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第四章 【ソイランド】
4-108 みつぎもの
しおりを挟む「……ナさま……ハルナ様!……大丈夫ですか!?……ハルナ様!!」
「え……あ……ここ……は」
心配そうに見つめるメリルの表情が、うっすら開らかれた視界から入ってくる。
メリルはハルナの両肩を掴み、覚醒させるために揺さぶっていた。
何故メリルが、こんなにも不安な表情で時分の事を見つめているのか……その理由が自分でもわかった気がした。
目から涙が流れ、頬までそれが伝っていた。
直前まで見ていた夢の内容を思い出し、いまだに胸が締め付けられるような苦しさがある。
が、それよりもハルナには、近くにいたメリルに確認したいことがあった。
「あの……わたし、何か言ってました?」
まず最初に確認したかったことは、無意識下で時分がなにか恥ずかしいことを言ってなかったかどうかだった。
メリルはハルナからの質問に対し誠実に答えた。
「わたくしはハルナ様が唸っている声で目が覚めました。苦しそうお顔をされていましたので、何度かお呼びしたのです。ですが、苦しそうな表情も改善されることがなく、もっと苦しそうな声を出されておりましたので……つい」
メリルはとても申し訳なさそうにしていた、それはハルナが自分がなれなかった王選の精霊使いである者に対して行ってよかった行動ではなかったのではないかという思いから来ていたようだった。
それと合わせて、自分を救出してくれたことによりハルナに付き添っているソフィーネという女性が捕まってしまったことにも責任を感じている様子だった。
それに関しては出発する前に、これはステイビル王子が考えた作戦でありその責任はステイビルにあると何度も説明をしている。
さらにはソフィーネが捕まったことに関しては、自分の油断が原因かまた別の目的があると考えがあるのだろうとメイヤは言った。
ハルナも油断か目的かといえば、後者の可能性が高いと判断する。
あのソフィーネが、そんなに簡単に敵につかまるようなことはないと知っている。
そう言われても、ソフィーネの実力を知らないメリルにとっては二人の安心に共感できないのも確かだろう。
ハルナは自分に対しての対応は問題がなかったことと、そんなに気を遣う人物でもないことを伝えた。
そしてもう一度――自分が騒いでしまったことの原因ではあるが――ソフィーネの件に関しては何らかの意図がある可能性が高いためそこまで気にしなくてもいいと説明をした。
すると、御者台に座っているメイヤが小窓を開け、後ろの二人に声をかける。
砂丘を超え、その下に町のようなものが見えたという。その場所こそがガラヌコアだった。
ブロックを積み、外壁を塗装で塗って創った建物が五件ほど見える。
それに東の空からは太陽が昇り始めている、べラルドがいた場所からは二時間ほど移動していた。
人の足であれば、もっと時間がかかっていただろう。砂場に慣れていないハルナや、体力が完全ではないメリルの足では太陽が昇り切った後になっていた。
その町は、塀などの囲いがなく誰でも出入りできるような状況だった。
だがどんな旅人も、この町を目指したり近寄ったりするものはいない。
自分の荷物や財産だけでなく、家族や仲間の命でさえ持っていかれる可能性が高い。
そのため、外に見張りを立てることもなく、普通の町を装っていた。
「どうします?ここに馬車を置いて近づきますか?」
ハルナは、べラルド襲撃の時と同じ作戦で行くのかとメイヤに聞く。
「いいえ……このまま進んでいきましょう。もし、誰かに止められた際は、お二人には申し訳ございませんが”貢物”のふりでもしていてくださいね」
メイヤはにっこりと笑い、緊張を解そうとする。
「お任せください、メイヤ様。つい先ほどまで、捕らわれの身でしたのでその役目ぴったりです……見事にその役目、演じてみせますわ!」
「め……メリルさん!?」
少し自虐的な物の言い方に、ハルナはまだ気にしているのではないかとメリルに声をかける。
「ふふふ。大丈夫です、ハルナ様。もう気にすることは何一つありませんので、あとは仕事をこなすことに集中するだけです。無事にハルナ様をお守りしてみせますのでご安心ください」
「もう……よろしくお願いしますね!?」
ハルナの表情は、少し怒ったふりをし、すぐに笑顔に変わる。
そのタイミングで、メリルも笑って見せた。
「それでは、この丘を下ります。お気を付けください」
メイヤの言葉に、ハルナもメリルも頷いて返事をした。
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