628 / 1,278
第五章 【魔神】
5-19 火の町での再会
しおりを挟む馬車が一定の進行速度で進む中、その正面には南国の町のような景色が見える。
それが、次の町フレイガルだった。
ソイランドを離れ、ここに来るまで王都に一度立ち寄った。
そこから、ここまで三日の時間が経過していた。
通常であれば、王都から火の町フレイガルまでは二日もあれば到着する。
途中で暴風雨に見舞われ、先に進むことを阻まれたことにより、足止めをされてしまったせいでもあった。
馬車の幌も飛ばされそうになり、近くに風除けになる建物もない。
ステイビルは仕方がなく、エレーナに頼んで一枚だけ大きな氷の壁を出してもらう。
だが、高密度の壁だと直接風量を壁に受けて倒れそうになる。
ハルナに頼んで風をコントロールしてもらおうとしたが、動く空気の量が多いためハルナやフウカの疲労がたまるためこの案も使えなかった。
結局モイスが微妙な元素のコントロールをみせ、ヴィーネを通じて風が通り抜ける穴の開いた氷の壁を作り風と雨の量を減らすことに成功した。
そこで半日ほど足を止め、嵐が通り過ぎるのを待った。
ハルナからモイスの力で異次元の空間に退避できないかという提案案もあったが、今の力でこの場にいるすべての物質量を転移させるのはできないとのことで、この方法で落ち着いたのだった。
反対に言えば、まだモイスの力はそれほど回復をしていないということになるのだった。
そこで親和性が高く、回復期に力を借りてその癖も把握している精霊のヴィーネと同期し力を使うこと方がモイスには楽に行えた。
その感覚を通じて、エレーナにも元素の扱い方はフィードバックされており、元素を取り込むエレーナにとっても決して無駄ではなかった。
その翌朝、嵐は収まり風はまだ吹いていたが雨もなく進めると判断した。
ステイビルは、急ぐことでまた何か問題があってはいけないと、朝食をとってから移動を開始することにした。
そして、いまヤシの木のような植物が、左右に並んで連なる道にでた。
マーホンが言うには、これがフレイガルへの正門へと続く道だという。
町の奥には、白い煙が上がっている。
そこが、誰も立ち入ることのできない場所の目印だと聞いていた。
「……にしても、暑いわね。馬車の窓を開けても、全っ然涼しくもないじゃない!?」
不機嫌がたっぷりと詰まった声で、エレーナはどうにもできない嘆きを口にする。
「夏みたいなところね……エアコンでもついてたらよかったのにね」
ハルナとエレーナだけでなく、マーホンもこれ以上脱いではいけないところまで衣服を外している。
そのことからも、男性とは別の馬車に乗ってもらっている。
こちらの馬車は、ソフィーネによって走らせている。
女性陣が多いメンバーのため、その馬車の中は定員超過の状態だ。
しかし、ハルナの先ほどの発案によってやや快適になっている。
エアコンという機械について、エレーナはハルナに問いかけた。
ハルナは冷たい風が出てくる機械ということは知っていたが、その仕組みまでは知らなかった。
しかし、冷たい風は二人の力で作ることができることに気付き、二人は協力することにした。
エレーナは氷を、ハルナは風を作ることによりこの空間内の気温はかなり快適になった。
そのことをサナは、”前を走る男性陣には申し訳ない”といった。
それに対し、マーホンは男性陣は女性以上に服装を軽くすることができますからといって、こちらの立場を正当化させた。
そうこうするうちに、馬車はフレイガルの正門前に到着する、
前の馬車の合図を受け、ハルナたちも服装を最低限の暑さに耐えられるほどに整えた。
そこからは、ソイランドの町に入ったときの苦労が嘘のようにスムーズに町の中に通された。
ステイビルたちは、フレイガルの宿泊施設に案内される。
ここは、王国が運営する宿泊施設であり、労を労うために用意されたものであった。
併せて、フレイガルの住民に労働の場を提供する意味も兼ねて王国の名のもとに運営されていた。
部屋は三つ用意された。
ブンデルを含めた男性陣、ハルナとエレーナ、ソフィーネとマーホンとサナの三部屋に分けられることになった。
ハルナたちの部屋に荷物が運ばれ、二人は備え付けのソファーに腰を掛けた。
それと同じに扉をたたく音が聞こえ、その相手がソフィーネかマーホンと思い、ハルナが入室の許可を出した。
「はーい、どうぞ!」
すると、入ってきた人物は予測していた以外の人物だった。
「ハルナさん!エレーナ様!フレイガルへようこそ!!」
「「――ソルベティさん!!」」
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる