一緒の結果になることは、考えなくてもわかることだった。
”このままでは埒が明かない……”とりあえずそう考えたルーシーは、その理由をサヤに確認した。
「そうですか……なぜ、あなたは私たちの敵なのでしょうか?もしよろしければ、その理由をお聞かせいただくことはできますか?」
「そうだね……理由はねぇ……」
サヤは腕を組んで頭を下げ、目を閉じて何かを考える素振りを見せる。
その時点でも既に、これからどんな理由を告げられたとしてもその信憑性は疑わしいものがある。
だが、質問をした側はその答えをただ待つしかなかった。
「理由はね……ないねぇ。特に何も思いつかないや。ごめんね」
「ちょっとサヤちゃん!?それはないんじゃない!!」
無責任なサヤの言葉に怒りを訴えたのは、ルーシーではなくハルナだった。
「でもさ、アタシたちがアンタたちには特に恨むこともなかったじゃない」
「じゃあ、なんで”敵”っていっちゃうのよ?」
「ハルナ……忘れてない?アタシたちはあのトカゲについてるんだよ?あいつは王国に対して宣戦布告をしたんだ、だったら必然的にアタシたちは敵になるってことじゃない!?」
「あ!確かに……そうよね?」
二人はルーシーの事を気にもせずに、自分たちだけの会話のやりとりを行なっている。
ハルナはそのことに気付き、感情を表していないルーシーに相手にしていなかったことを詫びた。
「ご、ごめんなさい!?……あの……そういうこと……みたいですね」
ルーシーは、この状況に少しずつ慣れてきた。
もう一人の女性……大精霊と同じ力を持つハルナという女性が、サヤという危険な思考の持ち主を抑制できる存在であると推測した。
二人の関係はどらかが上というわけでもなく、お互いが友人のような関係のように思える。
そこから考えられるのは、サヤという者も大精霊と同じような力を持つ者だという推測だった。
だが、自分たちがいまだに不利な状況であることは間違ってはいけないと、目の前の敵のやり取りを見て弛みかけた気持ちを再び引き締めた。
「では、これから……我々はあなた方と争うことになるのでしょうか?」
これは、いまこの状況で一番ルーシーが聞きたかったことだ。
この返答によって、本格的に目の前の二人を”どうにか”しなければならないことになる。
ルーシーは息を殺し、二人のどちらかの返答を待った。
できれば、”ハルナ”と呼ばれる女性の方からの返答を期待する。
今までの二人のやり取りからすれば、こちらの方がまだ交渉の余地があるようにも思えたからだった。
ルーシーは二人の姿を視界に収めながら、相手からの返答を待った。
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