上 下
857 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-84 ルーシー・セイラム5

しおりを挟む










ルーシーが期待していた通りにはならずに、問い掛けに対しての回答はサヤの口から聞かされることになった。





「あれ?確かモイスがここに来たよね?その時宣戦布告したって聞いたけど……あれ?アンタ、もしかして聞いてない?」




ルーシーはサヤの軽々しくも、馬鹿にしたような発言が腹立たしく感じる。
その話がルーシーに届いていない訳がない、いま王国はそのことでいろんな部門が大変なことになっている。
それは国を運営する側だけではなく……一般国民にも動揺が広がっていた。
国民には無用な心配をかけぬようにと、この情報には箝口令敢が敷かれていた。
だが、どこから情報が漏れたのか、自分や家族の命と資産を守ろうとその情報を得たもの達は王都だけではなくこの国から安全な土地へ移動しようとしている者たちも出てきた。

全員というわけにはいかないが、この国から逃げ出そうとしている者たちは関所でその行動を阻止されていた。




こんな様子で、いまこの情報を知る者で王国はパニックに陥っている。


王国側も、ただ黙って指を咥えて見ているわけではない。
防御の面や交渉のルート、亜人たちの情報を集めることに尽力していた。
その結果、今回ハルナたちが王国に入る際に、本来厳しい審査が比較的スムーズに行われた理由の一つだった。
”貢物”としてのドワーフの捕虜が、グラキース山に生息しているドワーフの群れの長であることが大きかった。

地下牢の中に空いた空間が多かったのは、王国側に忠誠を誓わせて交渉材料や相手の戦力の把握などに利用していた。
もちろん、その見返りも用意して。


だが、有益な情報は得られない……というよりも、モイスに対抗できる術が皆無だった。

あの山のドワーフたちは、モイスを信仰していると聞いていた。
しかもその長を捕まえたとなれば、今まで開けなかった扉を開けることもできると多くの者は期待していた。


だが、ルーシーはそれすらも無意味であると悟った。
そのドワーフたちもこの目の前の者たちが連れてきており、しかもその者たち自身もモイスに匹敵……いや、それ以上の力を持つ可能性が充分にあった。

さらには、この者たちは明確に王国側と敵対すると告げている。
この場で暴れないだけでも、せめてもの救いだとルーシーは自分を慰めた。


(……?)


そうした思考を巡らせる中で、ルーシーはあることに気付いた。
この考えは、戦況を好転させるとか相手を負かそうなどという類のものではない。
純粋に、ルーシーが不思議に思いついたことだった。


それは、なぜここまで手の込んだことをし、”王宮の中に侵入してきたのか”ということだった。


この者たちの力があれば、あのドワーフを生贄にせずともその圧倒的な力で王都の中に入ることもできたはず。
そうすることもしないで、この者たちにしてみれば”小細工”のようなことをしてまで、王都に入り込んだ理由が今のルーシーの中で最大の疑問だった。


ここまで不利な状況の中で、遠慮する必要はないと判断したルーシーは、自分の欲望を満たすためにこの疑問を二人に対して投げかけた。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...