475 / 1,278
第四章 【ソイランド】
4-21 否定
しおりを挟む「私……」
ハルナが何かを言おうとしたが、ユウタはその内容が自分にとっては良くない内容と感じとりその言葉を塞ぐ。
「すぐにとは……いや、一晩だけ待つよ。もし、一緒に逃げてくれる気があるなら明日の日が落ちるまでに、ここに来て欲しい。もし来なかったときは……」
「もし……来なかった……時は?」
「そのときは、もうこの世に未練はないよ……最後にハルナさんに会えたんだ」
「それって……」
ユウタはにっこりとハルナに微笑む、やはりどこか昔の面影が残る表情だ。
丁度タイミングよく、チェイルが入って部屋に入ってきた。
時間が掛かり、エレーナが心配しているという。
「それじゃ、待ってるからね……ハルナさん」
そういって、ユウタはハルナの姿を扉の向こうに見送った。
「ふふふ……あんたも悪い男だね」
ユウタに小柄な女性が声を掛け、背後から優しく首元から抱きしめる。
女性はやや膨らみかけている胸を、ユウタの背中に押し付けて男の欲望を刺激しようとした。
「やめてくれ……そんな気分じゃないんだ」
ユウタは抱きつかれた手を解くことはせず、言葉だけでその行為を拒否する。
「なに格好つけてんの?ハルナが本当のアンタのこと知ったら……どう思うだろうねぇ?」
「う……」
女性はユウタの汚れた身体を嫌がりもせず、下腹部を意地悪にまさぐる。
何とか必死に抵抗しようとするが、身体の反応は正直だった。
「と……とにかく、お前たちの言う通りにしたんだ。ちゃんと他の町の中で暮らせるようにしてくれるんだろうな!」
「もちろんさ……お母様にもお願いしておいてやるからさ。あと少し、頼んだよ『お・と・う・さ・ま』」
「で、どうだったの?本人だった?」
「え?……あ、うん!本人だった……と、思うけど」
「どうしたの?うれしくないの?探していた同郷の人だったんでしょ?」
「どうした?……あの中で、何かあったのか?」
ステイビルの心配した声に、ハルナは正直に答えた。
ユウタに起きた今までの出来事と、明日の日没までに来ない場合は自身の命を絶つということも。
「ハルナの同じ世界の人に対して……申し訳ないと思うけど、どう考えても……罠っぽくない?それ」
「うん……でも、あの人はユウタさん本人のような気がするし、何の罠かも思い当たるところもないのよ」
「あるとすれば、いま追っている組織の罠でしょうね」
ソフィーネが各自の前にお茶を配りながら、考えられることを告げた。
エレーナもアルベルトも、その考えの可能性もあると頷いて見せた。
ハルナたちは栄えた町の方へ戻り、宿屋を手配して身体を休める。
正体は隠したまま、旅人ということで宿には記帳している。
モイスに当時の状況を聞いても、魔物気配はするがどこにいるかまではあの状態では探すことはできなかったという。
だが、チェイルと同じ種類の臭いの付いた魔の匂いをユウタから感じ取っていた。
そこからも、ユウタが何らかの理由で魔物と接触している可能性は高いとこの場は結論付けられた。
ブンデルは、ユウタのことは見捨てて本来の目的のために動いた方がいいと告げた。
一瞬冷たいとも考えたが、その意見ももっともだった。
本来の目的は、王選ではあるが徐々に活発化している魔物と闇のギルドの解明も重要である。
やることが多い中で、どうしようもないことに時間を割くことはできない。
「……それに、そいつは昔の自分と同じニオイがして……何だか……その、嫌な気分になるんだ」
「ブンデルさん……」
サナが、ブンデルの肩に手を置いて心の痛みに寄り添う。
ハルナからユウタの話を聞いていると、何かから逃げようとしている堕落していた情けない昔の自分を思い出してしまっていた。
ユウタからも同じように、”楽をして何かから逃げようとしている……”そういう感じがうけてとれた。
「だが、ブンデルの言う通りかもしれないな。我々はいま、”そんな”人間に構っている余裕はないのだ……」
「しかし……モイス様のおっしゃる”魔物の気配”も気になりますね」
サナが、ハルナの気持ちを汲んでユウタのことも考慮するルートを提案する。
「ハルナ……お前はどうしたい?お前の考えを聞かせてもらおうか」
「私は……ユウタさんを……助けてあげたい」
その言葉にショックを受けたのは、ステイビルだった。
そして、言いたくない一番言いたくはなかった言葉を確認する。
「その、ユウタっていう男……ハルナのこと……ス……す、好きなのではないのか!?」
何の気もない感情で伝えるはずの言葉の部分で吃ってしまい、ステイビルの心拍数はやや高くなったのを自分の身体の中で感じる。
「え?……それはないでしょ!?」
ハルナは、ステイビルの言葉を否定した。
その感情は、気付いているものを抑え込んだようなものではなく本気の否定だった。
ステイビルはその言葉に、なんとなくほっと息が抜けていってしまった。
エレーナ、アルベルトやソフィーネは、ステイビルの感情に気付き可哀想な視線を送る。
その視線に気付いたステイビルは、”ゴホン”と一つ咳ばらいをし耳を真っ赤に染めた。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる