337 / 1,278
第三章 【王国史】
3-169 不幸中の幸い
しおりを挟む火事は水が不足している村に対して、エレーナとヴィーネが協力し燃え移る火を食い止めた。
その際村民は、火がさらに拡大しない様に近隣の家を崩し、被害を食い止める努力をした。
長年住んでいた家を何の被害も起きていない家を崩すことには抵抗があっただろう。
そこはステイビルがゾンデルからサイロンに指示をしてもらい、被害の拡大を阻止することを命令してもらったのだ。
まだ、村長としての命令は村人たちにとっては有効だった。
事の騒動を知らない村人も多く、こういった不満の出そうな緊急時の対応は権力を持つ者からの絶対的な命令が有効であるとステイビルは判断した。
村長の協力もあって、被害は村のおおよそ三割程度の被害で収まった。
それ以上に、村の中に侵入されたことの衝撃の方が村人には大きかったようだ。
魔法を解除した途端に、攻め込まれてしまった。
今まで魔法によって外界と接することがなかった村人にとっては、守るものを外してしまったことによる不安感にとらわれていた。
翌朝、村人たちが被害のあった場所を片付けを開始した。
中には、その惨状に泣き出してしまう者もいた。
だが、犠牲者がいなかったことは不幸中の幸いだと思った。
生きていれば何とかなる……ましてや、エルフは人間の寿命などほんの一瞬の出来事。
ハルナはそんな考えを頭に浮かべながら、ゾンデルとナルメルの後ろに付いて村の中を歩いて行く。
家のがれきを片付けていたあるエルフが、ブンデルのこと指をさして隣のエルフに話しかけている。
そして、話しかけられたエルフはブンデルの傍に近付いてきた。
「昨夜はうちの娘を助けていただいたそうで……本当にありがとうございました」
「え、いや……私は何も……」
本当に助けたのはソフィーネだったが、この子の親は引き渡されたエルフから”知らないエルフとドワーフが連れ出してくれた”と聞いていた。
何度も何度も頭を下げて、お礼を言う親にブンデルは困惑する。
サナはブンデルの背中を”ポン”と叩き、そのエルフに応えるように促した。
「アァ……無事で、何よりでしたね!」
相手のエルフは、お礼が伝わったと喜びブンデルの手を取ってさらに感謝の言葉を告げる。
「どちらの村の方か存じあげませんが、そちらでも相当腕の立つお方だったのでは?……ともかく、娘を助けていただきありがとうございました!!」
そう告げると、そのエルフはまたがれきの撤去する作業に戻っていった。
ブンデルはその言葉を聞き、少し寂しくなった。
この村の出身であることが、わかってもらえなかった。
隔離されていたので、当然なことなのだが自分の存在が知られていなかったことが悲しかった。
その様子を見て、サナはブンデルの袖をそっと掴む。
それに気付いて、ブンデルはサナの顔を見て平気を装い笑顔で返した。
昨夜の状況を確認したハルナたちは、再び村長の屋敷の中に戻ってきた。
入り口にはマルスが出迎え、ゾンデルに確認をする。
「……村の様子は、いかがでしたか?」
「あぁ……酷いものだ。だが、あの程度で済んでよかった。幸いなことに、犠牲者もいなかったようだからな」
ゾンデルもステイビルと同じような判断をしていた。
「それで、サイロン……いや、村長の様子は?」
昨夜、村人に指示を出すように依頼するときのサイロンは、度重なって起こるアクシデントに精神が耐えきれなくなっており、事実から逃げ惑い取り乱していた。
そのことを必死にゾンデルが説得し伝える言葉や態度まで指導し、そのまま伝えるようにすることで納得をさせた。
――コンコン
「……失礼いたします、村長」
返事がないことはわかっていたため、マルスは一応断ってから村長の部屋のドアを開ける。
ステイビルの目に入ってきたものは、ついこの前まで威勢の良いエルフではなく魂が抜けて生きているか死んでいるか分からないようなエルフが椅子に背もたれて、焦点の合わない目でただ空間を見ていた。
ここから、村を立て直さなければならない……だが、サイロンには既にその気力も意欲も失われていた。
「どうした、サイロン。今こそ村長のお前が先頭に立って……」
そのゾンデルの言葉を聞いたサイロンが、顔だけをゾンデルに向ける。
そして、擦れた声で途切れ途切れにゾンデルに話す。
「……れ……は……もう……疲れ……た……あと……は……頼む……ゾン……デル」
「おい、何を言ってるんだ!?お前がやらなければ……みんなを助けなければならないんだろうが!!」
ゾンデルは身体に力の入っていないサイロンの両肩を掴み、揺さぶって発破をかける。
だが、そこには全く手ごたえを感じなかった。
とはいえ決定権を持つ村長がこのままの状態だと、村の再起に大きな問題となる。
そこでステイビルは、村長が病気にかかったことにしてその周りの者が代理で業務を行うという方法を提案した。
勿論乗っ取りと思われない様に、全て村長の指示であることにする。
それを聞いたゾンデルはその案を受け入れて、サイロンにその方法で村人に指示を行っていくと説明した。
サイロンは、内容を理解したかどうかは分からないが、自分は何もしなくていいということを約束しその内容を承諾した。
そして村人には体調の悪い村長からゆだねられたとゾンデルの指示の元、村の復興が行われていった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。
トロ猫
ファンタジー
2026.3月上旬 文庫1巻刊行
2026.2下旬 コミカライズ3巻刊行
寺崎美里亜は異世界転生をするが、5ヶ月で教会の前に捨てられてしまう。
しかも、寒い中、誰も通らないところに……
あー、詰んだ
と思っていたら、後に宿屋を営む夫婦に拾われミリアナという名前を授けてもらう。
ありがたいことに魔法はチート級だ! こ、これは、大好きな家族、それからお菓子や食べ物のために使います!
でも、思ったより異世界の食事事情は厳しい……これはミリアナが楽しく生きながら奮闘する話。
2025.4月下旬6巻刊行
2025.2月下旬コミックス2巻刊行
2024.7月下旬5巻刊行
2024.6月下旬コミックス1巻刊行
2024.1月下旬4巻刊行
2023.12.19 コミカライズ連載スタート
2023.9月下旬三巻刊行
2023.3月30日二巻刊行
2022.11月30日一巻刊行
コメント欄を解放しました。
誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。
書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。
出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる