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第三章  【王国史】

3-112 互いの気持ち

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3-112 互いの気持ち







「それじゃ、俺は……」


「はい、ブンデルさん。サナをよろしくお願いします」




イナとニナが、ブンデルに対して深々と頭を下げた。








「これは……」


「責任重大ですね、ブンデルさん!」






エレーナとハルナが、ブンデルを冷やかす。







……ドタっ





「ブンデルさん!?ブンデルさーん!!」







サナが必死になって、その名を呼ぶ。
ブンデルは、緊張の糸が切れたのか失神してその場に倒れ込んだ。










沈み込んでいた意識が暗闇の中からゆっくりと、水の中の気泡のように浮かび上がっていく。

ゆっくりと目を開けると、真っ暗な闇の中が続いている。



ブンデルは、身体を動かしてみた。
一応動かしている感覚があり、両手を顔に当ててもその触角が頭の中に伝わってくる。


頭に敷いているものがとても柔らかいが、期待していたサナの膝の上ではなさそうだった。
長老の広間で意識をなくし、そこからこの場所へ運ばれたのだと察した。

どうやらベットの上にいるらしく、身体の上には薄い毛布が掛けられていた。



ブンデルはゆっくりと上半身を起こし、ベットの上に座った。
辺りを見回すが、真っ暗で何も見えない。






「……こ、ここは?」






手探りで毛布をずらし、ベットの端に腰かけようとしたその時。
ドアの下の方から明かりが漏れた。



そしてドアが開けられると、暗闇に慣れた目には少々きつい逆光で映る小さなドワーフの影が見えた。






「あ、目が覚めたのですね?お身体の具合はいかがですか……」





それは、ちょっと期待していた女性の声だった。






「あぁ、サナ……さん。もう、大丈夫です。こ、ここは?」







サナは手に持っていた水の入った水差し乗っているお盆を、ベットの近くのテーブルに置いてブンデルの足元の近くのベットの端に腰を下ろした。







「もぅ、さっきみたいに、”サナ”でいいんですよブンデルさん。……はい、お水です」








そういって、サナはグラスに注いだ水をまだボーっとした顔をするブンデルに手渡した。
ブンデルは、お礼を言ってそのグラスを受け取った。

覚醒したばかりで火照った身体に、飲み込んだ水の冷たさが体中に染み渡る。







「ふぅ。ありがとう……ございます」








ブンデルはゆっくりと時間をかけて飲み干したグラスを、手を差し出してきたサナに手渡した。








「もう一杯、いかがですか?」


「いや、もう大丈夫です。ありが……とう」






ブンデルはなぜか、まともにサナの顔を見ることができなくなってしまっていた。

それでもサナは、ブンデルに優しい微笑みを送り続けていた。




「あ、あの。サナさん……」


「はい、なんでしょう?」







「あなたは……どうして……そんなに……私の……ことを?」





ブンデルは、恐る恐るサナに確認をした。








――自分になぜそこまでしてくれるのか?






何もできない、頭が良いわけではない、強いわけでもない、格好が良いわけでは決してない。







――俺のことを騙そうとしている?






いや、そんなことをしてこのドワーフに何のメリットがあるというのだ?





――自分の思い込み?





それもあるだろうが、それ以上に親切にしてくれているように思える。




ブンデルには、慕われる理由が全く思いつかない。

昨晩いろいろと考えてみたが、結論を導き出すことはできなかった。







今なら周りに誰もいない……
それに扉から入ってくる光だけの薄暗い状況が、普段が言えないようなことも話すことができる雰囲気を作り出していた。




ブンデルはその状況の力を借りて、一番聞き辛く、一番聞きたかったことをサナに問いかけた。







その言葉を聞き、サナの顔はキョトンとしている。


ブンデルはそのサナの表情を見て、顔から血の気が薄れていった。






(……マズい!これは、”勘違い”パターンだ!?)






ブンデルは慌てて横を向き、サナの視線を避けた。






「いや……サナ……さん……なんでもな……もがっ!?」






横を向いたブンデルの顔が、サナの両手によって再びサナの方へ強制的に向きを変えられた。







「ブンデルさん……ブンデルさんは、自分のことを大したことないと思っているようですが、そうではありませんよ?どんなに頭の良い者でも、腕の立つ者でも誰かのために身を投げ出せる人なんて、そんな人そうそういません」






ブンデルは、まっすぐに見つめてくるサナ瞳に吸い込まれるように見入っている。








「……では、あなたはなぜあの時わたしのことを身を庇ってまで助けてくれたのですか?」


「え?いや……あの時は……本当は……逃げ出そうと……でも……身体が勝手に」







その言葉を聞き、サナはブンデルの両頬を挟んでいた手を離しブンデルの手を取った。







「そういことをできる人が、いないんですよ……ブンデルさん。私は、あなたのそういうところに惹かれたんです。でも、その見立ては間違いじゃなかったと今でも思っています。さっきの件でも、必死になって私のことを庇ってくれましたね……誰も味方がいないと思っていた中で……本当に嬉しかったんですよ?」





そう言いつつ、うつむいたサナの頬はほんのり赤に染まる。








「ブンデルさんは……私のこと……どう……思ってますか?」


「え!?……そりゃ、悪い感じは……しないです……よ?」


「本当ですか!?……嬉しい」







サナはブンデルの手を握ったまま、自分の胸に手を当てる。







「ブンデルさん……」


「サナ……」






ブンデルとサナは目を閉じて、自然と顔が近付いて行く。
そして、逆光で映し出された影が一つに重なっていった。







「えっと……ブンデルさん。お腹空きませんか?……もう向こうでみんな食事を採っていますよ」



「あ、あぁ。じゃあ、案内してもらおうかな……はは」








二人は照れを隠しながら、一緒に皆がいる食堂へ向かっていった。






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