629 / 1,278
第五章 【魔神】
5-20 落ち着かない食事
しおりを挟む「ハルナさん!エレーナ様!フレイガルへようこそ!!」
「「ソ――ソルベティさん!!」」
ハルナはソルベティと手を取り合い、その再会を喜ぶ。
王選が始まってから、ソルベティとは会う機会がなかった。
フレイガルの代表はルーシーだったため、ソルベティはフレイガルに戻って町のために働いていた。
「お二人もお元気そうで!」
「ソルベティ、あなたも元気そうでよかったわ!」
ソルベティの言葉に、エレーナが嬉しそうに返した。
「ついこの前のことなのに、随分と遠くのように思えますね」
「……そうですか?私の中では、ついこの前のままなんですよ?それだけお二人が、濃密な時間を過ごされたということなのでしょうね」
騒いだ声が聞こえて、両隣の部屋からハルナたちの元へ集まってきた。
「ステイビル王子……ご無沙汰しております。王子もお変わり……いえ、お元気そうで何よりです」
ソルベティはステイビルの姿を見て、片膝を床につけて再開の礼をする。
挨拶の言葉を途中で変えたのは、変わりなくでは何も成長が見られないと判断し、今の状態を見て問題なさそうなことを口にした。
「いい、頭を上げてくれ……ソルベティ。よく来てくれた、変わりはないか?」
「はい、ありがとうございます。王子」
ソルベティは、今まで見たことのないエルフとドワーフがいることに気付いた。
簡単に挨拶を交わし、お互いの自己紹介を終えた。
二人に協力を得ることになったいきさつを知り、王選の旅の過酷さと重要さを感じた。
そして頭の中には、自分の代わりに王選に同行している愚弟のことを思い浮かべる。
西の王国の時からは成長していることは、騎士団の見習いとしての位を受けたことでうかがえる。
つい最近までは、女性であるソルベティよりも剣の技術は低い弟だった。
最初は父親の後を追って剣の道に進もうとしたが、女性にはその道が用意されていないことを知ったときはショックを受けた。
実際にそこらの警備兵志願の者よりも、ソルベティの方が実力は上だった。
そこから道を変え、精霊使いという目標に向かっていくことになったが、運よく精霊と契約まで取り付けることができたのは幸運だった。
いまでも職業で剣を扱う者たちと技術では劣っていないが、性別の差で越えられない壁はあった。
筋量が多い相手では、単純に剣のやり取りでは負けてしまう。
だが、ソルベティには新しい力がある。
火の力と剣技を合わせることで、騎士団の下位の者には負けない実力があった。
その腕を見込まれ、ソルベティはいまフレイガルでも新しい仕事を与えられていた。
「ソルベティさん、今夜一緒に食事でも……どうですか?ステイビルさん」
ハルナの言葉に、ソルベティは遠慮する仕草を見せるがけっしてそれは本気ではない。
皆の視線が集まったステイビルは、問題ないと告げ今夜の夕食にソルベティも参加することが決まった。
ステイビル自身も、この町の情報をソルベティから聞きたいという思いがあった。
この施設には、食堂も設置されていた。
宿泊できる人数は三、四十名のため、食堂もそこまでは大きくはない。
ステイビルたちは、食堂のテーブルをつなぎ合わせ全員が一緒に食事ができるようにした。
勿論、施設側にも許可をもらっての上だった。
食堂とはいえ、やや上級なものたちが利用する施設のため、大衆食堂とは違った雰囲気を作り出している。
テーブルを合わせることで、その雰囲気を壊す可能性もあったが、王子の申し出に断われるはずがない。
静かな音楽が流れ始め、食事がテーブルに運ばれてくる。
それと同時に、ハルナたちしかいなかった食堂に人が集まり始める。
目立たない様にと食堂の端の位置でテーブルを確保していたが、食堂内での違う配置に自然と視線が集まってくる。
遠くでこちらをチラチラと見ながら、音楽の邪魔をしない様に小声で話しているのが聞こえる。
そして、ある高齢の者がとうとうステイビルの姿を見つけた。
そこから、ステイビルの席の前に行列ができる。
この場に居る王子に対し、挨拶をしなければという行列だった。
時間にして、おおよそ四十分。
挨拶だけでは終わらず、少しずつ話を積み重なっていった結果、こんなにも時間が経過してしまった。
お腹を空かせたエレーナも、これには文句を言うこともできない。
ようやく行列が終わりを迎え、ステイビルたちも落ち着いて食事ができる環境になる。
が、既に最初に出てきたスープは冷めており、発泡性の果実酒も炭酸が抜けてぬるくなっている。
途中、ウェイターが代わりの物を持ってきましょうかと提案してくれたが、結局挨拶が終わるまでは同じことになると断っていた。
食事が始まっても、周囲からチラチラと視線が送られてくる。
と同時に、聞き耳を立てている感覚が気になって本当に話したいことが話せず、美味しい料理の味も半減してしまっている。
結局その日は途中で食事を中断し、マーホンが卸している軽食ができる酒場に移動することにした。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる