上 下
798 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-25 見たことのない矢

しおりを挟む










「お……終わったのですか?」



そう言いながら、ソイは馬車の下からモソモソとその身を出してきた。





「あぁ……どうやら私は、襲われたらしいな」


「な……なんと!?」





そうして、ソイはステイビルの前で力なく倒れている男の額を見つめる。




「これは、どこから飛んできたのか……あまりの速さと気配が消えていたためコレを防ぐことができなかった」


「それ程の者なのですか?そいつは……ステイビル様でさえ防げなかった……と」


「そういうことになるだろうな……」


「まさか!?あの……」




そう言いかけたところで、森の奥からサヤとハルナが戻ってきた。
結局ハルナたちはその現場を見ることもできず、サヤが考えていた行動を取ることができなかった。



「はぁ、はぁ……一体何が……えっ!?」


「音がしなくなったと思ったら……もう終わってたんだね……ってこれ、二人でやったの?」





丁度、剣に付いていた汚れを紙で拭い腰の鞘に納めたところだった。




「……いや、全て私一人で”片付けた”」




サヤはこの様子を見て、納得する。
ここには生きている者は一人もおらず、ほとんど身体の一部が関節の弱いところから切り落とされていた。
ある者は首で絶命し、ある者は切り落とされた場所から大量の血が流れており身体の血が足りなくなっていったのだろうと、地面にできた”水たまり”をみてサヤはそう判断した。




「このもの達を道に捨てておくわけにもいかん。……森の中に移動させたい、手伝ってもらえるか?」





ハルナとステイビル、ソイとサヤのペアとなり、八体の遺体を森の少し奥に行ったところまで運んだ。
本来なら警備兵たちに言えば、処理をしてくれるところだ。
だが、敵とも味方ともわからない中、王国の人材の手を借りることは避けたかった。
それによって、自分のケジメを付けに行くことができなくなってしまうことを避けるために。




「これで良し。”精霊使い”がいればこの穢れた血を洗い流して欲しいところだが……今回は仕方がないな、雨が降るまで待つことにしよう……それでちょっと試してみたいのだが」




そういってステイビルは、ボスの額から抜いた鉄の矢を包みの中から取り出した。





「これが先ほど話した、私に気付かれずにボスだった男の息の根を止めた物だ。ここを見てくれ……」




鉄矢には羽が付いておらず、円柱状の先が尖っている形状だった。
少し何かを引っかける形状のようなものが反対側にあるが、それが何のために付いているのか判らなかった。





「ふーん……吹き矢にしては矢が重過ぎるね。これを吹き飛ばすにはよっぽどの肺活量か、そういう道具を用いないとダメなんじゃないか?」



サラはその鉄の矢を目にした感想を述べた。
だが、一つ気になる点があったが、それはハルナが口にしてくれた。



「でも……何かの道具を使って飛ばす矢じゃないかって思うんですよね……ほら、ここの窪みに」


「それが……何か……だな。これがわかれば、まだいると思われる敵の対策にもなるというものだが」


「あ、私わかったかもしれません。ちょっと貸していただけますか?」




そう告げたのはソイだった。
ソイはその矢を手にして、カバンの中から布の紐を取り出す。
手にした紐をくぼみに引っ掛けて、ハルナたちに危ないため離れるように告げる。
そしてクルクルと回しだし、鉄の重みの遠心力で回転はより一層早くなる……が途中でそれを止めた。




「……とここまではできたのですが、これをどうやって飛ばしたのかまではわかりません。うまく外せれば飛ぶのでしょうが、私にはそこまでの技術はないため……」


「確かに、これだと威力があるな」





ステイビルはそれを手に取り、同じことをする。
そして、両端を掴んで回していた布の片方を話すと、矢は勢いよく真っすぐ飛んで木の幹に突き刺さった。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

処理中です...