問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

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第四章  【ソイランド】

4-107 うたたね

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馬車は車輪の代わりに板のついたものに取り替えられた。
砂漠の中を走るには車輪では、砂に沈んでしまいまともに進むことができない。
スキー板のような板が前方の中心と後方の左右につけられており、まさに滑るように進んでいく仕組みの馬車だった。
馬とつなぐ部分は固い棒でできており、三頭の馬をつなぐようになっている。

車輪のものに比べて、速度は遅い。
三頭もつなげているのは、速度を出すためではなく足場の悪い砂地を走らせるための動力を考慮して。
上り下りが多い砂漠の丘は、馬への負担も少なくない、だが人の足で歩くよりは移動速度速い。
何より疲労がない、ハルナの前で横になって眠っているメリル姿がある。


ある程度動けていたとはいえ、ずっと牢のなかに一年近くもの間閉じ込められていたため身体がまだ追い付いていないと判断し、メイヤが休むように指示をした。
メリルはいま、こそ目を閉じて眠っているが、ほんの数分前までハルナと話をしていた。
その話の内容は、ハルナの今までの過ごした時間の話だった。

初めは二人の共通の人物であるステイビルの話を持ち掛け、自分の知らなかった間のステイビルのことを聞ければいいと軽い気持ちでこの話題を投げかけた。
だが、メリルはステイビルよりも目の前のハルナに移っていった。
ハルナは別の世界から来たという内容に、興味の全てが注がれることになった。

初めはその内容を疑ってかかったメリルだが、ハルナが向こうの世界を説明するためにこちらの世界にない機器の説明をした。
スマートフォン、車、エアコン、マンション、電車、テレビ、電話、パソコン……メリルが生きた中で今まで聞いたことのないような品々。

形状、操作方法など、具体的な話を耳にすると、それらのことが思いついた嘘とは思えなかった。
生活様式、人種、宗教、法律など様々な違いはあるが、この世界と生きている人間とはあまり差がないこともメリルには興味深かった。
この一件が落ち着いたら、もっとゆっくりと話を聞きたいと思うメリルだった。

だが、そろそろ休んで体力を回復させた方がよいとずっと手綱を握るメイヤに言われてメリルはその指示に従った。
鍛え方が違うとはいえ、今の状況で無理をしているのはメイヤだった。
ハルナも、ここに来るまでに相当体力を使っているはずで、ハルナの休憩時間でもあるこの時間を無駄にしないようにと考えメリルは横になって身体を休めることにした。
目をつぶった初めは、ハルナの話の内容が頭の中が占められ眠気を感じなかったが、今までにないほどの安心感により頭が眠りを欲していたため、目を閉じて十分弱でメリルは眠りの中に落ちていった。


ハルナも椅子に座った状態だが、真夜中の移動と襲撃の緊張感によって心身は疲れていた。
ソフィーネのことも心配ではあるが、それ以上に肉体の疲労が休みを欲していた。

いつの間にかハルナも、眠りの中に落ちて行っていた。







「……ねぇ……はる姉……きて……起きてってば、もう!」


ハルナは肩を揺らされ、深い眠りから呼び戻された。
呼び戻した人物は、当たり前のような懐かしいような……そんな感覚を持つ妹の風香だった。



陽菜は、妹の風香といっしょに、山手線の電車の中に座っていた。
風香に付き合って買い物のに出かけた帰り、疲れてしまって眠っていたのだろう。


「ん、ごめんふーちゃん。私、寝てたみたいね……ここどこ?もうすぐ降りる?」


「そうよ、私、渋谷に用事があるから寄って帰るっていったでしょ?はる姉ちゃんはどうするの?」


「え?……私何か用事があったような……なんだっけ?重要な用事だったような……」



そういう間に、陽菜と風香の乗せた電車は減速していく。
社内のアナウンスは駅の到着と乗り換えの案内を告げている。




「それじゃあ先に帰ってる?私、もう一人でも大丈夫だよ」


「え?あんなに一人で電車に乗るのにも怖がってたのに!?」


「私だっていつまでも子供じゃないんだよ!電車だって一人で乗れるし、お使いだって一人で行けるようになったんだよ!」


「あらぁ……いつの間に……お姉ちゃん嬉しいけど、ちょっと寂しいわね……」


「へへっ!すごいでしょ!」


「うん、すごいわー!でも風ちゃんがしっかりしてくれてうれしいな!」




電車が止まり、ドアが開きほかの乗客が降りていく。
ホームからは間もなくドアが閉まるアナウンスが流れ、降りた風香が窓に向かって座る陽菜に手を振る。

そしてドアが閉まり、外の音が遮断される。



「……!」



風香は何か陽菜に向かって言っているが、もうドアが閉まっているため聞こえない。



「え?なに?どうしたの?」



手を振る風香の目には、涙が浮かんでいてハルナに向かって一生懸命に手を振る。



「風ちゃん!風香!!」



陽菜は窓に張り付いて、妹の名を叫ぶ。
そしてゆっくりと電車は走り出し、風香の姿は不安をのこしたまま窓の枠の外に消えていった。







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