799 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-26 別行動
しおりを挟む「やっ!!」
――カン!!
「うわっ!?ちょっとハルナ、なにすんのよ!!!」
「ご、ごめん!?」
ハルナが投げた鉄の矢は辛うじて前へ飛んだが、その矢の行方は制御不能で木に受け入れられず予期せぬ方向へと弾かれた。
その制御を失った鉄の塊の矢は、サヤの目の前を回転しながら通り抜けていった。
「……これ、結構難しいですね。うまく木に刺さったのはステイビルさんとサヤちゃんだけですし」
ステイビルはこの武器の検証のために、ハルナたちにその道具を使ってもらった。
それによって、相手の実力がどれほどの者かが見えてくるとステイビルは言った。
ハルナの言う通りに、うまく真っすぐ飛んで気にその矢が刺さったのはステイビルとサヤの二人だった。
ハルナは目標にあたったがソイに至っては、木に当てる事すらできずあらぬ方向へ矢は飛んで行っていた。
「そうだな……試してもらった通り、この武器を扱うには相当の熟練したものでなければあの男も仕留めることができないということだ。しかも、気配を断つことのできる暗殺者のような相手であると言えるだろう……すまないが、グラキース山までは危険が伴う、注意して行動してほしい」
「わかりました!」
ハルナだけがステイビルの言葉に対し返事をした、それは変わる前の世界でステイビルと行動していた癖が出てしまった。
ハルナは恥ずかしく思ったが、サヤとソイはそのことに対して何も思うことはなかったようだ。
こうして、一旦この問題はステイビルたちの中で収束させることにした。
そして再び馬車を目的地である、グラキース山のふもとを目指して進め始めた。
その間、これ以降特に問題が起きることなくステイビルたちはグラキース山が見えるところまで馬車を進めることができた。
その途中、本来の目的地であるソイランドへ材木を運んでもらうために他の仲間に荷物を託した。
併せて事情を説明し、食料などの物資を入れることもできたのは幸いだった。
グラキース山に近付くにつれ人と物の出入りが激しくなり、ステイビルは状況が悪化しているのではと推測した。
ジ・マグネル渓谷を過ぎ、そこから先へ進むには検問を通らなければならなかった。
「検問です!どうなさいますか、ステイビル様!?」
ステイビルは少し目を閉じて考え込み、一つの結論を導き出した。
「よし、私はここで馬車を降りよう。ハルナさんとサヤさんは、付いてきていただけますか?」
「あぁ、いいよ」
「はい、私は構いませんが……」
その言葉に動揺を見せたのは、ソイだけだった。
「す……ステイビル様!?な……なぜ!?私はどうすれば!?」
その言葉に対し、ステイビルは冷静に答える。
「馬車はこの先では通してもらえるとは考えにくい、王国関連の者であれば問題ないであろう。だが、一介の商人ならばこの先を通してもらえるとは考えられない。それにここから先は危険な場所でもある、護衛もなくこのような大きな馬車は亜人に狙われやすくするようなものだ。だから、お前はここからはモイスティアに戻ってくれ」
「し……しかし」
さらに食い下がってくるソイに、ステイビルは優しい瞳を向けて説得した。
「わかってくれ……これ以上、私のために犠牲を出したくないのだ。先ほどの鉄の矢の動きを見ても、お前はそういったものに向いていない……店のことやお前を頼りにしている者たちのためにも、お前はここで引き返せ……ここまで助かった」
ステイビルは小さい方の金貨の入った袋を取り出し、ソイに向かって差し出した。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる