上 下
253 / 1,278
第三章  【王国史】

3-84 三つ子のドワーフ

しおりを挟む







「時間切れです」



長老は砂時計を指し、砂が落ち切っていることを伝えた。





「え?嘘……間に合わなかったの?」





エレーナは胸の前で祈るように両手を組んだまま、長老の声に反応した。




アルベルトは、首元に当てた刀を外し前に回りグレイのに起き上がるように手を差し出した。
グレイは、何の迷いもなくその手を取り、アルベルトに助けを借りながら立ち上がった。



先程声をかけた長老の一人が、上の間から下へと降りてきた。

そして、砂時計の横に立ち、今の結果を告げる。


「残念ですが、砂が全て落ち切った後に勝負が決まりましたね。この勝負の条件、覚えておりますか?」




「砂時計が落ち切る前に……でしたか」




ステイビルが長老の問いに答えた。



「その通りです。ですからこの勝負は、我々のか……」



「お待ちください、”サナ”様。よく砂時計をご覧ください……」




「――?」





勝ちを宣言しようとしたところ、ワイトにその言葉を遮られた。
そして、言われた通りに砂時計を覗き込んだ。






「ま、まさか。これ……!?」




サナの目には、落ちる手前で数粒の砂が引っ掛かっているのが見えた。





「そうです、我々の負けですね!グレイはどうだ?」





ワイトは嬉しそうに笑い、つい先ほどまでアルベルトの強さを体感していたグレイに確認する。





「あぁ、この者たちの勝利だ。これは、間違いようがない事実だ」





そう言って、アルベルトの肩をバンバンと叩いて勝利を称えていた。








「わかりました……それでは、この勝負決着としましょう」



「お姉様!?」




「サナ。もういいのよ、どう見てもワイトとグレイの負けだわ。あなたも本当は、そう思ってるんでしょ?」


「で、でも……」






長老が向こうで言い争いをしているところから離れてみていたジュンテイは、アルベルトの強さに驚きつつ近付く。





「やはり、俺の目に狂いはなかった。うまくその長い刀、使いこなせたな!」



「慣れてくれば、扱いやすい剣でした。こちらの意思を汲み取ってくれるよい剣です。それに、調整が良く思い通りの軌道で反応してくれました、有難うございます」





アルベルトは、この刀を自分のために調整してくれたジュンテイに礼を伝えた。
言われたジュンテイは、鼻の下をこすりながら照れをみせる。







「では、こちらとの話し合いに応じて頂けるということでよろしいでしょうか」





ステイビルは、まだ上の方で話し合いを行っている長老たちに声をかけた。
その声に気付いて、一斉にステイビルの顔を見る。





「お前たちも、素直にこいつらのことを認めたらどうだ?こいつらの実力はわかっただろ?」



「ジュンテイさん……」




サナはまだ、納得がいかない顔をしているがこれ以上は姉たちに任せると伝えてこちらに背中を向けた。
どうやら、性格は相当負けず嫌いな性格のようだ。






「それでは、別な場所にご案内します。こちらへ」



ワイトがステイビルたちとジュンテイも併せて別の部屋へ通された。

会議室のような場所で、熱い扉の向こうは長いテーブルが一つと周りに椅子が並べられていた。
そのデザインは、さすがドワーフといった手の込んだデザインになっている。
椅子もテーブルも木の素材でできており、温かさと洗練されたデザインがぶつかることなく生かされていた。




ハルナたちが席に腰かけると、メイド服を着たドワーフがお茶を中に運んできた。

ぽっちゃりとしたドワーフらしい体格とメイド服のヒラヒラがマッチして、ドワーフの可愛らしさを引き立てている。



「ど、どうぞ……」



ニヤニヤ顔をなるべく抑えようとするハルナとエレーナの顔はひきつってしまいお茶を運んでくれたドワーフを怯えさせてしまっていた。





「……お待たせしました」




奥の扉が開いて、先ほどまで上から見下ろしていた三人のドワーフが入ってきた。

よく見るとその顔はまだ若く、三人とも同じ顔をしていた。



「……み、三つ子!?」



思わずエレーナが声に出してしまった。


長老たちはその言葉を受け流し、静かに席に付いた。





「お待たせしました。お話しに入る前に、まずはこちらの自己紹介をいたしましょう」




そう言って座っていた長老が席を立ち、手を胸に当てて自己紹介をした。



「私の名前は、”イナ”ともうします。ドワーフ三長老の長女です。お気付きの通り、私たちは三つ子の三姉妹です。そして、こちららが、次女の”ニナ”、そしてこちらが三女の”サナ”です」


紹介されたニナはハルナたちに向かって軽く頭を下げたが、サナは冷たい視線でこちらを睨んでいた。





「ゴホン……こちらが、今現在ドワーフの町を治めております三長老の方々です」



申し訳なさそうに、グレイが話しをつないだ。




「改めまして。私は東の国のステイビル・エンテリア・ブランビートと申します。こちらが、精霊使いのエレーナとハルナです。そして、その付き添いのアルベルトとソフィーネです」




紹介されたハルナたちは、三長老に向けて頭を下げる。





「それじゃ、時間も勿体ねぇ。アルベルト達の話し、聞かせてもらおうか……」





ジュンテイの言葉で、ドワーフとの交渉がようやく開始されることになった。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

処理中です...